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Eosphorus-イオスフォロス-  作者: 白雪 蛍
7/25

続きの続きの続きの続きのそのまた続き

「じゃあ、扉を開けます。まずはネコメイドシティね。馬車で駅まで行こう」


 駅か、行くのは久しぶりだ。思えば、結構長い間ここに留まってたな。


「お、タイミングのいいことに、二頭立ての馬車が停まってる」

「よし、乗せてもらおう。すいませーん、乗せてくださーい!」


 即断即決、日が暮れる前に三角海域へとたどり着くぞ。


「はい、三名様ですね。どちらまで行かれますか?」

「駅まで。全速力でお願いします」

「分かりました」


 おし、話が早いおっさんだ。五分もあれば着くだろう。


「――あ、でもよ、ハル。三人で大丈夫かな? 聞いた話、かなり難易度高そうだぞ?」

「パーティ上限は五人。あと二人、誰か誘う?」

「いらん。他のフレンドに呼びかける時間が惜しい」

「どっかのギルドに立ち寄って、人を雇うとかは?」

「いらん。金が惜しい」

「じゃあ、そこらへん歩いてる人に頼んでみるとか?」

「何て言って誘うんだよ? 『今から一緒に《アメリカ》行きませんか?』ってか? 面倒くさいって言われるに決まってる。少しとはいえ、時間かかるんだから」


「それもそうだ。となると、結局三人か」

「ま、気楽でいいけどね」


 とにかく、急がねばならん。イナコーは、《魔の三角海域》とやらが再現されていると言った。つまり、その海域に立ち入ると、必ず何かに襲われるということだ。モンスターか、それとも異常気象か、どちらにせよ、夜になれば圧倒的に不利になる。海上のど真ん中じゃ、灯りなんて期待できないんだからな。それと戦力なら、その気になれば現地で調達できる。問題ない。


「――はい、お客さん、駅に着きましたよ」

「ああ、ありがとうございます。いくらですか?」

「七百九十エールになります」

「千エールで。お釣りはチップにしてください」

「有難うございます。お心遣い、痛み入ります」

「それじゃ、どうも。――行くぞ、二人とも」


 この駅は、コロッセオと並んでリヨブールの目玉の一つだ。確か、フレンチ・ルネッサンス様式とかいうやつで、駅と言うよりは王宮か劇場という感じだな。大きさ的にただでさえ目立っているのに、外壁が白いことで、赤煉瓦だらけのこの町では余計に際立っている。


「しかし、どうせ奢ってくれるんなら、ヘリの料金を奢ってもらいたかったな」

「そうだよ。ていうか、チップにしてくださいなんて格好つけるんなら、あのお姉さんの前でこそ格好つければよかったのに。札束、ドンと出してさ」

「それ無理。あと、さっきのは釣りをもらうのが面倒だっただけ」


 でも、人生で一度はやってみたいな。札束百枚くらい出して、「君、釣りは要らんよ」的な。


「あれ、内装ちょっと変わってない?」

「そうか? 前もこんなだったと思うけど。あのでかいシャンデリアとか」

「まるで高級ホテルだよな。それに、ここだけ時代が進んでるのも変わらない」

「確か町の概要に、駅の外は十五世紀、内部は十九世紀あたりをイメージしたってあったな」


 その理由は、町の改革をした連中の趣味だった気がする。ま、それでなくても十五世紀には列車なんて無いんだから、時代が違う方が当たり前なんだけど。


「えー、ネコメイド駅行き、間もなく発車いたします。ご乗車の方はお急ぎください」


 あ、やば。発車のアナウンス流れてんじゃん。


「おい、急ぐぞ! ホームまで走らないと間に合わん!」

「え、切符は?」

「大丈夫。さっき、三人分をDCT使って買っておいたから」


 さすが昌明、ナイスだ。金は後で返すからな。


「よし、走れ走れ! そして、飛び乗れ!」


 ここまで来て、次の列車なんて待ってられるか。紳士淑女の方々には悪いが、泥臭く走らせてもらおう。間に合えば、十五分後にはネコメイドシティだ。


「――よし、あのSLだ! まだ間に合うぞ!」


 只今、お騒がせしております。すいません。私、それ乗ります。


「……ふう、セーフ」

「疲れた……。鎧着てるせいか、倍疲れた気がする」

「駆け込み乗車なんて美学に反すること、俺はもう二度としないぞ……」


 イナコー、お前がそんな立派な美学持ってたなんて知らなかったよ。頑張って突き通してくれ。――さて、列車も走り出したことだし、早く席につこう。


「買った切符って二等車の自由席?」

「そうだよ。今日空いてるし、もうそこ座ろう」


 SL列車――蒸気機関車――に相応しく、内装は木製で統一されており、レトロな二人席が左右にずらっと並んでいる。この車両だけかもしれないが、埋まっている席は半数ほどだ。


