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Eosphorus-イオスフォロス-  作者: 白雪 蛍
21/25

そろそろ終わります

「まったく、キジがあんなクズ野朗だったとはね。私のパーティの面汚しだわ!」

「うん、私も浮気は駄目だと思う。もし、将来お付き合いする人とか、旦那様にそういうことされたら、私は絶対悲しくなるだろうし。……男の人は、そういうの気にしないのかな?」


 はいはい、見えてきました。見えてきましたよー。まさかの映像音声付きですわー。人類の技術に乾杯。――さて、どうやらイナコーの話をしているようだが、そんなことはどうでもいい。水着だ、水着。二人とも仲良く温泉に浸かっているが、……ふむふむ、なんと、ルーナは黒のレースか。


 下着はお子様色の真っ白パンツのくせに、水着は自信満々だな。上から下まですっとんとんな体で、どうやったらそんな自信が生まれるのか聞きたいもんだ。――とはいえ、肌の白さ、きれいなくびれ、足の細さは加点要素だな。ただ、胸がスッカスカなので大幅減点。

 

 ――ま、三十点てところだな。ギリギリ赤点回避です。さ、余興は終わり。本命のネイお嬢さんにいこうじゃないか。……ふむ、ふむふむふむ、うん、百点だね。間違いないね。ピンクの花柄ワンピというセクシーさを捨てた選択でありながら、美しくも大きい双丘と、それとはアンバランスな細い、腰! 脚! 完璧なくびれ! カモシカのような脚! によって可憐さの中にアダルティなグラマラスさを潜ませている。おまけに顔も可愛い。完璧ですわあ。


 と、俺が一人、水着審査員になりきっていると、二人の会話が進み始める。


「ネイにとっては将来の心配なわけね。私にとっては現在の問題よ。問題児はあのサルだけで十分だって言うのに……。いや、アイツは人を傷つける度胸はないだろうし、浮気できるほどモテないだろうから、キジよりはマシかな。ムカつくけど、クズっていう程でもないか、も?」

「ルーナちゃん、本当にハル君の事が大好きなんだねー」


「「はあ⁉」」 ――っと、いかん。ネイの暢気発言に思わず叫んでしまった。


「ネイ、なんで今ので私があのサルの事を好きって話になるのよ? 意味わかんないんだけど」

「だってルーナちゃん、ハル君と話してるときだけムキになるし、変にツンツンしてるよ? 私と初めてお話したときとか、クラスに転校してきたばかりの時みたいに。ルーナちゃん、自分が仲良くなりたいと思ってる人には冷たくする癖があるよね」

「ないから! そんな小学生の男の子みたいな癖ないから! 転校初日とか、バリバリフレンドリーだったし! ネイと初めて会った時だって、愛想の良さ全開だったじゃない!」


「えー? そうだったかなあ?」

「そうなの! もう! ――ま、でも、私は決して好きじゃないし? どうでもいいと思ってるけど? あのバカがどうしても私と仲良くしたいって言うなら、その時は考えるわ」

「もう、素直じゃないなー。でも、ルーナちゃんのそういう所、私は可愛いと思ってるけどね」

「うるさい。私は素直よ。ずっと素直。ネイが勘違いしてるだけ」

「はいはい、そーいうことにしておきましょー。あはははは…………!」


 ……妙な話を、聞いてしまったな。どうしよう、聞かなかったことにしようかな。


「おい兄ちゃん、大丈夫か? 急に頭を抱えだして」

「大丈夫。ちょっと、これから会う友人にどう接すればいいかを考えていただけです。でも、のぼせそうなのでもう出ますね。――お先に失礼します」

「え、あ、ああ、おう! 気を付けてな。ダチによろしく言っといてくれや!」


 あーあ、ルーナの変な一面を知ってしまった。えー、どうしよう。もし、アイツが俺と友達になりたいとか考えてたんだとしたら、結構酷いことしちゃったよなあ。覗きと盗み聞きまでしちゃったし、大バカだなあ俺。――決めた。温泉から出てきたら、優しくしてあげよう。


 服の修繕は完了していた。なので、着替えてさっさと更衣室を出る。二人を待つ間、愚かな自分を反省し、今までの事を何か形にして謝罪しようと思い、土産物屋に向かう。――その途中の事だった。とある個室から、気になる話し声が聞こえたのだ。


