寝るか!
夏休み……夜……俺の家……俺の部屋……。
「なるほどな。俺が倒すべき魔王が俺の実の弟で、そいつが俺を殺しに異世界から来たっていうところとその時そいつがヘラヘラ笑っていたのが許せなくて、お前は魔王に宣戦布告をしちまったってわけだな?」
「……う……うん」
銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女『ルルナ・リキッド』は床に正座した状態でそう言った。
ちなみに俺はあぐらをかいて座っている。ついでに言うと、ルルナと向かい合って座っている。
他のメンバーは俺の指示通り、部屋の外で待機している。
「なあ、ルルナ」
「な、なあに? お兄ちゃん」
「その……結構まずい状況になったのは分かってるし、お前が独断でそんなことをしてしまったことに対して責任を感じているのも分かってる。けど、まあ、あれだ。よくやったよ、お前は」
「……え、えっと……お兄ちゃん」
「ん? なんだ?」
「そ、その……怒らないの?」
「なんで俺が怒らなくちゃいけないんだ?」
「え? いや、だって……魔王に宣戦布告したんだよ? もっとこう……何やってんだ! ルルナ! とか言わないのかなって……」
「なんだ? お前は俺に叱ってほしいのか?」
「い、いや、別にそういうことじゃないんだけど……」
「じゃあ、いいじゃないか」
「う、うん。でも、これからどうするの?」
「うーん、そうだなー。魔王……じゃなくて、健吾が言ってたっていう俺にかけられているリミッターを全部外せるようにするしかないかなー」
「で、でも、まだ十分の一しか解除されてないんだよ? 大丈夫なの?」
「それは大丈夫だ。だって、現魔王であるケンゴが言ってたんだろ? 一個外れれば、残りも外れる可能性があるって……」
「それは……そうだけど……」
「まあ、あれだ。とにかく魔王と戦う前にそのリミッターとやらを全部外せるようにするしかないってことだ」
「お兄ちゃん……本当に大丈夫なの?」
「大丈夫って何がだ?」
「だ、だって、あの魔王だよ? 勝てる自信あるの?」
「そんなの無いに決まってるだろ? でも、それはあくまでも現時点でのことだ。だから、これからやつと戦えるようにしていけばいいんだよ」
「そっか……。けど、お兄ちゃんはなんでそんなに前向きでいられるの?」
「それは……そうだな……あえて言うなら、お前たちのおかげ……かな?」
「私たちの……おかげ?」
「ああ、そうだ。というか、お前たちがいなかったら、俺は今ごろ普通の高校二年生だったよ。だから、その……なんというか……あー、ちょっとなんて言ったらいいか分からないが、とにかくありがとな」
「ううん、私もお兄ちゃんと出会えて本当によかったって思ってるよ。私を義理の妹としてじゃなくて、一人の女として私を受け入れてくれたお兄ちゃんのことを私は誰よりも愛してるよ」
「うーん、それはちょっと大げさだが……まあ、ありがとうな」
「うん……」
少しの間、沈黙が流れた……。
「そ、それじゃあ、まずは今よりも強くならないといけないな」
「う、うん、そうだね。じゃあ、何から始めよっか」
「そうだな……とりあえず、明日、ユミナに相談してみるか」
ユミナ(黒猫形態)は元魔王の幹部の一人である。魔王の幹部の中では最弱だと噂されているが、実は彼女こそが魔王の幹部の中で最強の存在なのである。
「そうだね。元魔王の幹部だから、魔王の弱点とか分かるかもしれないね」
「だな……。じゃあ、今日はさっさと晩ごはんを食べて、風呂に入って、歯を磨いて、寝るか!」
「うん、そうだね。じゃあ、行こっか」
「ああ、そうだな。明日のことは明日の俺に任せることにするよ」
「お兄ちゃん、それ誰の受け売り?」
「ん? いや、分からない。なんとなく言ってみただけだ」
「ふーん、そうなんだ」
「ああ」
※『ワ○パンマン』の『サ○タマ』のセリフ……。
「じゃあ、早く行こう。お兄ちゃん」
「ああ、そうだな。さっさと終わらせて、今日は早めに休もう」
その後、俺たちは今日やれることをやった。
明日のことは明日にならないと分からない。けど、その方がなんだかわくわくする。
これから何が起こるか分からない方が人生は楽しいと思うからだ。
だから、俺はタイムマシンができても、未来には行きたくない。
過去の偉人たちには会ってみたいから、過去には行くだろうが、未来には行かない……。
なぜなら、そんなことをしてまで自分にこれから起こることを知ろうとは思わないからだ。
なんだかよく分からなくなってきたが、とりあえず今日は寝るとしよう……。