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Eosphorus-イオスフォロス-  作者: 白雪 蛍
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二章続き

「うーっす。イナコー、昌明、いるかー?」


 うわ、相変わらずの盛況ぶりだな。あいつらがいるとしたら、受付前のラウンジか、鍛冶屋か技能屋辺りだろうけど、これじゃあ探すのも一苦労だ。面倒だし、電話で――


「おーい、ハル! こっちだ、こっち!」


 あ、イナコーだ。向かいに昌明も座ってる。やっぱり、ラウンジだったか。


「おう、今行く!」


 これで、無事合流できたってわけだ。早速冒険に出かけてもいいが、その前に、俺も座って一服しようかね。ここの茶は美味いんだ。


「よっす、すぐに見つけてくれて助かったよ」

「ういー。ま、とりあえず座れば?」

「ほいほい、言われなくてもってね」


 あー、落ち着いた。この椅子に座ると、帰って来たって感じがするわい。


「ハル、なんか頼む? 頼むなら、店員さん呼ぶけど」

「ああ、ありがとう昌明。そんじゃ、頼むわ」

「あ、ちょっと待った。その前に、ハルにアイテム渡しとく。どうせ、回復薬とか尽きたままなんだろ? はい、そこの雑貨屋で買ったやつだ」

「おお、サンクス。いつも悪いな、金払うよ。いくらだった?」


 ――あ、そういや、タクシーの運ちゃんに渡された回復薬の分もか。合わせて、二千位かな。


「いや、金はいいよ。ハルのおかげで、面白いものが見られたし」

「面白いもの? 何のことだ」

「あ、バカ、余計なこと言うな!」


 ――ああ、思い出した。昼にメッセージ送ったんだったな。それと――


「そうだ、昌明にひとこと言ってやろうとか思ってたんだ」

「あー、ほら、せっかく忘れてたみたいだったのに! お前のせいで!」


「はっ、爆走タクシー利用して記憶をトバそうなんて、姑息な真似するからだ。リゼちゃんと恋人になれて嬉しかっただろ? ここは素直に怒られとけよ、な、ミラージュマスターちゃん?」

「てめえ、その名で呼ぶなって言ってんだろ! 他人に聞かれたらどうすんだ!」

「あはは、何を焦ってるんだい、ミラ枡ちゃん。君が一生懸命考えた名前じゃないか。寧ろ、堂々と他人に聞かせてあげればいい。……ま、冷笑か失笑を受けるのがオチだけど」

「こ、こ、このナンパ野郎……! それは、俺に対する宣戦布告と受け取っていいんだな!」


 まーた、名前の件で不毛な争いが始まった。昌明のネーミングセンスが絶望的なのと、名前を中途変更できないシステムのせいで、こいつらの言い合いは三か月前からずっと続いてる。ま、漫才みたいなもんだ。深く気にする必要もない。


「おい、ハル! なに、ボーっとしてるんだよ? この恥ずかしい名前のヤツに文句言いに来たんだろ? 『俺は真の漢になる』とか言っときながら、真昼間から女の子とイチャイチャしてるこの詐欺師を、タクシーの件も含めてきっちり叱ってやってくれ」

「え? ……ああ、まあ、そうね」


 と言われても、時間が経ってもう興味なくなっちゃたんだけどね。どうしようかな。


「――あ、そうだ。じゃあ、一つだけ聞いておこう。昌明、どうしてあの子なんだよ?」

「どうしてって? どういう意味だ?」

「いや、だから、わざわざあんな辺境の土地に住んでるNPCを選んだのはどうしてかってことだよ。この辺りを拠点にしてる女性プレイヤーでもよかったんじゃないのか?」

「そうそう、ハルの言う通りだぞ、ミラ枡。プレイヤーの女の子だったら、リアルでも恋人になってもらえる可能性があるんだ。大体、あんなど田舎に頻繁に足運んでたら、お前の金欠病が悪化するだろうが。農家の子なんてやめて、シティ派にしとけシティ派に」

「そうそれ、金の事も考慮すると、だ。仮にNPCの中から選ぶのだとしても、金持ちの令嬢とかを選んだ方がいいだろ。この町にだって何人かいるわけだし、今からでもそうしろよ」

