ちょ……!
夏休み……異世界……ユミナの屋敷……ユミナの寝室……。
「……ん……こ……ここは……」
「おはよう、ケンジくん。調子はどう?」
「……ユミナ」
ユミナ(黒猫形態)は俺の右隣で俺の顔を見ている。
というか、俺……どうしてユミナのベッドで寝てるんだ?
俺は少し前の記憶を思い出そうとしたが、何も思い出せなかった。
「ごめんねー、ケンジくん。私が本気を出しちゃったせいで……」
「本気を出した? 誰がだ?」
「ん? もしかして覚えてないの? あちゃー、ちょっとやりすぎちゃったみたいだね……」
「どういうことだ?」
「うん、まあ、分かりやすく言うとね。私とケンジくんが戦った時にね、私がケンジくんに闇毒魔法を使っちゃったから、その時の記憶が無くなってるんだよー」
「そんなことがあったのか? というか、その闇毒魔法ってなんだ?」
「えーっと、闇属性と毒属性を合わせたものでね。闇が相手の体に侵入した後にね、その中にある毒が闇と一緒にどんどん体を侵食していく魔法なんだよ。まあ、君に毒耐性があったから、助かったんだけどね」
「そうか……そんな恐ろしい魔法があるのか……」
「そ、それでね、ケンジくん」
「おう、なんだ?」
「そ……その……私が君の体内に残っているものを吸い出してあげるから、少しだけ血を吸ってもいいかな?」
「それは……絶対にしなくちゃいけないことなのか?」
「うーん……まあ……別にしなくてもいいんだけど……その……今回の件は私に責任があるから……」
そうか……ユミナ(黒猫形態)は今、罪悪感に苛まれているのか……。
「おう、いいぞ。ほら、こっちこっち」
「う……うん」
俺はユミナ(黒猫形態)を俺の首付近に運ぶと少し左側を向いた。
ユミナ(黒猫形態)が血を吸いやすくするためだ。
「じ……じゃあ、やるよ。本当にいいんだね?」
「ああ、好きにしてくれ」
その言葉を聞いた瞬間、ユミナ(黒猫形態)の赤い瞳が一瞬、輝いた。
そして、思い切り俺の首筋に噛み付いた。
「ちょ……! そんなに焦る必要ないだろ……って、お前……なんで……泣いてるんだ?」
ユミナ(黒猫形態)は俺の血を吸いながら、泣いていた。
しかし、ユミナ(黒猫形態)は笑っていた。
やっとこうすることができた。やっとこの日がやってきたとでも言わんばかりに俺の血をおいしそうに吸っている。
「……ユミナ、遠慮しなくていいから好きなだけ飲んでいいぞ。ただし、俺が死なない程度でな」
ユミナ(黒猫形態)はコクリと頷くと両目から透明な液体を出しながら、俺の血を満足するまで吸っていた。
それから……数分後……。
「……ふにゃ〜……ケンジく〜ん」
ユミナ(黒猫形態)は俺の胸の上でそう言いながら、俺の胸に顔を擦り付けている。
「なあ、ユミナ。大丈夫か?」
「うん、私は平気らよ〜」
「いや、なんか酔ってないか? ろれつがまわってないぞ?」
「そんらことないよ〜。それより〜……私といいことしようよ〜」
「いや、今のお前と何をしたって俺はお前のものにはならないぞ?」
「え〜、しないの〜? すっごく気持ちいいのに〜」
「ああ、結構だ。というか、お前はもう寝ろ」
「え〜、まら夕方らよ〜」
「俺が倒れた後、ずっとここにいてくれたんだろ? だからもう休んでくれ」
「わ〜、ケンジくんは優しいね〜。じゃあ、ここで寝させてもらうね〜」
「ああ……って、ここで寝るのかよ」
「おやすみなさ〜い……」
ユミナ(黒猫形態)はそう言うとスウスウと寝息を立て始めた。
「まったく……俺をベッドにするんじゃねえよ。まあ、今日くらいは……いい……かな……」
彼はそう言うとユミナ(黒猫形態)を抱きながら……いや抱きしめながら、スウスウと寝息を立て始めた。
その様子を扉の隙間から見ていたルルナたちは、ニコニコと笑いながら、そーっと扉を閉めた。
さてさて、これからどうなるのか……それはまだ誰にも分かりません。
しかし、二人とも、とても気持ちよさそうに眠っていることだけは分かります。
なので、今は起こさないようにしてあげましょう。