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「ネイちゃん、ありがとう」
「ううん、少しでもハル君の役に立てたなら、良かった」
可憐な笑みをこぼす。視線を空へと戻し、もう少し余韻に浸ろうと思った時だ。
「あ、あー!」
ネイから悲鳴、と言うよりは驚きの声があがる。何事かと目を向けると、体を震わせている。
「ハル君、あ、あの、これ……」
声を震わせながらネイが俺に見せたのは、一振りの大剣だった。白地に碧の装飾が施された鞘に納められたそれは、一目で並みの武器でないことが分かる造形美を誇っている。
「これは……。えっと、ちょっとごめんよ」
大剣に触れ、詳細を調べる。開示された性能に、PCに水をぶちまけた時くらいの衝撃を受け、同時に確信した。これは、原罪の悪魔、アスモデウスの大剣であると。
「や、やっぱり……。な、なんてこった。く、俺には、俺には何かないのか!」
無い。目ぼしい物は何も無い。……なんで、なんで俺に寄越さないんだよー!
「ネイぃー! ごめんなざぁぁぁぁい!」
俺の悲痛な心の叫びをよそに、ぼろぼろ状態のどっかの銀髪女がネイに突撃した。
「ルーナちゃん! 元に戻ったんだね! よかった……」
ネイはそれを優しく抱き止め、背中をさする。
「うん、ネイのおかげ。ありがとうね」
「ううん、私はたいしたことは何もできなかったよ。お礼ならハル君たちに」
「そんな必要はないわ。全部、ネイのおかげなんだから。――あれ、ネイ、その武器は?」
まるで俺などいないかのように、ルーナは話を進める。
「あ、これは今手に入れた物で……」
「え、じゃあアスモデウスからドロップしたの? 凄いじゃない! 見てもいい?」
「うん、いいよ。はい、どうぞ」
ルーナがネイから大剣を受け取り、鞘から抜いて見せる。抜き身となった剣、その剣身は鞘と同等以上に美しく、白地に碧の両刃を煌かせている。
「結構、手の込んだデザインね。性能もかなり高いし。流石って感じ……」
じっくりと観察し、そんな感想を漏らす。そして、ネイに返そうとする。
「うん。でも、私には使えないから、ハル君にあげようかなって」
「「え⁉」」
素晴らしい僥倖に遭遇した。それを前にしては、ルーナとハモったことなど気にならない。
「な、何言ってんのネイ! サルなんかにあげなくたって、コレクションにしておくとか、高値で売りさばくとか、他にもいろいろあるじゃない!」
俺に渡す、というのが余程気にいらないのか必死に反対する。しかし、すでに俺はもらう気でいる。なんせ、アスモデウスを倒すために大剣を失うことになったからな。
「でも、私たちはお友達なんだし、それに、コレクションにしたりお金に換えたりするよりも、ハル君に使ってもらった方が、きっとこの子も喜んでくれると思うんだ」
間違いなくその通りだ。というわけで、遠慮なく剣に手を伸ばす。すると――
「だったら私がもらうわ! ね、ネイ、私にちょうだい?」
許しがたき横暴な発言が飛び出た。
「は? おい、待て! お前、何言ってんだ⁉ ネイちゃんは俺にくれるって言ったんだぞ」
「それは、知り合いの中で大剣を使ってるのがアンタだけだからでしょ? だったら、私も大剣を使うわ。それで問題解決。必然的に親友の私が受け取るべきって話よね」
なんとも勝手な論理を振りかざし、ネイちゃんの俺への贈り物を横取りしようとしてくる。
「アホか! お前は使い魔呼んで、フォースぶっぱなしてりゃいいだろうが!」
「はあ? アンタ、誰に指図してんのよ。むしろ、アンタが大剣を捨てなさいよ」
「お前、ぶぁぁぁかか⁉ なんで先に使ってた俺が引いてやらなきゃならねえんだ!」
口論が泥沼化する。性格的にこいつは譲らないだろうが、俺も当然譲る気はない。
「あ、あの二人共、一緒に使うとかすれば……」
「いや、ここはルーナちゃんが受け取るべきだ!」
突如、どこからともなく現れたイナコーが叫ぶ。一呼吸の後、ルーナがにやけ面を見せる。
「分かってるじゃない、キジ。ま、当然のことなんだけどね。じゃあ、私がもらうから」
「あ、おい待てふざけんな! イナコー、お前裏切る気か!」
勝手に所有者宣言をするルーナを一瞥した後、イナコーを睨みつける。
「うーらーぎーるー? 大量の敵を俺一人に押し付けておいて? そいつらの相手だけで手一杯だったのに援護射撃までしてやったのに? その見返りに凶暴化した味方を押し付けてきたくせに? そんな図々しいことを言うのはこの口かァ! この口が言うのかァ!」
「いだい、いだい、いーだーいっ!」
いたいけな俺のほっぺたを引っ張る悪漢。よっぽどさっきの戦いが厳しかったのだろう。
「いいよ、分かったよ! 悪かったよ! ……はあ、じゃあもうさっさと次行こうぜ」
「次?」
ルーナが怪訝な顔をする。いや、他の二人もしてしているみたいだ。分かりずらかったか。
「残りの二体だよ。確かサタンとルシファーだな。当然行くんだろ? どっちから行くんだ?」
「ああ、その話……。次はサタンよ。憤怒のサタン」
そう言い捨てると、さっさと左手を掲げ始める。大剣をしまい込んで。
「さっき勝手に十体も使われたから、二体しか呼べないわね」
使ったのはお前だけどな。心中でツッコミを入れていると、二体の巨鳥が呼び出される。
「サタンのいる所まで行くのって、時間かかるのか?」
「陸を行けばね。この子たちに乗って行けば、それほどかからないわよ」
自慢げに鳥二体を指し示す。鳥たちの方は静かに身をかがめ、乗ることを促している。ルーナとネイ、俺とイナコーが同じ巨鳥に乗り、夜の村を飛び立つ。次なる強敵の下へと。