「――で、向こうに着いた後は?」

「モノレールがあるから、それに乗れば空港まで三分で行ける」


 ああ、そうだったな。前はネコメイド中を歩き回ったけど、今回は素直にそれを使おう。


「なあ、二人とも。俺前も思ったんだけどさ、この列車、内装の雰囲気と景色が流れていくスピード合ってないよね?」

「うん、そうだね。イナコーの言うことはもっともだ。でも、仕方ない」

「そう、仕方ない。この列車、古いの見た目だけだから。中身、新幹線だから」


 なので、間違って窓など開けようものなら、凄まじい爆音が轟くことになる。


「移動時間を短縮するために起きた悲劇、か……」

「いや、遊覧用の列車も走ってるはずだ。時間帯は知らないけど」


 あらゆる需要に応えようとするその姿勢、俺も見習いたいものだ。


「あ、それより、飛行機のチケットも取っておこうか?」

「おお、そうだな。じゃあ、列車の分も合わせて払うわ。いくらよ?」

「お一人当たり、三万五千七百エールになりまーす」


 ゲーム内だと、飛行機の料金が信じられない程安い。現実の半額前後だったはずだ。


「――はい、ちょうどね」

「へい、お二人とも確かに」

「そういや、まだ切符の確認しに来ないな。このままだと、もう着くぞ」

「って言ったら、来た。ほら、昌明。DCTで切符を表示してくれ」


 いつの間にか、車窓から見える景色が、近世・近代を飛び越えて現代のものになっている。草原はアスファルトに、森は高層ビルに、辺りを駆けていた動物やモンスターは自動車に、人々の服装はメイド服へと変わってしまった。まるで、白煙を昇らせて走るこの列車だけが、時代に取り残されてしまったかのようで、少し物悲しい。


「――おい、ハル。なに感傷に浸ってるんだ。早く降りろ、着いたぞ」

「ああ、はいはい」


 さ、次はモノレールだ。パッと空港行って、飛行機乗って、ポーンと《アメリカ》行こう。


「昌明ちゃん、モノレール乗り場はどこでありますか? 案内してくださいな」

「えーっとね、今ここが二階の七・八番ホームだから、とりあえず三階まで行く必要があるな」

「おっけ、じゃあ行きましょ」


 ネコメイド駅は、地下五階、地上四十階の建物となっている。一、二回来た程度じゃ、どこに何があるかさっぱり分からないような大きさだが、逆に言えば、探せば何でもあるということなんだろう。今の所、俺が把握しているのは、三十番まであるホームが二階に集中しているため、二階は他の階層よりも一回り規模が大きいということくらいだ。


「にしても、この駅だとSL列車の場違い感が凄いな。他のホームなんて電車ばっかだよ」

「場違いって言うなら、お前や昌明の服装もだろ? 西部劇と鎧って、ここじゃコスプレにしか見えないぞ。雰囲気に合うよう、スキンを設定したらどうだ?」


「――ふ、甘いな、ハル。お前、この街のルールを忘れてるんじゃないか? 周りを見てみろ」


 なんだ、この鎧野郎。気色の悪い笑みを浮かべて、頭でも打ったか。


「周り? ――あ、みんなコスプレっぽい」

「その通り。思い出したか? ここでは、どんな服装で歩いていようと、場違いなんてことは有り得ないんだ。そもそも、メイドさんが人口の四割を占めるような町だぞ? 俺たちの常識なんて、最初から通用しないのさ」

「そのようだな。じゃあ、このまま三階まで行くぞ」


 とりあえず改札出て、エスカレーターに乗る。三階も大概広いが、まあ案内標識はあるんだから、モノレール乗り場くらい分かるだろ。――にしても、ここにいると、自分がゲームの中にいるという気がまるでしない。土産物を売ってる売店、チェーン店風のレストラン、ラーメン屋、ブランド物っぽい服屋やアクセサリーショップ、現実で見たような光景ばかりだ。ま、武具屋や鍛冶屋、技能屋なんてものは現実にはないけどな。……ないよな?


「――あ、あった。モノレールの改札口」

「お、昌明ナイス。じゃあ、タッチして行きましょ」


 全世界共通のトランスカードでどんな改札も一発よ。二十一世紀レベルの都市でなら、だが。


「よし、モノレールもちょうど来たみたいだ」

「じゃ、乗りますか。さっきも言ったけど、三分で空港だからね」

「了解了解。でも、空港まで三分て、何キロ出るのコレ?」

「さあ? 百キロとかかな?」

「百でも二百でも構わん。大事なのは三分で行けるということだ」


 三分なんて、景色でも眺めていればすぐだ。といっても、ここから見える景色なんて、現実でも拝める程度の景色だがな。有難みなんて微塵もない。あるのは、虚しさだけさ。


「ふ、アスファルトと鉄筋とコンクリ―ト、なんて無機質なんだ。俺は悲しいよ。ゲームの中でも、こんな、人間の欲望に満ちた光景を目にしなければならないなんて」

「……まあ、確かに欲望を感じる景色ではあるよ。いや、欲望というか、なんだろ。拘り?」

「うん、まさに職人芸。凄いけど、それ以上に今更な疑問を抱いてしまった。聞いて欲しい」

「嫌だ、俺は聞きたくない。聞くならハルにしてくれ」


 中二バリアで話を振られないよう防いだつもりが、無駄だったようだ。仕方ない。


「何が疑問なんだ、昌明? 車やバイクが一台も走ってないことか? それとも、街中の看板に必ず『メイド』の三文字が入っていることか? 違う? なら、道路と建物の全てにイラストが描かれていることか? あ、分かった。ネコ耳着けてるメイドさんが見えないことだ!」

「いや、あのデカデカと描かれてるやつなんだけど……」


 ん? ああ、あの金髪碧眼男装騎士の絵のことか。


「あれ、版権キャラだよね?」

「そうだよ? バリバリの版権キャラだよ? あのスカートの下に短パン履いてる子も、あの黒白剣士コンビも、頭にウサギ載せた子も、青い羽根のロボットも、何もかも版権キャラだよ?」

「著作権とか……」

「知らない」


 やばかったら運営から連絡が来る。ただ、あれを全部消せって言われたら、俺なら泣く。間違いなく。一体、どれだけの時間をかけて描いたんだろう。凄まじい根性だ。


「――あ、着いた。本当に三分で着いたな。さ、降りよう」


 なんにせよ、こんなファンタジー性皆無な町に用は無い。俺たちの本分は冒険にあるのだ。


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