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Eosphorus-イオスフォロス-  作者: 白雪 蛍
23/25

 目を開くと、一面が夜の世界へと変わっていた。辺りは暗いというよりも黒く、しかし、遠くの方に無数の光の点が見える。まるで、プラネタリウムにいるかのようだ。


「――は、ぼーっとしてる場合じゃない。ルーナ、ネイちゃん! 二人ともいるか⁉」


 周りを見回すと二人はすぐ後ろにいた。何故か、自分たちの足元を見つめている。


「なんだ、いたんなら返事くらい……」


 そう言いかけて、体が固まる。驚いた表情をしている二人につられて、俺も自分の足元を見たからだ。そこには、青く大きな星、地球があった。


「え、うわっ! なんじゃこれっ!」


 宇宙空間に放り出されたのだろうか。だとしたら、どうして足場があるのか、どうして息ができるのか、様々なことが頭を駆け巡った後、気づいた。ここは、ゲームの中だった、と。


「ふう。慌てて損した。しかし、こりゃどういうことだ? 光に吸い込まれたと思ったら……」


 改めて周囲を見回す。また、呼吸の感覚や、見えない足場の感触を確かめる。


「アンタが貰ったって言うコードが本物だったってことでしょ。良かったじゃない」


 ルーナが地球の方をつぶさに観察しながら、わりと機嫌よさそうな口調で言う。


「……まあ、それは確かに。けど、これ地上に帰るにはどうすればいいんだ?」


 どこかにロケットでも浮いてるんだろうか。それとも、時間が経てば勝手に戻されるんだろうか。……どう考えても後者だな。なら精一杯、疑似宇宙観光をして時間を過ごそう。


「宇宙かあ、良いよなあ。人類に残された最後のロマン、俺も一度くらいは本物を――」

「ネイ? どうしたの?」


 不意に出た、ルーナの不思議そうな問いかけ。それが気になり、俺もネイに視線を向けた。


「あれ……」


 ネイが遠くの一点を指差し、呟く。それは、宇宙に散らばる美しい光の一つだった。とはいえ、俺には特別魅入られる程のものではないように思える。感性の違いだ。仕方ない。


「――あれ、近づいて来てるような感じがする」

「はぁ⁉」「え、ウソ⁉」


 ネイの発言に思わず、一度切った目線を戻す。神経を集中してその光を見つめていると、ようやく、俺にも異変が感じ取れた。少しずつ大きくなる光、加えて、少しずつ聞こえてくる音。ぼんやりとしていた形が次第に明瞭となり、同時に、音の正体に思い至る。


 それは、翼をはためかす音だった。大きく、燃えるように赤い、両翼の音だった。


 西洋の神話や伝説において、竜は邪悪の象徴として数多く描かれているが、中でも、より特別とされる存在がある。その竜は、七つの頭と十本の角を持ち、七つの冠をかぶり、火のように赤く大きかったそうだ。原書に刻まれし、彼の者の名は――


「ルシファー……」


 こちらを睥睨する十四の眼。自然に放たれる圧倒的な威圧感に、思わず思考と体が停止してしまいそうになる。だが、七つの口に光が収束し始めたとき、頭の中で警鐘が鳴った。


「全員離れろッ!」


 叫ぶと同時に後退。容赦なく迫る閃光を紙一重の所で躱す。……そう、躱したはずだった。


「くっそ! ダメージ入ったぞ、今の!」


 巻き起こった爆風を受けただけで、体力の半分近くを持って行かれた。倒れた体を起こし、二人へと目をやると、ネイについてはルーナが護ったらしく、二人とも何とか無事らしかった。