「うんうん、まったくだ。いいか、ミラ枡。リゼちゃんと別れて、金持ちの子と付き合えば、お前の財布は潤うこと間違いなしだ。同時に、俺達全員の財布が潤う。うん、これはもう悩む必要なんてないな。さ、早く金持ちを口説き落としてこい」


 うーん、現実で考えると、俺達かなりクズいことを言ってる気がするが、全く以て気のせいだな。昌明のため、そして俺たちの資金源を増やすためという大義があるのだから。


「ん、どうした、ミラ枡? さっきからずっと黙ってるけど、分かってくれたのか?」

「……いや、お前たちは一体何を言ってるんだろうと考えてた」


「は?」


「金持ちだろうがプレイヤーだろうが、そいつらはリゼちゃんじゃないだろ? どうしてそんな当たり前の事が分からない? 大体、適当な金持ち女を口説くなんてイナコーの仕事だろ」


 後半は正論、しかし、前半の意味が分からん。何言ってんだ、こいつ。


「おーい、ミラ枡ちゃん、正気か? リゼちゃんはプログラムなんだぞ、機械なんだぞ? いくら愛を注いだところで、何の得にもならない貧乏NPCなんだぞ? サービス終了と共に消え去る運命にある子なんだぞ? 分かってるのか?」


「……はあ。これだから資本主義の豚、それも、三次元の低俗な女に満足してるナンパ野郎は困るんだよ。いいか、よく聞け豚。真実の愛の前には、金なんぞゴミクズ同然だ。俺はリゼちゃんのためなら全財産、いや、それどころかこの命すら投げ出しても構わない。そうだ、もう『好き』何ていう生温い言葉じゃ全く足りん! 愛している! 俺は! リゼちゃんを! 嗚呼、彼女こそ、我が前に降り立った唯一人の天使。俺はもう、他に何もいらん……」


「はい? ねえ、ハル。ミラ枡がなんかおかしなこと言ってるんだけど」

「そうみたいだな」


 まあ、昌明の頭がおかしいのは昔からだが、ふむ、今までの発言を論理的に考えると……。


「つまり、だ、昌明。お前はあの子に本気で惚れ込んでいる、と。そういうことか?」

「ああ、その通りだ」

「そうか。まあ、それはいい。じゃあ次だ。イナコーが言ったように、ゲームがサービス終了したら、そのときお前はどうするんだ? あの子のことを引きずって生きていくのか?」

「下らないことを聞くなよ、ハル。……その問いに対する俺の答えは一つだ。無論、心中する」


 ――駄目だこいつ、もう手遅れだ。処置の施しようがない。


「おい、ミラ枡! しっかりしろ、目を覚ませ! そして、冷静に考えろ! 付き合ってほしけりゃキマイラ二頭を裸で倒せ、なんてこと言う女が天使なわけないだろ⁉ それは悪魔だ、お前は悪魔に魅入られてるんだよ! 早く現実に戻ってこい! そうすりゃ、俺が合コンでもなんでも組んでやるから!」


「おいおい、いきなり何を言い出すんだ。よしてくれよ、イナコー。今言ったばかりだろ。俺はリゼちゃんを愛してるって。それと、あの依頼はきっと、神が俺に与えた試練だったんだよ」


 わー、イタい台詞だ。なんだよ、神からの試練って。あ、そんなことより、まだお茶頼んでないんだよな。何にしよう。ダージリンかな、ローズヒップかな。


「あ、あわあわ、ど、どど、どうしよう。ねえハル、ミラ枡が本気でおかしいって。ね、ハル? ――って、なに暢気にメニューなんか眺めてるんだよ! 親友の一大事なんだぞ⁉ 真面目に考えろよ! あ、ほら、今もなんか悟りを開いたような目してるって、ほら!」


 う、うるせえ。いいよ、もう本人の好きにさせろよ。そして、俺はその話題に飽きた。


「……ふう。イナコー、いや(こう)(すけ)、もう諦めろ。どうやら、俺達は遅すぎたらしい」

「いや、諦めろってお前……」

「あ、そうだ昌明。そのリゼちゃんが、お前に会いたそうだったぞ」

「おお、そうか。――ふ、いいもんだな。人生に春が来るってのは」

「そうだな。で、どうする? すぐに行ってくるのか?」

「そうしてもいいんだけど、その前に、しばらく金稼ぎをしたい。リゼちゃんへのプレゼントを買う分と、あとはハルバードの《武器練度》がSになったから、アーツを自作する分」

