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Eosphorus-イオスフォロス-  作者: 白雪 蛍
13/25

前回のサブタイの意味が分かる紳士淑女の方とはBO4でもやりながら語り合いたい

「いやー、余裕でしたなあ。二人とも、お疲れさん」


 剣を納め、階段を下りる。イナコーと昌明の下につかつかと歩み寄ると、殴られた。


「ごっはあぁぁぁ⁉」


 顔面に直撃する二つの拳、体が吹き飛び、床に頭をしこたま打ち付ける。


「ったく、もう少し考えて撃てよな。危うく、俺たちが死ぬところだ」


 イナコーが抗議の文言を口にし、隣で昌明がうんうんと頷いている。しかし、誤解だ。


「あのな、あの位、お前らなら避けられると信じたから――」


 その時、後方で爆発があった。閉じられていた扉が破られ、爆風とともに破片が舞う。


「……なんだ、また敵か? 今度は何だよ。牛か? 豚か? 鶏か? それとも羊か?」


 足音が近づいて来る。土煙と埃の向こうに人影が映り、声が響き渡る。


「思ったより早かったわね。なによ、そこそこ強いんじゃない。口だけだと思ってたのに」


 女が現れた。銀色の髪を靡かせ、片手をスカートのポケットに突っ込み、片手で宙に浮いた埃を払っている。……忘れてた。そういや、コイツも一緒に来てたんだったな。


「お前、何してやがった。他人が戦ってたってのに、サボってたのか?」

「そうだけど? 何か問題でもある?」


 女は、何一つ悪びれもせず即答した。よし、殺そう。


「「だーめ」」


 俺が何を考えているかを察した二人に、ガッチリと体を押さえられる。


「「さあさ、行きましょう。さっさと、先を急ぎましょう」」


 二人の男に、闇の奥へと連れさられる。看守に引きずられる、囚人の如く。


「はぁぁぁなせぇぇぇぇっ! まずは、あの女をブッ殺してからだぁっ!」


 叫び声がこだまし、消えていく。虚妄の様に、残響だけを残して。


「――おい、いつになったら宝物庫に着くんだ? あれからもう、三十分は歩いてるぞ」


 無駄なことは何もしていない。寄り道もしていない。なのに、まだ到達の気配がない。階段を上ったり下りたり、どこからともなく湧いてくるザコを抹殺したり、進むほどに内装がボロく汚くなっていく神殿に嫌気が差したりと、つまり、そろそろ飽きてきた。


「アンタ、同じこと何回聞けば気が済むのよ。もうすぐよ。もう一つか二つ部屋を抜けたら、最奥までの大きな階段が出てくるわ。全くこのサルは、面倒なのは私の方だって言うのに」


 後方にいる銀髪がぶつくさと答える。答える際に俺の方は見ておらず、さっきからずっと小石を蹴って遊んでいる。偉そうなことを言っているが、コイツも暇なのだろう。


「ごめんね、ルーナちゃん。ハルはちょっと変化が無い所に行くと、すぐ飽きたって言うから」


 イナコーのフォローになっているか怪しい言葉を聞き流し、十字路の真ん中を抜ける。壁は所々が崩れかけ、泥のような水溜まりがあり、ネズミらしき動物が辺りを駆け回っている。おまけに、明かりは壁のショボい蝋燭だけ。神殿と言うよりは廃墟と言う方が相応しい有様だ。そして、もう何度目になるか分からない動作を行う。扉の取っ手に手を掛け、開く。いい加減、これで終わりにして欲しいと思っていると、急に俺の意識が覚醒した。


 ――異臭。扉を開いた途端に漂ってきたそれに、思わず鼻をつまんだ。


「……なんだ、この臭い?」


 何かが腐ったような臭いが充満している。汚物や老廃物の塊が空気となってねっとりと纏わりついてくるような、異様な感覚が体を襲う。そんな、嗅いでいるだけで自分の体まで腐ってしまいそうな刺激臭に、他の皆も気付いたようだ。口々にえずいたり、悪態をついたりしている。部屋に足を踏み入れると、その臭いは一層強くなり、更なる進入を躊躇してしまう。


「うぉえ、くっせ! 何だこれ、何が臭ってるんだ?」


 視線をさまよわせると、その答えはすぐに見つかった。暗がりの床、辺り一面にそれらは転がっている。黒い液体と、大量にわいた蛆、じゅくじゅくに腐った、人や動物の死体だ。


「うぇぇ……。趣味の悪い場所だな……」


 俺の肩越しに中を覗き見た昌明が、心底嫌そうな顔で呟く。ただれた皮膚、飛び出した眼球や舌根、体内から漏れ出した内臓や糞尿、という程度ならまだマシな方だ。蛆に喰われ過ぎて頭や体が原形を留めていないものや、喰われ尽くして骨しか残っていないものもある。余裕でR⒙をぶっちぎってるグロさだ。俺は問いたい。全年齢対象ゲームとはなんだ。