「まったく、いきなりあんな攻撃してくるなんて、危うく出オチかます所だったじゃない」


 ルーナが埃を払いながら立ち上がる。軽口とは裏腹に、その表情は真剣そのものだ。ルシファーを睨みつけると同時、左手を掲げる。直後、現れたのは三匹の白い大型犬だ。


「ダメージを代わりに受けてくれる使い魔よ。これで即死は防げるでしょ」


 使い魔が一体、俺のところにやって来る。安堵の息が喉を通ろうとした時、ルシファーが次の行動を起こした。最初に七つの咆哮が轟き、次に、遠くで輝く幾千幾万の綺羅星が一斉に光を増したのだ。戸惑うことも許されないままに降り注ぐ流星群、一つ一つの命中精度など考える意味がない膨大な物量が迫る。走り回り、転げ回り、回避に全力を尽くすが、盤面の全てを覆い尽くす流星から逃れる術などなかった。


 ――もしもこの時、ルーナの使い魔がいなかったとしたら、全滅は免れなかっただろう。攻撃が止む頃、三匹の犬は消えていた。


「ごほっ、ごほっ……。コイツ、半端じゃないわね」


 隣にいるルーナが片膝立ちで咳込み、そのまた隣ではネイが尻餅をついている。


「大丈夫か、ネイちゃん?」

「うん、痛っ、大丈夫。ありがとう」


 笑って誤魔化しているが、多少のダメージを受けたのは様子から見て取れる。とはいえ、アレを受けて生き延びているだけラッキーだろう。それより、問題はどうやって反撃するかだな。ルシファー自身は最初の位置から一歩も動いていないが、あんな攻撃を撃たれたんじゃ満足に近づけもしない。俺が頭を悩ませていると、一足先にルーナが立ち上がる。


「ったく、様子見してる暇もないなんてね。――いいわ、全力よ。本気の本気で殺しに行く!」


 叫ぶとともに左手を高くつき上げる。虚空が九ヵ所、バチバチと音を立てて弾け割れ、猛々しい嘶きが耳に届く。熾天の九世竜、リヴァイアサンを討った九体の竜が現れた。


「……そいつらなら、倒せるのか?」

「難しいでしょうね」

「難しいって、え、いやおい!」


 予想外の答えに困惑する。倒せるから呼んだんじゃないのかよ。


「勘違いしないで。本気の本気って言ったでしょ。奥の手、見せてやるわよ」


 再度、左手を掲げる。そこから淡い光が放たれ、ゆっくりと九体の竜を包んでいく。


「融合」


 その言葉を合図に、九体の竜は一体の竜となった。ルシファーと同等の巨体。だが、その竜は二本の脚で立ち、全身に騎士鎧を纏い、四本の腕は其々に武器を装備している。二振りの剣と二丁のライフルを左右一対ずつだ。そして背中では、四枚の巨翼が強い輝きを放っている。


「二人とも乗って!」


 ルーナが叫ぶ。だが、言う通りに乗ろうとした時、ルシファーから七つの熱線が飛んでくる。間違いなく直撃コース、回避は不可能。それを、反らした。騎士竜が七度、剣を煌かせたのだ。


「今のうちよ! 今度こそ、早く!」


 ルーナがリードし、俺とネイが後に続く。肩口の辺りに立ち、しっかりとしがみつく。


「――さあ、始めるわよ。逆襲を!」


 騎士竜が飛び立つ、赤き竜に向かって。魔光の銃撃を連射しながらの急速接近、一気に剣の間合いに突入し、二剣の高速斬撃を炸裂――させたはずだった。


「ちぃっ、コイツ!」


 まるで効いていない。銃撃と斬撃の直撃を受けて、傷一つ負っていない。ルーナが舌打ちすると同時に騎士竜を後退させる。それとタイミングを合わせるかのように、赤き竜が十本の角を共鳴振動させる。強い衝撃波が放たれ、次に、細く短いレーザー光線が無数に乱射される。速度を上げて回避に専念、だが、追尾機能を有したレーザーはどこまでも追いかけてくる。


