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死んでたまるか!

 学園長(ルルナの母親)にルルナの兄として認めてもらったのはいいが、これから俺、どうなるんだ?

 そんなことを考えながら、俺は赤いカーペット?が床全体に敷かれた学園の廊下を銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ』と共に、歩いていた。

 俺の名前は『田村たむら 健二けんじ』。異世界からやってきたルルナにルルナのいる世界、つまり俺が今いる世界を支配している魔王を倒す存在として、ルルナに連れてこられた。(一時的に)

 まあ、『兄妹契約』を結ぶために全身の血を一度、ルルナに吸われた身ではあるが、こうして普通に生きている。

 まったく、異世界ってのはなんでもありなのかよ。不可能を可能にできるんなら、魔王もその力でどうにかできないんですかね?

 俺がそんなことを考えながら廊下を歩いていると、ルルナが俺の目の前に両手を広げながら、立ち塞がった。


「どうしたんだ? ルルナ。これからどっかに行くんじゃないのか?」


 ルルナは俺の目をジト目でじーっと見ながら、こう言った。


「ねえ、お兄ちゃん。一つ確認したいことがあるんだけどいいかな?」


 いきなり何なんだ? まあ、断ったら後で面倒なことになるから、ここはイエスだな……。


「ああ、いいぞ」


「ありがとう、お兄ちゃん。それじゃあ、くけど、お兄ちゃんはシスコンなんだよね?」


「あ、あれは学園長……お前の母親の前ではそう言うしかなかったんだよ!」


「でも、お兄ちゃんは私という妹……つまり家族ができたから、その温もりを自分のものにしたいと思ってるんだよね?」


「ま、まあ、交通事故で両親を亡くしている俺にとっては、家族ってのは大切な存在だって人一倍思ってるけど……だからって俺がシスコンだって理由にはならないだろ!」


「ふーん、そうなんだ。でもね、お兄ちゃん。今、私のどこを見てるの?」


「どこって、お前の目をしっかり見て……」


「そう……お兄ちゃんは私の目を見ている。自分ではそう思ってるんだね」


「ああ、そうだ。何か間違ってるか?」


「はあ……お母さんがお兄ちゃんのことを無自覚のシスコンだって言ってたけど、本当にそうだったとはね……」


「ど、どういうことだ? 説明しろ!」


 ルルナは俺に接近してくると、耳元でこう囁いた。


「お兄ちゃんが今まで見てた場所はね……私の……口なんだよ?」


「……!」


 ルルナは俺から少し離れると、少し恥ずかしそうにこちらをチラ見し始めた。


「お、おいおい、ルルナ。冗談はやめてくれよ。俺はお前の口なんか一切見てな……」


 その時、俺は学園長室を出てから、ここまで歩いてくるまでの間の記憶を逆再生した。

 すると、俺がずっとルルナの口……つまりくちびるを見ていたことが判明した。

 俺は無意識にルルナのいい感じにぷっくりと膨れた薄ピンク色のくちびるをずっと見ていたのだ。

 どうしてなのかは分からない。けど、これだけは分かる。それは……俺が無意識のうちにシスコンになってしまったということだ……。


「お兄ちゃんは、私のことが大好きだから、ずーっと私の口ばっかり見てたんだよね?」


「え、い、いや、断じてそんなことは……」


「……え? 違うの?」


 や、やめろ。そんな潤んだ瞳で俺を見るな。捨てられた子犬のような瞳で俺を……見るな……。

 俺が混乱しかけていると、ルルナが。


「もう、お兄ちゃんったら、そんなに私のことが好きなんだねー。だったら、そんなお兄ちゃんのために一つ提案! それはね……普段から私と手を繋いじゃおうー! ……ってやつだよー」


「は、はあ? なんだそりゃ?」


「だーかーらー、お兄ちゃんがこれ以上、無意識のうちに私の体をジロジロ見るのを防ぐために、常日頃から私と手を繋いでおこうってことー」


「おー、それは名案……なのか?」


「名案だよー! そうしないとお兄ちゃんは、よその妹にまでそういうことをやりだすかもしれないよー? それでもいいのー?」


「……うーん、まあ、そうならないようにするのなら、ルルナの手を握っておいた方がいい……のかもな」


「でしょ、でしょー! なら、早速やってみようよー! それっ! ギュー!!」


 ルルナは俺の左側に移動すると、俺の左手を握ってきた。


「ちょっ、いきなり握るなよ。びっくりした……」


「あれー? もしかして、今のでドキッとしちゃったのー?」


「そ、そんなわけないだろう! ほら、とっとと行くぞ! 行くとこがあるんだろ!」


「あっ、いきなり引っ張らないでよー。いくら妹でも、女の子には変わりないんだから、乱暴しちゃダメだよー」


「わ、分かってるって。ほら、行くぞ」


「うん!」


 こうして俺たちは、学園の廊下を再び一緒に歩き始めたのであった……。


「えーっと、確かこの辺に……あー、あった、あった。お兄ちゃん、その本取ってー」


「えーっと、どの本だ?」


「そのグリモワールみたいな本だよ」


「いや、実物見たことない人に言っても分からないぞ?」


「えー、そうかなー? お兄ちゃんの世界にいくつか本物があるから、てっきり知ってるかと思ったよー」


 あるのかよ……。というか、よく滅びずにやってこれたな……。

 学園は広い。それ故に、図書館も広かった。ルルナが見ておきたい本があるからと、俺を連れてきたのだが、ルルナの探している本が俺にはどれかわからないのと、ルルナの身長ではその本に届かないという二つの要因が重なっているため、なかなかその本がルルナの元に来ないのだが……。


「えーっと、あー、もしかして。これか?」


「あー! それそれ! ありがとう! お兄ちゃん」


「お、おう」


 俺がその濃い緑色の本(グリモワール?)を取ってルルナに渡すと、その本が宙に浮いて、勝手に開いた。


「……異世界の本って、すげえな」


「私はページをめくって読む方が好きなんだけどねー。まあ、内容はこっちの方が早く読めるかなー。手も疲れてないし」


「へえ、そうなのか。それで? それはなんて本なんだ?」


「えーっとね、【『兄妹契約』の副作用について】……って、本だよー」


「……副作用?」


「うん、そうだよー。今のところ、私が知ってるのはお兄ちゃんが私から半径十メートル以上離れると死んじゃうってことくらいかなー」


「……べ○ぜバブかよ」


「あれは十五メートル以上でしょー?」


「そう……だったな……。よくご存知で……」


「というわけで私から離れないように特訓したいと思います!」


「それは……今からやるのか?」


「もちろんだよー。目当ての本も見つかったからねー」


「そうか……なら、やるか」


「あれー? 今回は抵抗しないんだね」


「当然だ! 異世界で死んでたまるか!」


 まあ、本当はものすごく逃げたいんだけどな……。


「そっかー。よーし、それじゃあ、お兄ちゃんにやる気があることが分かったから、飛ばしていくよー!」


 ルルナは俺の手を離すとふわりとその場に浮かんだ。そして……。


「ルルナ、行きまーす!!」


 そう言うとルルナは猛スピードで飛び始めた。俺はその直後、ルルナを見失わないように全力で走り始めた。さあ……命を燃やせ……。

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