 あー、この中を進むのか、嫌だなあ。と、思っていると、肩をちょんちょんと叩かれた。振り向いてみると、銀髪が無表情に俺を見つめている。


「この奥、進んだら最後の部屋までもう少し」


 機械的な口調で、部屋の奥にうっすらと見える通路を指差す。


「……いや、それは分かるが、ここを通るとなると流石の俺も心の準備ってものがだな」


 たじろいでいると、銀髪が首を横に振り、次の瞬間、何の前触れもなく俺を蹴飛ばした。


「ぐぉわっ⁉ ――っと、ととと……」


 背中を強い力で押し込まれ、千鳥足で前に出る。骨や肉塊を踏み砕く嫌な感触が足に伝わり、滲み飛び散った黒い液体が、ズボンや靴に思いっきり付着した。


「だぁぁぁ! きったね! 銀髪、てめえ何しやがる! ――って、あ!」


 振り向くと、銀髪が無表情のまま手を振っていた。扉を閉めながら。


「うぉぉい! お前、ふざけんなよ! どういうつもりだ⁉」


 閉じられた扉に向かって叫ぶ。しかし、ヤツからの応答はなく、代わりに、背後から虫の羽音と何かが蠢く音が聞こえてくる。そろり、見てみた。蠅の大群が黒い壁の様になり、とっくに事切れ腐臭にまみれた死体たちが立ち上がっていた。蛆に喰われたせいで空になった眼窩、動く度にずり落ちる肉、丸見えの骨や筋繊維が痛ましい、ていうか気持ち悪い。


「この下等アンデッドどもが。お前らになんぞ興味はないんだよ!」


 剣が汚れる。服も汚れる。となれば、敵を越えて向こうの通路まで一気に突き抜ける。飛び掛かって来たネズミを斬り上げ両断、一番近いアンデッドの胴体を斬り飛ばす。残った下半身を踏み台に跳躍、他のアンデッド連中の頭や肩を足場に走る。剣を風車の如く回転させて蠅の群れを除去、俺を引きずり降ろそうと伸ばされる数多の腕を蹴り捌き、敵陣を突破した。


「……ふ、楽勝」


 と、カッコつけていられたのも束の間――


「どぅおおおおおおおい! 追いかけてきたー!」


 一本道の通路に、アンデッドたちが大挙して押し寄せてくる。呻き声を上げて、誰もが我先にと、味方を踏みつけ押しのけて必死に追ってくる。さながら、金に群がる亡者のようだ。


「醜い。ああ、実に醜い!」


 あんな腐った連中に関わりたくない。全力で駆ける。薄闇に目が慣れたおかげで戸惑いはない。道なりに一番大きな通路を行く。踏みつけた水溜りから人型のスライムが、天井から大型の蝙蝠が、分岐点に差し掛かる度にその他種々のエネミーが襲撃してくる。しかし、いずれも問題はなかった。俺の剣は、鍛冶屋のオヤジに高い金を払って作ってもらった特注品なのだよ。


「フハハハハハハ! 悪魔だろうが死体だろうが液体だろうが小動物だろうが、この俺に斬れないものなどない! ヒーヤッハーハハハハハハハハハ!」


 ランナーズハイならぬバトラーズハイ状態で、迫り来る敵を八つ裂きにしていく。血飛沫が舞い散り、敵の腕や脚、首が飛び交う。頭のネジが外れたまま進み続けると、いつの間にか敵の姿はなくなっていた。後ろを追いかけて来ていたアンデッド連中も、無事撒けたらしい。


「ふん、つまらん。所詮はこの程度か。……で、ここはどこだ?」


 大きな広間の中、幅広で傾斜の緩い大階段が目の前にあり、階段を上がった先には、よく分からない文様が刻まれた巨大な扉がある。銀髪がぶち破った扉よりも一回り以上大きいだろう。一昔前のゲームなら、セーブポイントが用意されていそうな雰囲気だ。


「あ、サル。ちゃんと着いてたのね」


 突然の無気力そうな声に振り向くと、銀髪、イナコー、昌明の三人がいた。


「ぎ・ん・ぱ・つー! てっめえコラ、さっきは舐めた真似しやがって! どういうつもりか納得できるように二十文字以内で説明しろォ!」


 銀髪へと迷いなく突進。胸ぐらを掴んで持ち上げ、ガンガン揺さぶる。


「だってキモいし服汚れるし臭い移りそうだし」


 頭を前後に揺らしつつ、目を合わせないまま、ぼそぼそと答えた。そのふざけくさった理由に、怒りの鉄拳を放とうかと思った時、銀髪と一緒に来た二人が割って入る。


「まあまあ、いいじゃないの。女の子相手にそんなムキになるなよ、みっともない」

「だな。さ、早く中に入ろう。で、お宝手に入れて俺はリゼちゃんの所に帰る」


 この色ボケ野郎と二次元厨がァ! とは思ったが、確かに、目的を見失う訳にもいかない。


「ち、しょうがねえか。おら、行くぞ! さっさと、ついてこい!」


 銀髪をおろし、階段へとズカズカ歩き出す。が、銀髪が信じられないことを口にした。


「それなんだけど、ここまで案内したんだし、もう私帰ってもよくない?」


 何をぬかしてやがるんだ、このクソ女は。意味が分からん。が、考え得る理由は……。


「ははーん、さては宝を護るボスが厄介とかそういうことか。阿呆が。お前はネイから俺たちに協力するよう言われてるんだろうが。最後くらいしっかり働けボケ!」


 さっきまで戦ってたせいでテンションマックスな俺、気怠そうな銀髪の後ろ襟首を否応なしに引っ張って階段を上る。

 扉の前に立つなり間髪入れず、右手に剣を構えた。


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