「サル! アンタ、あんなレーザーくらいササっと斬れないわけ⁉」

「バカか、無茶言うな! どんだけあると思ってんだ! お前のドラゴンの方こそ、もっと速く飛べないのか! このままじゃ追いつかれるぞ!」

「うっさいわね! そんなこと分かって――ああ⁉」


 流星。無数の星々が再び降り注ぐ。最低でも、大の男より二回りは大きい星屑の嵐に見舞われる。加えて、後方からは依然として数多のレーザーが迫ってきている。


「――すぅ、はぁ。ネイ、サル、今から一か八か、命懸けの方法を取る。私を、信じてくれる?」

「うん、もちろん!」「絶対、嫌だ!」

「よし! じゃあ、行くわよ! 全速で突撃!」


 上方から迫り来る流星群に向かって、躊躇なく突入する。紙一重の回避運動、銃と剣での破砕行動。星の欠片は宙を舞い、鋭い刃となって撒き散らされる。


「おぅわああああああああ!」「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!」


 だから嫌だって言ったんだ! 騎士竜の肩で死のダンスを踊らされながら、振り落とされないようにしがみつく。躱し損ねた欠片で地味に体力が削られるが、その度に、ネイが回復のフォースを唱える。絶叫マシーンに乗っているかの如く声を震わせて詠唱し、半泣きになりながら発動している。


 背後から迫るレーザーが流星群と激突、星を砕き燃え上がらせ、数多の爆鳴を轟かせる。嵐の果てが見えた時、目の前には殊更巨大な星石が、後ろにはわずかに残ったレーザー群があった。騎士竜が、銃と剣を以て星石の破壊に向かう。レーザー群は――


「しょうがないわね!」


 虚空に氷の柱を乱立させて防壁となし、食い止めた。氷の華は、その身をいくら砕かれようとも、貫通だけは許さなかった。――そして、星石は撃ち裂かれた。原形を留めることなく粉々に砕け散り、宇宙の塵となっていく。だが、余韻に浸る暇はない。追撃を受ける前に反撃する。


「アーツ2、解放」「フォース1、解放」


 長剣を手に、爆炎を降らせる。ルーナは光の大剣を撃ち下ろす。騎士竜は銃撃による強襲を行う。その全ては、眼下の赤き竜へと間違いなく炸裂した。そう、炸裂したはずなのだ。


「……効いてないな。あれはもう防御力が高いって次元の話じゃなさそうだけど、どう思う?」

「そりゃ、普通に考えればあの七つの冠のせいでしょ。これ見よがしな特徴なわけだし」


 全くの同意見だ。しかし、あんな小さい的をピンポイントで狙って確実に破壊するには、ルシファーの至近距離まで近づく必要があるだろう。……まあ、俺の役目だな。


「それじゃあサル、こっちは任せるから。ネイ、こいつを上手くサポートしてあげて」

「――は? え、おい、ちょっと待っ」「ルーナちゃん⁉」


 ルーナが飛び降りる。人の話を聞かずに、その衣装を赤いドレスへと変えて。冠を破壊するには直接殴るのが一番だと判断したのだろう。それはいい。俺も同意見だから。だが――


「あのバカ、自分がやられたら使い魔も消えるってこと分かってんのか! 早まりやがって!」


 しかし、もう遅い。ルーナはその爪や強靭な脚力でルシファーとの激突を開始したのだ。くっそ、冠を破壊するだけなら俺に手があったっていうのに、あのカッコつけめ。


「だぁー、今更そんなこと考えても仕方ない! ネイ! 聞け!」

「えっ、は、はい!」


 ルーナを心配そうに見ていたネイが体を震わせ、俺の方を向く。


「今から俺も飛び降りる。速攻で冠をぶった切るから、お前はそれに合わせて騎士竜を突撃させろ。いいか、全力で突撃させるんだ。突進だけで殺す勢いでだ! 分かったな?」

「え、えっと、はい! 分かりました!」


 返答を聞き届け、飛び降りる。虚空に身を預け、目を見開く。ルシファーはルーナとの戦闘に集中している。だが、肝心の冠は一つも失われていない。七つ全て、健在だ。――自らの体が赤き竜の頭部全てと水平に並ぶ瞬間を待つ。剣を収め、代わりに刀を手に取る。機会は一度、その一度で、七つの冠全てを葬り去る。第一及び第四アーツ、起動。縮地×斬鉄剣=