「……となると、やはり、このまま七大悪魔を野放しにしておくことは危険だと?」

「うむ。既にあちら側の世界にもかなりの被害が及んでいる。特に、奴らに所縁のあるアイテムやアビリティを手にしてしまった者は己を見失うという話だ」

「闇に呑まれる、か。確かに、奴らの力は強大極まる。一般人ではどうにもなるまいよ」


 三人の男が話し込んでいる。耳を澄まして聞くと、どうやら七大悪魔についてらしい。


「では、我らが出撃するべき時がきたと、そう理解してよいのだな?」

「早計だぞ。我々ほどの実力者が下手に動けば、無用な混乱を招くことになりかねんのだ」


「その通り。なにせ、我らには邪王様より授かりし力が――うっ⁉ み、右眼がぁぁぁ!」

「ど、どうし――、うぐっ⁉ み、右腕が、右腕が疼く! 疼くぞぉぉぉぉ!」

「大丈夫か、二人とも! ちぃ、ここは既に憎きサタンのテリトリー。邪王様の力が無意識下で反応しているというのかっ! ――なっ、雷帝の鎚が勝手に⁉ ぐ、し、鎮まれぇぇぇ!」


 まだ会話は続いているらしかったが、それよりも、俺は一つ気になることが出来た。部屋の前に立てられた、パーティ名を示す札。そこには《不可視の世界にて森羅万象を支配する雷鎚持つ闇炎の邪王を崇拝する敬虔なる信徒》御一行様と書かれていた。……ふ、どうりで話が妙なわけだ。まさか、頭のおかしい中二病患者どもの戯言だったとはな。まったく、下らん話に耳を傾けてしまったものだ。くっ、くぉぉ、まざりてえぇ! 俺も仲間に入れてもらいてぇぇ!


「アンタ、そんなところで何してんの?」


 あ、可愛いルーナちゃんとネイちゃんが出てきた。二人とも浴衣を着てゆったりモードだ。


「……あれ? 二人とも、なんで浴衣を着ているんだい?」

「えへへ、せっかくだからね」

「逆にアンタはなんで着てないのよ。これから座敷で食事するのに、雰囲気でないじゃない」


 二人は旅行気分を満喫しているらしい。大変喜ばしいことだ。


「いや、俺はこれでいいよ。それより、二人とも似合ってるよ。特に、ルーナは似合ってる」


 紳士的に、優しく、深窓の令嬢に話しかける如く、丁寧に話す。と、二人は妙な顔をする。


「なによ、アンタ。からかってんの? ネイはともかく、私の事までほめるなんて」

「からかってなんかいないさ。本気で言ってる。ネイちゃんより、君の方が似合ってるよ」

「ふーん。ま、サルなんかにほめられてもって感じだけどね。嬉しいって言うより、キモいわ」


 前言撤回。こいつ、絶対俺と仲良くしたいなんて思ってない。やっぱ、いつも通りでいこう。


「あ、あは、あははは。酷いなあ。本当に似合ってるのに。うんうん、完璧に似合ってるよ。似合ってるに決まってるじゃないか。なんせ、浴衣は胸がスレンダーな女の方が似合うからな。頭の先から足の先までスレンダーなお前にはぴったりよ。フーファッハッハーハハハハハ!」


「――そう、分かった。つまり、アンタは死にたいわけね」


 ルーナが顔をゆがめ、指の骨を鳴らしている。よし、調子が戻ってきた。完璧に平常運転だ。


「さ、食事処に行くか。さっきチラっと見たら、サタン定食なるものがあったぞ。楽しみだな」


 今にも飛び掛かってこようとするバカはほっといて、食事効果をつけないとな。


「お、落ち着いて、ルーナちゃん!」

「離して、ネイ! コイツだけは生かしておけないわ! 私の平和のために闇に葬るッ!」


 他人の振り、他人の振り。座敷のお食事が楽しみだなー。


 ――それを目にした時の絶望感を、俺は生涯忘れることはないだろう。

真っ赤だったのだ。ぐつぐつと煮えたぎる赤きもの達が、白きもの達を侵食していたのだ。圧倒的な物量と質を前に、戦闘は困難を極めたが、俺は辛くも勝利を収めることが出来た。


「あー、辛かった。まさか、カレーライスと麻婆豆腐と担々麺の三点セットだったとは」


 おかげで、口の中がまだヒリヒリする。しかも、食べきるのに時間がかかったせいで、宿から出た時には夕陽が沈みかかっていた。もうじき夜時間が始まるのだ。とはいえ、街の活気は未だ衰えてはいない。和装や洋装、様々な服装に身を包んだ者たちが通りを闊歩している。いつもの服に着替えた二人と共に、俺は雑踏の中を山の方に向かって歩き始めていた。


