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ちょっと待て!

 異世界から来たルルナは俺と『兄妹契約』を結んだり、俺と同じクラスに転校してきたりしてきて、俺の日常を壊していった……。

 魔王を倒す力があるとか言われても、別に俺にそんな力はないんだが、そんな俺の意見はそっちのけで異世界に転移させられた。(一時的に)

 異世界に来たのはいいが、ルルナが俺の世界に来る前に通っていた学園に連れてこられて、学園長に会わないといけない状況になって、なんかもうわけがわかんねえよ……。

 まあ、俺がルルナから逃げられるわけがないってことだけは分かったけどな……。


「お兄ちゃん、緊張してるのー? 大丈夫?」


「誰のせいでこうなったのかわからないんでしょうかね……まったく……」


「んー? なんか言ったー?」


「いや、なんでもない……。それで? 学園長さんはどこにいるんだ?」


「あー、そうだったね。ちょっと待ってて。今、連絡するから」


「連絡って、アポ取ってないのか?」


「取る必要あるー?」


「そういう人に会う時には色々、手続きみたいなのをしなくちゃいけないんじゃないか?」


「そんなのいらないよー。だって、学園長は私のお母さんだもん」


「へえ、そうなのか……って、ええ!? 学園長ってお前の母さんなのか!?」


「うん、そうだよー。言ってなかったっけ?」


「初耳だぞ!」


「まあまあ、ここまで来ちゃったんだから、会いに行こうよー」


「ふざけるな! いきなり、あなたの娘さんと俺は兄妹になりましたー……なんて言えるか! 俺、確実に殺されるぞ!」


 その時、ルルナは手を電話の形にして、耳に当てると誰かと会話をし始めた。


「あー、お母さん? 今から会いたいんだけど、いいかなー? 会わせたい人がいるんだけどー」


「……って、聞けー!」


「うん、わかった。それじゃあ、今から行くねー」


「……なあ、ルルナ……。俺、帰ってもいいか?」


「もちろん、ダメでーす♪」


「……あー、分かったよ。じゃあ、行こうか」


「うん、そうだねー。あー、楽しみだなー。お母さん、どんな顔するかなー?」


 この時の俺はただ自分の人生が異世界で終わることになるのではないかと、不安で仕方なかった。

 ____学園長室に入った俺とルルナは高そうな黒い椅子に座っている幼女を見つけたが、学園長らしき人物はどこにもなく、代わりに茶色い机や部屋のあちこちに本がびっしり収納されている本棚があった。

 学園長さん、まだかな? 俺がそう心の中で呟いた直後、高そうな黒い椅子に座っている幼女にルルナが話しかけた。


「久しぶりだねー、お母さん。元気だったー?」


「おいおい、ルルナ。こんな子どもがお前のお母さんなわけないだろう?」


 その時、幼女が俺に話しかけてきた。


「失礼な人ですね。私はこう見えても、ルルナの母親ですよ?」


「……え、えーっと、それは冗談とかじゃ……」


「何かおかしいかしら?」


「いえ、そんなことないです」


「よろしい。じゃあ、ルルナ。報告してくれる?」


「はーい!」


 ルルナはそう言うと、母親に今までの出来事を全て話した。その話を聞き終わった、銀髪ツインテールと黒い瞳が特徴的なルルナの母親は溜め息をくと、ゆっくりと口を開いた。


「なるほどね……。まあ、あなたがそれで満足しているのなら、私はあなたの意思を尊重するわ」


「やったー!」


「だけど……」


「……?」


「その男が……健二けんじさんがあなたのことを妹として認めているかどうかは、一応、いておこうかしら」


 はい、ついにきました。その質問。というか、この人の俺に対する殺気が半端ないんですけど!?

 まあ、あれだな。これは変な答えを出すより、自分の気持ちを正直に伝えた方がいいよな、うん。

 俺は緊張しながらも、ゆっくりとルルナの母親に向かって自分の思いを伝え始めた。


「俺には……ルルナが俺の妹になったっていう実感がまだありません。ですが、ルルナは交通事故で両親を失ってから、ずっと一人ぼっちだった俺の家族になってくれました。だから、俺は、家族の一員として、ルルナと一緒に生きていきたいと考えています!!」


 数秒の沈黙が流れたのち。ルルナの母親はこう言った。


「…………そう、それがあなたの気持ちなのね?」


「……はい、そうです」


「……それじゃあ、これから娘をよろしくね」


「はい……って、今なんと?」


「だから、あなたを娘の兄として認めたってことよ」


「本当に……俺でいいんですか?」


「ええ、いいわよ。あー、言い忘れてたけど、私の目は、人間の本質を見抜く力があるの」


「えっと、それじゃあ……」


「もちろん、あなたの本質も見抜いていたわよ」


「すごいですね。それで俺はどんな人間だと……」


「一言で言うなら……シスコンね」


「……え?」


「あなたの場合は自覚がないシスコン……といったところかしらね」


「俺が……シスコン?」


「ええ、そうよ」


「それはどこをどう見たら、そうなるんでしょうか?」


「そんなの言うまでもないと思うけど……。まあ、あえて言うわね。あなた、この部屋に入ってきてから、ずっと娘の手を握っていたのよ?」


「えーっと、俺、そんなことした覚えは……って、マジで握ってたあああああああああ!!」


 どうやら俺は無意識にルルナの手を握っていたらしい。だが、これはおそらく緊張したせいであって、決してシスコンでは……。


「おそらく、あなたは両親を失った期間が長かったせいで、数年ぶりに妹という家族の温もりを過剰に感じて、無意識にシスコンになってしまったのでしょうね」


「そ、そんなことってあるんですか?」


「心が弱っている時、男性は誰かの温もりを感じると案外、ころっと落ちるものよ」


「そんなこと言われても俺は……」


「そんなことはどうでもいいよー、とりあえずお兄ちゃんは私のことが大好きだってことだよね?」


「ちょっと待て! なんでそうなるんだよ! それに俺はお前のことをそんな風に思ってなんか……」


 その時、ルルナは俺の耳元でこう囁いた。


「お兄ちゃん、ここで否定しちゃったら、お母さんに殺されちゃうけど、いいのー?」


 俺はそれを聞いた瞬間、この場をやり過ごすために。


「……シスコンでいいです!!」


 堂々と言ってしまった。


「よろしい! それじゃあ、お母さんまたねー!」


「ええ、風邪を引かないようにね?」


「はーい!」


 こうして、俺はルルナの母親に『シスコン認定』されてしまったのであった……。(血の涙)

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