「斬鋼、瞬連刃!」


 虚空を駆け抜ける。鍔鳴りの音が響く。金属の割れる音が聞こえる。二つに割れる音が、七度。時を同じくして、騎士竜の嘶きが轟く。振り向くと、ルシファーの背中が目に映った。数多の魔光の弾丸を浴び、二本の剣を突き立てられ、崩れ落ちていく赤き竜の姿があった。


「おっしゃー! よくやった、ネイ! よくやった、俺! もう完璧なチームワークだっ――」


 騎士竜の方に駆け寄ろうとした瞬間、横目に見た。光を失いつつあったルシファーの瞳が、力を取り戻すのを。四番目、中央の頭が口元に光を集める。躱す間もなく放たれる熱線、それをまさに浴びようかという直前だ。

 誰かの右手が熱線を遮り、ルシファーへと跳ね返した。その圧倒的な熱量をまともに受けた赤き竜は、今度こそ力を失い、光となって消えていく。


「油断してんじゃないわよ」


 赤いドレスの銀髪女が、俺の隣でそう言った。


「ふ、バッカ、今のは油断じゃない。お前に活躍のチャンスをプレゼントしてやったんだ」

「はっ、それはどうも。まったく、とんだ減らず口ね」


 いつもの言い合いをする俺達だが、顔は笑っている。そこにネイもやってきた。


「やったね、ルーナちゃん、ハル君!」

「「ふ、まあな(ね)。ていっても、俺(私)がいたんだから当然なんだが(けどね)」」


 示し合わせたかのように、ルーナとハーモニる。すぐさま、互いに睨み合いを開始する。


「ふふ、あはは! もう、本当に二人は仲良しだね!」

「「仲良くないっ!」」


 微笑ましいとでも言いたげなネイに、二人揃って顔をしかめ叫ぶ。


「もう、ネイはそうやってすぐ変な勘違いを――ッ、がはっ⁉」

「ルーナっ⁉」「ルーナちゃん⁉」


 突然の出来事だった。突然、一筋の閃光が背後からルーナの胸を貫いたのだ。当惑したまま、即座に後ろを振り向く。ルーナに至っては、振り向きざまに光の巨円球を放った。――爆発が巻き起こる。そこにいた何者かは、確実に逃れられなかっただろう。

 光の残滓が煙のように立ち上り、少しずつ視界が晴れていく。その時だ。二度、三度と閃光が瞬く。目にも止まらぬ閃き、反射的に飛び退いたが、標的は俺ではなかった。ルーナが膝を折って、顔をしかめている。


「おい、大丈夫か⁉」

「バカ! 私のことはいいから、敵から目を離すんじゃないわよ!」


 怒鳴られ、咄嗟に何者かの方向に目を向ける。視界は、すでに澄み切っていた。


 ――天使。ヤツを見たなら、誰もがそう思うだろう。


 俺より少し高いくらいの背丈、ゆったりとした純白のローブから垣間見える細く引き締まった肉体に、流れる長い金髪と翠緑の瞳。そして、大きく、白く美しい六枚の翼。まさに、神々しいと言う他はない姿だ。


「……そういや、ルシファーは元々、神に次ぐ大天使だったな。なるほど、それが真の姿か」


 中性的な顔立ち、思わず見惚れてしまいそうな相貌は、静かに微笑みをたたえている。翻って言えば、コイツは微笑みながら攻撃してきたということだ。笑いながら相手を殴れるとは、さすが悪魔の王。俺とは実に気が合いそうだ。今すぐしばき倒して屈服させてやりたい。


