お前誰だ!
眠い……。夜更かしをしたわけではないが、どうして朝というものはこうも眠くなるのだろうか……。
もうあれだな。生活リズムを変えるしかないな。ニュースキャスターとかって、どうやって起きてるんだろうな。マジ尊敬。
まあ、いいや。とりあえず起きて、着替えて、顔を洗って、朝ごはんを食べて、その後は……色々やってから学校に行こう……。
今日はいいことあるといいな。さてと、起きますか。
俺がベッドから起き上がろうとした時、何者かが抱きついてきたのを感じた。
……えーっと、まだ寝ぼけてんのかな? この家には俺しかいないはずなんだけど……。
まだ覚醒しきっていない脳みそをフル回転させて昨日までの記憶を再生していたが、この家に住んでいるのは俺しかいないという結論が出た。
さて……と、どうしたものかな? 早く起きないと遅刻してしまうし、交通事故で死んだ両親にも顔向けができない……って、答えはもう出てるよな。最初から。
俺は早々に割り切るとさっさと起きることにした。もういいや、これから何が起ころうと俺は見なかったふりをしよう。
俺がベッドから起き上がろうとすると、何か小さくて柔らかくて熱を持ったものが俺の胸に当たった。
これは……もしかして……。胸……なのか? その感触から導き出されたものがそれだった。
だがしかし。一人暮らしの俺のベッドの中になぜそれがあるのか、見当もつかなかった。
彼女いない歴=年齢の俺にとっては、その存在そのものが実在しているのかどうか分かっていなかったため、少し……いや、かなり動揺していた。
誰かに告白をしたこともないし、女の子に最後に触れたのは……あー、ダメだ。まったく覚えていない。まったく、俺の脳内メモリーは俺が必要としている情報を削除していくシステムでもついているのか?
俺はそんな風に今の状況を把握しようと別のことを考えていたが、どうやら今、この家には……いや、俺のベッドの中には、間違いなく女の子がいる!
えーっと、とりあえず情報を整理するか。昨日、俺は普通に起きて、普通に登校して、普通に授業を受けて、普通に下校して、普通に家に帰って、普通に寝た……よな? うーん、俺の記憶が改ざんされているとすれば、下校時だけど、女の子を家に招き入れることに何のメリットがあるんだ?
そもそも俺は、一人暮らしの高校二年生だ。そこそこいい成績を取っていると思うし、お金には困ってはいないと言ったら、嘘になるが、臓器を売るような状況ではない。
さて、ここまで考えてもどうして俺の家に女の子がいるのか理由が分からないのは、今の俺にそれを解決できる能力がないからなのか?
その時、俺の予想を遥かに上回る出来事が起きた。それは……。
「お兄ちゃん、そろそろ起きなくていいの?」
そんな声が聞こえたからだ。ち、ちょっと待て。今なんて言った? 『お兄ちゃん』っていう単語が聞こえたのは、俺の気のせいであろうか……。
「気のせいじゃないよー。私はここにいるよー。ちゃんと見てよ、お兄ちゃん」
俺は固く目を閉じると、現実逃避した。えーっと、幻聴が聴こえる時はどうすればいいんだっけ? とりあえず耳を塞いでみるか。
俺が両腕を動かそうとした、その時。
「お兄ちゃん、いい加減起きないと学校に遅れちゃうよー? それでもいいのー? いいんだったら、このまま私といいことしちゃう?」
SOS! SOS! 俺の頭がおかしくなってしまいました。誰か助けてください! 俺は社会不適合者じゃないんです! お願いします! 誰か助けてください! 俺は心の中で助けを求めた。
しかし、俺のそんな願いは叶わなかった。なぜなら。
「もうー! いい加減に起きろー!!」
その声と同時に布団を剥ぎ取られたからである。俺が膝を抱えて震えていると、カーテンが開く音がした。
「うわっ! 眩しい!!」
俺の今日の第一声はそれだった。朝日が俺を焼こうとしていたため、俺は跳ね起きて、光が当たらない部屋の隅っこに避難した。すると。
「いやあ、ごめんごめん。お兄ちゃんが起きてくれなかったから、強行手段をとっちゃったよー」
俺の方に近づいてくる、何者かの声が聞こえた。
「く、来るなー! 俺を食べても、腹の足しにもならないぞー! 食うなら冷蔵庫のプリンでも食べてくれー!」
俺が両腕でガードしていると、そいつは俺の目の前でしゃがみ、俺の頭を撫で始めた。
「ごめんねー。別に驚かせようと思ったわけじゃないんだよー」
またしても柔らかい感触! ほんのりと伝わってくる熱! もう今日は何の日なんだよー!
俺は一か八か、そいつに意見してみることにした。このままでは、何も抵抗できずに終わってしまうと思ったからだ。
俺は歯を食いしばりながら、そいつの目を見てこう言った。
「お前誰だ! いったい、俺に何の用があるっていうんだよ!」
俺がその時、目にしたのは朝日をバックにこちらの顔を覗き込んでいる銀髪ショートと水色の瞳が特徴的な美少女であった。
服は……なんだか、アンドロイドが来ていそうな結構露出度が高い白と黒が混ざったものだった。
「おかしいなー、私のことは知ってると思ったんだけど……。まあ、いいや。とりあえず自己紹介しておくね。コホン、えー、私の名前は『ルルナ』。お兄ちゃんの妹候補の一人だよー」
「は? 妹……候補?」
「そうだよー、私たちの世界を救う鍵となるお兄ちゃんの妹候補の一人だよー」
「……な、なんじゃそりゃー!」
笑顔で俺の妹候補だと言い張る『ルルナ』の顔をみながら、朝から大声で叫んだ俺の目はすっかり冴えていた……。