表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/48

その5・わたしが守るからね

「今日はお休みです」

 もし声をかけられたら返す言葉を練習しました。

 みぃちゃんは木の根っこでごろごろ転がっているので、しばらく放っておくことにしました。

 ここはみぃちゃんのいた公園よりも広いわりに人は少ないので、少し休憩しようとベンチに座って、水筒を持ってくるのを忘れてうかつだと反省していたところです。

 水筒の代わりはみぃちゃん用の湯のみで、これはおじいちゃんの家に着いたらおじいちゃんのものになるけど、それまではみぃちゃん用です。水道はないかなとまわりをぐるりと眺めると、ぽつぽつと立っている木の向こうに、青い看板が見えました。あれはコンビニです。

 そういえばわたしは朝ごはんを食べてきたけど、みぃちゃんは水だけなので、なにか買ってあげようと思いました。

「みぃちゃんはここで待っててね」

 わたしが歩くとみぃちゃんがついてきます。

「待っててね!」

 まだついてくるので、きっとまだ言葉がわからないのかなと仕方なく一緒に行くことにしました。


 林みたいな木を抜けていくと、道路の向こう側にあったのはやっぱりコンビニです。

 みぃちゃんは道路を渡るのは危ないので、ここからはひとりで行くべきです。

「すぐ帰ってくるからね」

 横断歩道を渡ろうとすると、みぃちゃんもついてきました。

 勝手に逃げるくせに、ついてこないでって言うときはついてくるので、なんかお母さんみたいに意地悪だと思いました。

「みぃちゃんは待ってて!」

 ちょっと強く言うと、みぃちゃんもわかったのか座りました。

 そして急に走り出したかと思うと、ものすごい勢いで木に飛びついて、ツメでばりばりと引っかき始めました。

「そうやって遊んでてね」

 わたしは左右確認して車が来ないのを見て横断歩道を渡りました。


 みぃちゃんはいちおう猫なので、人間の食べものを食べたら駄目って知っています。なのでキャットフードを探しました。


 まんがの棚から今月号の『なかよろし』を取って、化粧品のコーナーの裏にその棚を見つけました。猫とか犬がプリントされているふくろと缶詰が並んでいます。

 みぃちゃんはどれが好きかわからないので、わたしだったら細長いスティックがいいなあと思って『ちゅるる』を買いました。本当はいちばんおいしそうに見えたのは別のですが、犬の顔面がプリントされてあったのでやめました。歯がこわいです。

 なかよろしの付録で『タロットハンター椿』のプリントセットがあったけど、そういうので作っているのかなと思いました。


 財布から七百二十八円を払って、けっこう使ってしまったなと思いました。とくに五百円玉がなくなったので、貧乏になった気がします。

 でもみぃちゃんが待っているので、早く公園に戻ることにしました。


 みぃちゃんはどこの木にいたのかわからなくなったけど、よく見たらまたごろごろ転がっていました。

「みぃちゃん、ごはんだよ」

 そう言ってもみぃちゃんはこっちに来ません。言葉がまだわからないんだと思いだして、買ってきたちゅるるを出しました。スティックが四本も入っていて、そのうち一本を開けると、みぃちゃんが目を大きくしてこっちを見ています。

「これが、ごはんだよ」

 みぃちゃんはとことこ歩いてきたので、わたしはちゅるるをみぃちゃんの顔に出すと、近づけすぎて、ぶちゅってほっぺたに当たりました。みぃちゃんはほっぺたをなめると「にー」と言いました。

 きっとおいしいって言っているんだと思ってちゅるるをにゅるにゅる搾り出していくと、みぃちゃんは舌でなめながらむしゃむしゃ食べ出しました。

 そんなにおいしいのかなと思ってわたしもちゅるるを食べてみようと匂いを嗅いだらお父さんよりも臭くて、よく食べれるなあと感心しました。


 みぃちゃんは食べ終わったあともまだ「にー、にー」と言っているので、うるさくなって「もうあげない!」と言って残りのちゅるるをリュックサックにしまいました。

 そんなに食べたいのかなと思ってみぃちゃんをよく見ると、歯が生えていました。口の中からとがった歯がちらっと見えて、なんかジャングルの動物みたいでこわくなりました。でもわたしの見間違いかもしれないし、歯が生えていてもみぃちゃんはみぃちゃんなので別にいいやと思いました。


 ベンチに座って今月号の『なかよろし』でも読もうかなと思ったときに、向こうのおじいさんがこっちに歩いてくるのが見えて、これはまずいと思いました。


 おじいさんはゆっくり近づいてきます。

わたしとみぃちゃんを交互にずっと見ているので、もしかしたらわたしが家出していることがばれたのかもしれないと思って、なかよろしをリュックサックに入れて背負いました。

 『湯けむりキス王子』はあとでゆっくり読めばいいから。


 まだ「にーにー」って言ってちゅるるをほしがっているみぃちゃんも抱っこして、公園を出ることにしました。

 もしかしたらあのおじいさんにゆうかいされるかもしれません。なんにしても逃げるべきだと思って、公園を出ました。


 みぃちゃんはなにが起きているのかわからないかもしれないけど、わたしが守るからね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