「ルーナちゃん!」


 その叫びに視線を引き戻される。見ると、ルーナの体が少しずつ消え始めている。


「ルーナ、お前……」

「敵から、目を離すなって言ってんでしょ……。――ま、今はいいか」


 ルーナは口惜しそうに呟きながらも、なぜか口元に笑みを浮かべる。


「サル! これ、受け取りなさい」


 そう言って突き出した物は、俺に渡ることを必死に拒んでいた、アスモデウスの大剣だった。


「ルーナ、いいのかよ……?」

「良いも何も、元々、アンタが貰うはずの物だったでしょ。それに、ここまで来て負けるわけにいかないじゃない。あんな、いけ好かない顔してるヤツにさ。――ねえ?」


 同意を求めるように、ネイを見る。ネイは何も答えず、寂しそうな、泣きそうな顔をして、静かにルーナに寄り添っている。ルーナは一度だけその胸に頬を寄せると、俺へと目を向けた。


「いい?  絶対に勝ちなさいよ。負けて戻ってきたら許さないから! そ・れ・と!」


 大剣を押し付けながら、顔を近づけて念を押すように口を開く。


「私のお金とアイテム、ちゃんと拾っておいてよね。忘れたり、ネコババとかしたら倍にして返させるからね! あー、心配だわ。心配だから、ネイはコイツをちゃんと見張っておいてね」

「……ルーナちゃん。うん、分かった。ふふ、ちゃんと見張っておくね」


 途中からどこか白々しい言い方をするルーナに、ネイは一瞬呆気に取られていたようだったが、すぐに花咲くような笑顔を見せ、親友の頼みを受任した。


「ハルも、本当に任せたからね。この私が恥を忍んで頼むんだから、ちゃんと果たしなさいよ?」


 いつも通りの、偉そうな言い方。――ただ、少しだけ違うところもある。初めて、俺の名前を呼んで、初めて、やさしい笑顔を俺に向けたんだ。単純なことに、それだけでルーナの頼みを聞く気になった。それだけで、心の底が、魂が燃え盛っていくのをはっきりと感じた。


「ああ、確かに任された。この剣に誓って、必ず果たしてやる。だから、安心しとけ、ルーナ」

「……約束、したからね? 絶対よ?」


 そして、ルーナは笑って消えていった。死に際にはその人間の本性が出るらしいが、アイツは結構心配性な人間ってことになるのかな。生意気な性格してる癖に、よく分からない奴だよ。


「――さて、と。わざわざ話が終わるまで待っててくれるなんて、お前、意外といい奴なのか?」


 ルーナの遺品を拾うネイを後ろに、六枚羽の天使と対峙する。大剣を構え、力を込める。


「言っとくが、今の俺は最高潮だからよ。そこんとこだけ、気を付けておけよなッ!」


 一気呵成に切り込む。一手で距離を詰め、大剣を全力で振り下ろす。が、素手で止められ、左手から放たれた衝撃波によって大きく吹き飛ばされる。


「ハル君っ!」

「大丈夫だ!」


 特効というものは、攻撃用と防御用が存在する。悪魔・人・天使、この剣はそれら三種族に対して、攻撃と防御、両方の特効を併せ持っている。


「さすが、あのクソガキの武器だけあって、半端じゃない性能だ」


 脳裏にアスモデウスの姿が浮かぶ。本来耐えきれない攻撃も、この剣を装備している状態なら耐えられる。指先から放たれる閃光、ルーナを破った攻撃が連続で迫り来る。剣で一つ一つを確実に防ぎ、弾く。どれだけその攻撃を受けようと、剣は傷つくことはない。耐久値無限。通常の武器では有り得ないそれを、この武器は有している。


 そして、極めつけは専用アーツだ。大剣に最初からセットされている五つのアーツが、この武器を真に特別なものにしている。


「アーツ1、解放」


 再度、斬り込む。天使が掌で光の弾を作り出し、高速回転させる。放たれたそれは、俺の足元に着弾し爆炎を巻き起こした。しかし、ダメージは受けていない。アーツ1、一度限りの絶対回避、及び、次に放つ攻撃を必中・クリティカルヒットとする。


