0
あれから、一週間が経った。【Eosphorus】の人気に陰りはなく、日々、多くの人々があの世界を楽しんでいる。彼らにとっては、何事も無かったのだから当然だ。とはいえ、いくつか変わったこともある。
あの日以降、ゲームプレイヤーが犯罪を起こしたというニュースを聞かなくなったのだ。詳しく調べてもみたが、新たに事件が発生したという話は、一つも出てこなかった。代わりに、あの男の「遊び心」のせいで犯罪者になってしまった人達に、救済の手が差し伸べられているという話を見つけた。ただ、元々、殺人や強盗などの凶悪な犯罪を起こした人はいなかったらしい。
また、あの男の会社がボランティア団体に多額の寄付をし始めたという話や、福祉施設を運営し始めたなどという話も出てきた。加えて、ゲームの中において、小学校、中学校、高校、大学を設立運営し、また、様々な種類の塾や巨大な図書館などを公式に建設しているという話も耳にした。公的機関や民間団体との連携によって、実物となんら遜色ないクオリティを目指しているとのことだ。
誰に対しても無償で提供されるらしく、現実でそういった施設を利用することが難しい人たちからは、特に喜ばれているそうだ。
しかし、いずれも俺には既に関係のない話だ。あの日、あの戦いを最後に、俺はゲームをやめたのだから。そして、もう二度と触れることは無いだろう。決して……。
「ぐぁぁぁぁ! ま、また、また負けたー!」
――なんていう真っ当なことを言うような人間じゃないんだな、俺は。
「やい、八神! てめえ、製作者だからってチート使ってんだろ、チート!」
「おやおや、これは異なことを。負け惜しみは見苦しいよ、ハル君? 実力の差を認めたまえ」
「ああ⁉ てっめえ、寛大な心で全てを見逃してやった恩人に対してナメた口ききやがって! 上等だよ! こうなったらリアルファイトだ! オモテ出ろや、オモテェ!」
ゲームセンターの一角、【Eosphorus―Arcade】の台に俺は座っている。向かいの台には、嘲り笑顔のいけ好かない男が座っている。そして周りには――
「アハハハハ! 無様、BU☆ZA☆MA! ま、サルの実力なんてその程度よね~」
「暴力は駄目だよ、ハル君! ゲームで頑張ろ! 次はきっと勝てるよ!」
「ハル、おまっ、何負けてんだよ! 俺の、俺の愛と信頼を返せー!」
「残念だったな、昌明。賭けは俺の勝ちだ。ちゃんとリゼちゃんから卒業しろよ?」
ルーナ、ネイ、昌明、イナコーが口々に思い思いのことを言う。特にルーナは、単なるギャラリーの分際で好き勝手なことを言っている。
「ほら、ハル君? 彼女が健気に応援してくれているよ? 負けたままでいいのかい?」
クサレ犯罪者である八神の煽り口調も段々とレベルが上がっている。
「バカ言ってんじゃねえ! この俺が負けっぱなしでいられ――」
「ちょっと待って? 八神さん、今の『彼女』というのは誰の事を指しているのかしら? 言っておきますけど、私とこのサルは恋人どころか友人ですらありませんので! 寧のことを言ってる場合でも同様ですので! 決して誤解なさらないようにお願いしますわ」
ルーナが人差し指を立て、張り付けたような笑顔で優しく忠告する。
「お前、『彼女』の後の『健気』という単語が聞こえなかったのか? お前には全く縁のない素敵ワードだぞ? 意味知らないのか? ていうか何だ、そのエセお嬢様言葉は。キモいぞ?」
「――ふっ。よしサル、次は私と戦え。望み通り、健気さの欠片もなくぶっ潰してやるわよ!」
急に本性を現した。俺の隣の台に勢いよく座り込む。
「あーあ、まーた痴話喧嘩が始まった。どっちも飽きないな」
「なあイナコー、もう一回賭けよう? 俺にもう一度チャンスを与えるべきだと思うの」
「ネイちゃんとハル君は本当に仲良しだよね。羨ましいなぁ」
周りのみんなが半ば呆れたような目で見ている。ったく、コイツは何も変わらないな。
――そう、何も変わらない。変わっていない。だって、俺はそれを望んだのだから。
結局、俺は変わらない日々が大切だった。八神を告発して日常が変化することを拒んだ。良心をかなぐり捨て、八神を利用して世界を獲るという野望に溢れた選択も、出来たはずなのにしなかった。分かっていたことだが、やはり、俺は普通を抜け出せない人間だ。それが、良いことなのか悪いことなのか、喜ぶべきことなのか悲しむべきことなのか、俺には分からない。
「サル、早く準備しなさいよ! 私の華麗なるアバターさばきを見せてやるってのよ!」
けど、少なくとも、俺は今を楽しんでいる。この先に続く未来を、楽しみしている。
「ああ、楽しみだ」
Fin.
まずは、このような拙作をご覧いただき有難うございます。出来るだけ迷わずに勢いに任せて書き進めたせいか、自分としてはかなり速筆で書き終えることが出来たように思います。その代わり、クオリティの面についてはお察しな部分が多々あったりするのですが(汗。
ただ、なにはともあれ作品を一つ終わらせることが出来たのは良かったかなと思っています。最後まで読んでいただいた方には、本当に感謝の思いしかありません。
これ以降も、新しい話や今止まっている話を進めていこうと考えていますので、よろしければ、どうかまたお付き合いください。
この度は拙作をご覧いただきましたこと、改めて御礼申し上げます。
本当にありがとうございました!