「ところでルーナ、山の中にはサタン以外にも強い敵はいるのか?」

「…………」


 無視ですか。どうやら、さっきのことをまだ怒っているらしい。まったく、信じられないくらい器の小さい女だ。胸も性格もペったんことは救いようがないな。


「ね、ねえ、ルーナちゃん。サタンってやっぱりすごく強いんだよね? 私、大丈夫かな?」


 気を回したのか、ネイがぎこちない笑顔で間に入ってくる。すると、ルーナも口を開いた。


「心配しなくても大丈夫よ。私が護るし、それに、戦いも今までで一番楽に終わるだろうから」


 それを聞いて、俺は唖然となる。聞き間違いかと思ったので、問い返してみる。


「今までで一番楽ってどういうことだ? サタンは弱いのか?」

「……アンタ、バカ? 強いに決まってるでしょ。単純な戦闘力なら、ベルゼブブやリヴァイアサンでも問題にならないくらいにね。でも、勝つことは難しくないって言ってんの」


 若干真面目な顔で聞いたせいか、今度は無視されなかった。冷めた目で馬鹿にはされたけど。


「つまり、簡単な攻略法があるとか、ハメ技や裏技があるとかそういうことか?」

「行けば分かるわよ。すぐにね」


 その言葉に、俺はネイと顔を見合わせる。ルーナには数えきれない程の欠点があるが、説明嫌いでもったいぶろうとするのもその一つだ。本当、もう少し可愛げが欲しい。

町の門をくぐると、目的の場所はすぐだった。《サタンの棲む山》、実に分かりやすい標識が立てられた所に黒スーツの男が待機していて、その奥、山のふもとで大勢の人が行列を作っている。俺たちが近づくと、黒服が丁寧な口調で話しかけてきた。


「お三方はもしや、魔王サタンに挑戦に来られた方々ですか?」

「そうよ。今すぐ行けるかしら?」

「はい、大丈夫です。皆さんでちょうど三十パーティ目となりますので、すぐ出陣になると思いますよ。――ところで、挑戦に際しての説明などはご入用ですか?」

「いらないわ。前にも来たことあるから。あと、インシュアランスもいらない」

「畏まりました。ではどうぞ、列の方にお並びください」


 ルーナが黒服と話を済ませると、よくわからないまま列の最後尾へと通される。


「おい、ルーナ。何だったんだよ。今の問答は?」

「サタンは七大悪魔の中でもかなり人気があるのよ。有名だし、立地的にも挑戦しやすいしね。だから、大体三十パーティ位が一度にまとめて挑む特別討伐戦って形をとる取り決めなの」

「へえー、なるほど。じゃあ、インシュアランスっていうのは?」

「ゲームオーバーになった時、所持金とアイテムを半分置いていくことになるでしょ? それを回収して、自分の所にまで届けてくれるサービスよ。有料だけどね」

「ほうほう、そりゃまた需要のありそうなサービスだな。誰か知らんが、金儲けの上手いプレイヤーがいたもんだ。……で、俺たちは今からこの連中と一緒にサタン討伐に行くってわけか」


 全体の人数としては百三十人前後だろう。幼稚園児くらいの容姿のヤツから杖をついているヨボヨボの老人までいる。また、男だけのパーティや女だけのパーティ、ハーレムパーティや逆ハーレムパーティと色々いるが、どこも大体五人そろっている。中にはソロプレイヤーらしき人もいるが、ごく少数だ。こんな有象無象連中と一緒に行って大丈夫なのか、不安しかない。イナコーの話だと、七大悪魔は戦闘開始時の人数で戦闘力が増減するらしいというのに。


「アンタの考えてることは大体わかるけど、足手まといになるとしたらアンタの方よ」

「はあ? 何だその聞き捨てならない忠告は。アスモデウスを一対一で華麗に討ち果たしたこの俺が足手まとい? 考えられんな。寝言は寝てから言え」

「……はあ。まったく、このサルは。少しはネイを見習いなさいよ、ほら」


 言われてネイの方を見ると、他のパーティのお嬢さん方と話をしている。あれを見習うといことはつまり、他のパーティの女性をナンパして来いということだろうか。


「そんなイナコーみたいなこと出来るわけないだろ。無茶言うなよな」

「アンタは一体何を勘違いしてるのよ……」


 下らないことを言っていると、ネイが話を終えて戻ってくる。


「ねえ、二人とも。凄いよ、ここの人達! もう何十回もサタンを倒してるんだって!」

「なにぃ⁉ マジか!」

「うん! みんな、ドロップアイテム目当てで来てるって言ってたよ」


 ネイが嬉々として話し、ルーナが「ほら見たことか」と言わんばかりの顔している。なるほどな、積み重ねた経験の差があるってことか。しかし、こんなユニバーサルな遊園地並みの行列に何十回も並んでいるとは、とんだ物好きどもだ。ある意味、尊敬する。