「え、マジで⁉ 練度Sになったの⁉」

「うむ、ついさっきね」


 く、遂に先を越されたか。《武器練度》は、各々の武器種を使い込むことで上昇していき、練度が上がると、相応のランクの武器を装備できたり、新しいアーツを使えるようになったりする。練度はEからAへと順々に上がっていき、最後はSへと到達する、わけなんだが、AからSまでの道のりがエンドコンテンツ級の長さになっていて、なかなか到達できない。しかし、それを補って余りあるだけの見返りがある。練度がSになると、その武器種のアーツ若しくはフォースを自由に制作できるようになるのだ。ああ、羨ましい。


「流石、ハルバード一筋でやってきただけのことはあるよ」

「ははは、まあな。これで、俺も一流プレイヤーの仲間入りだ。リゼちゃんにも自慢できる」

「あ、でもさっき金が要るって言ったよな。アーツ自作すんのって、そんなに金かかるのか?」


「…………」


金の話題を出した途端、バカ笑いが止んだ。なんだ、なにがあるというんだ。


「……言っとくけど、滅茶苦茶かかるよ? もう、えげつないよ?」

「ほう、そんなにか。では、俺も今のうちにしっかり貯金しておくべきだな」

「……おい、おいハル、貴治!」

「なんだよ? 耳元で(ささや)くなよ、気持ち悪いな」

「お前、本気でミラ枡のこと放っておく気か? 友達だろ? なんとかしてやろうぜ」


 こいつ、まだその話してたのか。だから、もう飽きたんだよ。全く、変に心配性なヤツだ。


「あー、はいはい、友達友達。友達なら、見守るのも一つの選択だから。――で、昌明、どうする? 早速稼ぎに行くか、付き合うぞ?」

「そりゃ、もちろん。けど、ハルはその前に武器を修理しなきゃだろ?」


 は、そういえば。あっぶね、また忘れるところだった。


「そうだったな。じゃ、ちょっくら鍛冶屋行ってくるわ。あとついでに技能屋も」

「あ、俺もついて行くよ。じっとしてても暇だし」

「おっけー、じゃあ行くか。えっと、鍛冶屋は……、ああ、あそこだっ――」


「ちょっと待てや、こら!」


 ち、このまま流せると思ったのに、しつこいヤツだ。


「なんだよ、イナコー。マントから手を放せよ、破れたらどうするんだ」

「心配するな、その時は弁償してやる。それより、俺と話すことがあるだろう?」


 ありません。ただの一つもありません。


「ああもう分かったよ。でもほら、こういうちょっと真面目な話は、リアルで顔を突き合わせてするのが一番だろ? だから、月曜に学校行った時に話そう、な?」

「本当だな?」

「ああ、ほんとほんと。さ、そんなことより、お前も行くぞ。時間が勿体ない」

「……いいだろう。なら、この話は月曜だ」


 はあ、やっと終わった。次は武器の修理か、いくら掛かるかな。下手したら、手持ちの金じゃ足りないかもしれんが、ま、ともかく聞いてみよう。


「へい、大将。武器直してもらいに来たぞ」

「ん、おう、ハルか。よく来たな」


 この鍛冶屋のオッサン――ロン毛でマッチョで眼帯でアメリカンなお方――は、まあプレイヤーなんだが、驚くことにリアルの姿そのままらしい。職業は聞いたことはないが、サラリーマンということはないだろう。絶対に。


