ピャ!
夏休み……異世界……ユミナの屋敷の近く……草原……。
「えーっと、まず、纏いたい属性をイメージして、そのあとそれを纏う体の部位をイメージして……最後にそのイメージ通りに魔力を集中させる……」
俺は『部分使用』の特訓をしているが、まったくうまくいかない……。
「うーん、やっぱりケンジくんにはまだ早かったかなー?」
ユミナ(黒猫形態)は黒いシッポをゆらゆらと揺らしながら、そう言った。
「いや、まあ、今まで五属性の力を全身に纏うことしかやってこなかったから、どうしてもその癖が出ちゃうんだよな」
「うーん、そうだねー。じゃあ、一つの属性を全身に纏うことはできるんだね?」
「ああ、それなら、できるぞ。ほいっ、はっ、よっ、とうっ、よいしょ」
俺は炎、水、風、光、闇の順番で全身にその力を纏わせた。
「なるほどねー。じゃあ、徐々にそれを体の一部分だけに纏えるようにしていけばいいよー」
「なるほど。たしかにその方がうまくいきそうだな。よし、やってみるか」
俺はまず、炎属性を全身に纏った。
その後、徐々にその力を右腕に行くようにイメージした。すると……。
「おっ、こんな感じかな?」
真っ赤に燃える俺の右腕を見たユミナ(黒猫形態)は俺の頭の上に乗ると、こう言った。
「そうそう、そんな感じだよー。ケンジくん。偉い、偉い」
ユミナ(黒猫形態)はそう言うと俺の頭をぷにぷにしている肉球で撫でた。
「ちょ、まだ一回しか成功してないだろ。大げさだな」
「なあに? もしかして照れてるのー? 可愛いなー」
「う、うるせえ。そんなんじゃねえよ」
「ふーん、そうなんだー。じゃあ、残り四属性もやってみよっかー」
「ああ、そうだな」
俺がそう言うとユミナ(黒猫形態)は俺の頭から飛び降りた。
「よし、じゃあ、次は水だな」
俺は一度、炎属性の力を纏うのをやめると、水属性の力を全身に纏わせた。
そして、それを左腕に纏わせるイメージをした。すると……。
「おっ、できた」
というように残りの三属性も『部分使用』をすることができた。
「うんうん、これなら、次のステップに進めそうだねー」
「次のステップ?」
「うん、そうだよー。次はそれを全身に纏わせないでできるように……って、すっかりコツを掴んだみたいだね」
「ほいっ、よっ、はっ、とうっ、よいしょ」
俺はいつのまにか各属性を体の一部に纏えるようになっていた。
もちろん、シャッフルすることも可能だ……。
「そういえば、ケンジくんは飲み込みが早い方だったねー。じゃあ、次はそれをどこにでもできるようにしてみよっかー……って、言ったそばからできるようになってるねー」
「おおー! これ、なんだか楽しいな!」
俺はいつのまにか各属性を体のどの部位にでも纏わせられるようになっていた。
「うーん、じゃあ、私と戦ってみるー?」
「え? それは……まだちょっと早いかなー……なんて」
「ケンジくん」
「は、はい」
「ユミナパーンチ!」
「ピャ!」
俺はユミナ(黒猫形態)のパンチ……つまりネコパンチをまともにくらってしまった。
「い、いきなり何すんだよ! びっくりしたじゃないか!」
「ええー、今のは油断してるケンジくんが悪いよー」
「そ、そうかな?」
「そうだよー。じゃあ、本気で行くから死なないでねー」
「え?」
その直後、ユミナ(黒猫形態)は俺が見たこともないような属性を五つほど体に纏わせると俺に襲いかかった。
「ちょ、ユミナ! タイム! タイム!」
「そんなの知らないよー。そーれ!」
「うわああああああああああああああああああ!!」
俺はユミナ(黒猫形態)から逃げるために風属性の力を翼の形にすると、それで大空へと飛び立った。
「おー、空中戦かー。いいね、いいね。久しぶりに燃えてきたよー」
ユミナ(黒猫形態)はそう言うと俺と同じことをして大空へと飛び立った。
「ユミナは俺よりも何倍も強いけど、魔王を倒すよりかは、よっぽどマシだ!」
俺は右腕に炎、左腕に水、両足に光、胴体に闇の属性を纏わせるとユミナ(黒猫形態)めがけて突進した。
「どおおおおおりいいいいやああああああああ!!」
「完全に『部分使用』をものにしてくれたのは嬉しいけど、それだけじゃ、私には勝てないよー」
ユミナ(黒猫形態)はとてつもなく大きなオーラを放つと、それを紫色の猫の形にした。
「これが複合魔法の一つ。闇毒魔法だよー」
その猫がケンジに襲いかかった瞬間、彼は体をドリルのように回転させて、それを貫いた。
「これで……終わりだあああああああああああ!!」
「……ケンジくんはすごいね。けど……まだまだだねー」
「はぁああああああああああ! …………カハッ!」
俺はその直後、意識を失った。
いったい何が起こったのか……その時の俺にはさっぱり分からなかった……。