 呆れ半分、感心半分の心持ちでいると、進軍開始の時となる。先頭の連中が絶叫したかと思うと、列が勢いよく進み始める。遅れずについて行くと、ほとんど全力疾走の状態で山に登る、のではなく、山の洞窟を下っていく。内部は真っ暗だったが、松明や懐中電灯を持つ者、フォースで周囲を照らす者たちのおかげで、困ることはない。困ることはないが――


「おい、どうなってんだこれ! タイムアタックでもしようってのか! スタミナが、続かん」

「効率よく倒すためよ。こうしている間にも、挑戦したい人たちが並び始めてるんだから」


 一心不乱に走る者たちの中、ルーナが涼しい顔をして言う。ネイと一緒に、馬に乗って。


「ハル君、大丈夫? ルーナちゃん、ハル君も一緒に……」

「いいのよ、気にしなくて。ふふ、アハハハハ! ほら、もっと全力で走りなさいな。まさか、それが全力ってわけじゃないでしょ? チンタラしてると置いてくわよ、サル君?」


 このクソガキャア、毎度毎度憎たらしい態度を取りよってからに。いい加減キレたぜ。


「この俺を、ナメるんじゃあ、ねえっ!」


 馬の尾を掴み、地を蹴って飛び乗る。――が、失敗。側面からネイの腰に抱き着く形となる。


「きゃっ⁉ ハ、ハル君?」

「あー! ちょっとアンタ、何してんのよ! こっの、スケベザル!」

「わざとじゃない! それより、早く手を貸してくれ。今にも落ちそうだ」

「勝手に落ちてろ! むしろ、今すぐ落ちろ!」


 ルーナが体を俺の方に向け、足を伸ばして蹴り落とそうとする。


「おいそんなことしたら、またパンツ見えるぞ! また白いの見えちゃうぞ!」

「――っ! な、こ、この、スケベザル! ヘンタイザル! 信じらんない!」


 何か知らんが、前と違って恥じらいを見せるルーナ。その間に、ネイが引き上げてくれた。


「……ふう、ありがとう。助かったよ、ネイちゃん」

「うん、どういたしまして。――でも、今のはサイテーだよ、ハル君?」


 いつもと何か雰囲気が違う微笑み。心なしか、ちょっと怒っているような。……どっちだ? 抱き着いたことか、それとも、ルーナのパンツが白だとバラしたことか。いや、一先ず謝ろう。


「いや、まあ、うん。緊急事態だったとはいえ、さっきのは酷かった。反省してる」

「反省してるなら降りろ変態。私の使い魔が汚れる」


 お前には言ってねえよ! と、叫びたいのをぐっとこらえる。


「ルーナちゃん、それはちょっとだけ言いすぎだよ」


 ちょっとだけかよ、と思った時だ。前方から怒号が響く。何十もの人の叫びと、複数のエネミーの咆哮が何度も木霊する。鉄がかち合う音や、硝煙の臭い、魔法の光までもが漏れてくる。


「敵が出始めたわね。前列が討ち漏らした連中が来るかもしれないから、注意して」


 ルーナの忠告があった。だが、戦闘音は聞こえてくるものの、一向に敵はやってこない。進軍の速度は緩むことなく、いくつもの分岐点を迷うことなく突き進む。前列の連中が通った後には大量のドロップアイテムが落ちているが、誰一人、拾う素振りを見せる者はいない。


「あれ全部放置か。なんかもったいない気がするな」

「何言ってんの。拾ってたら置いて行かれるわよ。帰りにすることね」


 ルーナが前を見たまま言う。まあ、馬から降りるわけにいかない以上、どの道今拾うことはできないんだが。サタンを倒しに来ている連中にとって、他のことは重要じゃないらしいな。


「ところで、俺たち今ついて行く以外何もしてないけど、いつになったら出番がくるんだ?」

「さあ? そのうちくるかもしれないし、最後までこないかもしれないわね」


 この時、俺はまたルーナが面倒くさがって適当なことを言ったのだと思った。きっと、そばで聞いていたネイもそう思ったことだろう。だが、すぐにそれが間違いであったと思い知る。


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