「いつも通り、この三つだ。出来るだけ早く、安くしてくれ」

「おめえは本当にふてぶてしいな。だがそりゃ、武器の状態次第だ。どれ、――って、おめえこれ、打刀と大剣折れてんじゃねえか!」

「ああ。修理するの忘れたままキマイラ討伐に行ったら、途中の洞窟で二つとも逝った」


 キマイラだけなら、大丈夫だったろうけどなあ。まさか、オーガに出くわすとは予想外。


「ったく、ちゃんとこまめに持って来いって言っておいたろうが。俺が丹精込めて作った武器をぞんざいに扱いやがって。……まあ、長剣が無事なだけましか」

「それも、ほとんど折れかけだけどな」


 本当、《耐久値》を確認し忘れるのは俺の悪い癖ですよ。早く直さないとな。


「で、修理すんのは武器だけか? 防具は?」

「あ、防具は大丈夫。パン一で行ってたから」

「はあ? ……相変わらず妙なことする野郎だ。じゃあ、後ろの二人……、はさっき来てたな」

「そういうこと。さ、早く、パパっと直してくれ。この後、すぐ出かけるんだ」

「そいつは無理だな。長剣は十分もあれば直るが、他の二つは三時間ほどかかる」


 ち、やっぱりか。ペナルティなのか知らんが、折れた武器を直すのにはやたらと時間が掛かる。ついでに、修理代も桁違いだ。


「分かった、それでいい。やってくれ」

「あいよ。じゃあ締めて、二十三万九千エールだ。支払いは?」

「……カードで」


 手持ちじゃ全然足らんかったわ。もう絶対、耐久値確認し忘れねえ。


「それじゃ、長剣だけまたすぐ取りに来るから」

「おう、じゃあな」


 次は技能屋だ。鍛冶屋の真向かい、ラウンジを挟んで東側のエリアにある。


「ハルよ、結構手痛い出費だったな。貯金するって言ったばっかなのに」

「そうだなー。けど、ま、しゃあない。次から気を付けるさ」

「俺みたいに武器が一つだけだったら、確認忘れなんかしなかったろうにな」


 それはどうかな。確認すること自体を忘れてるんだから、どの道同じだった気がする。


「――あ、そういや、イナコーは結局、二丁拳銃だけにするのか?」

「まあ、そうだな。弓とトンファーも一応練度Bまでは上げたけど、一番使いやすいのはやっぱり二丁拳銃だし。あと、その二つに割いてた金を、予備を買う分に充てたい」

「あー、二丁拳銃の予備か。そうだな、あれば戦力アップにも繋がるわけだしな」


 このゲームは戦闘中に武器を切り替えられるため、武器を複数持っていると有利に働くことが多い。例えば、俺は長剣、刀、大剣の三つを切り替えて使っているが、これは単純に言えば、アーツを十五発撃てて、尚且つ武器の耐久値三倍状態なわけだ。だから俺は最初の頃、武器を七つ持ち歩いていた。が、程なくしてやめた。致命的な欠点が発覚したからだ。


「ところで、昌明は二本目のハルバードを用意しないのか?」

「しないんじゃない、出来ないんだ。理由は、聞かなくても分かってるはずだ」

「ああ、分かってるよ。分かってて聞いたんだ」


 ……そう。致命的な欠点、それは、とにかく金が掛かり過ぎるということ。Bランクまでの武器ならまだいい。だが、今俺たちが使っている武器はAランク、準最高ランクだ。買うにしろ作るにしろ、分厚い札束が必要になることだけは絶対だ。


「型落ちの武器なんか使い回したって、むしろ弱くなるだけだしなあ」

「武器を切り替えたら、アーツのクールタイムの減少が止まるからな。面倒なシステムだ。それがなければ、俺もBランクの二丁拳銃なら処分せずに持ってたよ」


 それも理由ではある。けど、ランクごとの攻撃力の差が激しいことの方が俺は気になる。正直、Aランクの武器を一度使ったら、Bランクなんて二度と使う気にならん。


「あー、俺もハルバードを使うのは好きだからいいんだけど、いい加減、無属性は飽きた。ああ、Aランクの属性付きや状態異常付与付きが欲しいっス」

「お前はもうSランクだろ。ただ、属性付きが欲しいのは俺も同感だな。イナコーはその点、弾丸を変えれば済むから楽そうだけど、実際はどうなんだ?」

「いや、弾丸の補給が地味に財布を圧迫する。毎回、用意した分は大体撃ち尽くすからな」

「なるほど。どんな武器でも、結構大変なんだな」


 どうしよ、またカジノに行ってこようかな。この前と同じように勝ちまくれば、新しい武器を作れるんだし。あ、でも、昌明みたいにボロ負けしたらやばいな。


「――と、話してる間に技能屋が目の前だ。じゃ、俺行ってくるけど、お前らは?」

「俺はいい。ハルが来る前にもう行ったから。隣の貿易商で、珍しいものがないか見てるよ」

「俺は行く。どんなアーツを作るか、また考えたいし」

「おーけー。じゃ、行こう」


 技能屋というのは物を扱わない商売なので、どの店舗も小ぢんまりとしていることが多い。ここの店も御多分に洩れず、雑貨屋と貿易商の間でひっそりと佇んでいる。


「よう、バアさん。今日は暇そうだな」

「……ああ、あんたか。余計なお世話だよ。さっさと用件を言いな」


 このバアさんはNPCのくせに愛想が欠如している。胡散臭い占い師みたいな服装をしてるし、いつもパイプを燻らせているしで、まともな応対を受けたことが無い。ただ、俺は技能屋では必ず値切り交渉をするので、これぐらい不愛想な店員の方が遠慮しなくて済む。