「アーツ2、解放」


 天使の左サイドへと瞬間移動、碧の斬撃波を放ち、さらに移動を重ねて背後からの刺突。わずかに歪む天使の顔、直後、足元を中心に円形の魔法陣が描かれる。光の刃が突き上がるが、即座に大剣で防ぐ。しかし、防ぎきれず、今度は軽くはないダメージを負ってしまう。加えて、マズいことに天使の姿を見失ってしまう。


「ハル君、上っ!」


 叫びに反応し、見上げる。ヤツが左手を掲げている。虚空の星々が、輝きを増している。


「あれか」


 すぐさま直感した。来る、不可避の流星群が。


「アーツ3、解放」


 剣身が染まっていく。白は黒へ、碧は紅へと変貌を遂げる。紅黒いオーラが全身を包み、周囲に漂う。全能力の向上を確認。飛来する流星、その第一波に向かって駆ける。オーラを纏いリーチと威力を増した大剣で、十の星を切り裂き、打ち砕く。


「ネイ、こっちへ!」


 しかし、次第に勢いを増す流星に対応し続けるのは至難の業。いずれはその量に圧し潰されるだろう。だが俺には、そうならないための一手が残されている。ネイの手を取り、発声。


「アーツ4、解放」


 紅と黒のオーラが体の周囲を球状に包み込む。それは単なるバリアではなく、全方位に対するカウンターアーツ。向かってくる流星をバリアから放たれる紅黒い弾丸が尽く粉砕し、果ては天使へと至る。しかし、それを六枚の翼が阻む。流星と弾丸の撃ち合い。


 互いに互いの攻撃を防ぎ続け、終には防ぎきる。すると、天に浮かんでいるヤツが、少し高度を下げる。離れた位置から俺を見下ろすような形だ。更に、六枚の翼が大きく開かれる。舞い散る数多の羽根は落ちることなく天使の周囲を彷徨い、やがて、ゆっくりと静止した。


「ネイ、ここから出来るだけ下がった方がいい。多分、大分ヤバいのがくる」

「え、ハル君……?」


 そして恐らく、次の攻撃が最後になる。大剣を構え直し、見据える。目に映るその姿は、一枚の絵画の様だ。白く大きな翼を持った天使が、翼と両腕を広げ、優しく微笑んでいる。優雅で、優美で、何より、この上なく神々しい。だが、それはまやかし。アレは、ただの敵だ。


「アーツ5、解放」


 最後のアーツを解放する。全てのアーツのクールタイムを強制的に完了させ、さらに、オーラによって自らの分身を作り出す。紅黒の剣士が六体、周囲に展開される。


「――行くぞ」


 駆け出す。静止していた羽から熱戦が放射される。直線と曲線が入り混じるそれらが、俺を含めた七つの的に向かって、間断なく連続で撃ち込まれる。躱し、防ぎ、弾きながら前へと突き進む。そして、六枚の翼から放たれる。六筋の、極大の閃光が迫る。


「アーツ1、2、解放!」


 俺の動きに合わせ、六騎の影が同じ動作をする。超高速度で眼前に至る閃光、絶対回避、そして、次に放つ攻撃は必中となり、クリティカルヒットとなる。

 七つの方向より放つ紅黒の斬撃波。次いで、天使の肉体に突き立てる会心の刺突七連撃。純白の天使は、七振りの刃によって穿たれた。分身が消え、剣が元の色を取り戻していく。


 しかし、終わりではない。分かっていた。そして、動きは同時だった。俺が剣を引き抜き全力で切り上げるのと、ヤツの左手が俺へと迫るのとは。なのに、相打ちとはならなかった。魔防壁、俺が張ったものではないそれが、一瞬、ほんのコンマ数秒の間、ヤツの攻撃を防いだ。

 そしてその一瞬は、俺の一撃を届かせたのだ。互いに落ちていく体、見えない足場に叩きつけられる。ヤツはそのまま、起き上がることなく倒れ伏す。


 だが、俺は立ち上がった。消えていく天使の体。欠片一つ残さず消えるまで、それを見ていた。

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