「例のヤツ、レートは下がってるか?」

「《魔法使用許可》のアビリティかい? あんたもしつこいね、何度言えば分かるんだい。アレは下がらないよ、いつだって三千のままさ」


 魔法使用許可、読んで字の如くだ。剣を装備しててもフォースが使用可能になる。ただし、使えるのは魔法系の武器で習得済みのフォースだけだが。


「そこをなんとかしてくれよ。アレさえあれば、俺は魔剣士とでも呼ぶべき最高にクールな冒険者にランクアップできるんだ。また一歩、最強に近づくことが出来るんだよ!」

「知らないよ、そんなこと。大体、レートを決めてるのは私じゃないんだ。それに、アレは最上級のアビリティなんだよ? あんた、本当に分かってんのかい?」

「分かってるさ。セットできるフォースは十五っていう破格の数なのに、アーツ型の要領で使えるから詠唱もスタミナも必要ない。欠点らしい欠点なんて、魔法攻撃力が有る武器じゃないと、攻撃系のフォースの使い道がないってことぐらいだ。それだって、魔法攻撃力を持つ武器さえ用意すればいいだけの話だ。こんなうまい話はねえ! だから、欲しいんだよ!」


「……ふう。毎度思うんだけどね、そこまで欲しいなら素直に三千ポイント溜めたらどうなんだい。ログインボーナス、戦闘、商売、土いじり、その他にも、アビリティポイントを溜める方法なんていくらでもあるじゃないか。……ふう。ああ、美味い」


 このババア、人が真剣に話してるってのに、暢気にパイプなんか楽しみやがって。


「んなことは分かってる。けど、三千だぞ、三千! 他のアビリティの十倍以上だぞ! いくらなんでも高すぎるだろ。この前も、ゴブリンのでかい巣穴を襲って皆殺しにしてきたが、百も稼げなかった。っとに、使えないザコどもだ」


「はいはい、それはご苦労なことだね。でも、何を言われたって三千は三千のままだよ。諦めるんだね。――それより、そっちのあんた、さっきも来てたけど今度は何かしていくのかい?」

「え、ああいや、俺はまた冷やかしみたいなものなんで、後でいいです。すいません」


 おお、昌明が敬語を使っている。流石、慣れていない相手には礼儀正しい。


「そんなこと言わずに、折角だから何かしておいきよ。クレーム坊やの相手は終わったから」

「おい、誰がクレーム坊やだ」

「アーツやアビリティのレベルを上げるでもいいし、新しいアビリティを習得するでもいいよ」


 うわ、無視しやがった。このババア、客を無視しやがったぞ。


「そうですね……。でも、よく使うアーツは大体レベル十まで上げ切ってますし、残りのは、もう少し金が貯まってからってことにさせて下さい」

「アビリティは? もう、二十まで上げ終わってるのかい?」

「いや、それはまだですね。なにせ、ポイントが足りませんから。あはは……」

「だったら、新しいのを習得していきな。今だと、建築業や金融業がおすすめだよ」

「おい、ババア! 俺たちは冒険者だぞ。何が悲しくて、建築家や銀行員になんぞに!」

「あんたには言ってないよ。それと、あんたは銀行員というより、闇金のチンピラだね」


 おい、誰だこんな失礼なNPC作ったの。製作会社に文句言ってやろうか。


「ち、行くぞ、昌明。こんなシケた店にもう用はねえ。さっさと出る」


 でもって、さっさと金とアビポを稼ぎに行く。山のようにな。


「それじゃあな、ババア。気が向いたら、また来てやる」

「……ふう。その時は、金とポイント、しっかり落として行っとくれよ」

「それも、気が向いたらだ」


 だが、問題はどうやって稼ぐかだ。地道に稼ぐなんて性に合わんし、これは、一度真剣に考える必要があるな。短期間でバーンと儲ける方法を。


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