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その41・えっとねえ

 車がブルンとエンジンを鳴らします。

 いつもおじいちゃんの家から帰るときと同じです。

 いつもと同じです。


「待って!」


 わたしはうしろの席からお父さんとお母さんに言いました。

「もう一回、みぃちゃんをなでていい?」


 わたしは家に入って、窓から外を見ていたみぃちゃんの背中をなでました。


「またすぐに会えるからね」

「にー」

「いつでも遊べるんだよ」

「にー」

「いい子にしてるんだよ」

「にー」


 みぃちゃんはわたしの手をペロペロなめてきて、くすぐったい。


「大人になったら、わたしが家を借りて、一緒に住もうね」

「にー」


 みぃちゃんは手を伸ばして「抱っこして」と言います。

 わたしは抱っこして、すぐに下ろしました。

「またね、みぃちゃん」

「にー、にー」


 玄関を出ようとしたらみぃちゃんもついて来たので、おばあちゃんが抱っこしました。

 みぃちゃんは手を伸ばして下りたがっています。


 わたしは車のドアをバンと閉めました。


 車が動き出すと、まだみぃちゃんがこっちを見ています。

 手を伸ばしてきて、こねこねさせて「どこに行くの?」と言っているみたいです。


「どこにも行かないよ」

 わたしは目をこすって言いました。


 車が発進して、おじいちゃんの家を出て少し行くと止まりました。

 近所の人の家の前で停まって、お父さんとお母さんがあいさつをしに行きます。

 車をちょっと進めるたびに近所の人に会いに行って「ご迷惑をおかけしました」とか「ありがとうございました」とかお辞儀をしてまわっています。


 わたしはどうしたらいいのかわからないけど、たぶん、とてもだいじなことなのかなと思いました。


 ぼーっと景色を見ていると、畑が見えてきました。

 お父さんの運転は迷わずに畑をすぐに過ぎて、踏切を渡ります。

 わたしとみぃちゃんが見つけられなかった踏切です。


 こくどうに出て、ずんずんと進んでいくとトンネルに入りました。

 オレンジの明かりがずっと遠くまで並んでいます。

 こわかったトンネルは、あっという間に通り過ぎました。


 電車が走っています。

 山の中の電車は、車と並んで走っていたけど、そのうち見えなくなりました。


 道路の車もビュンビュンすれちがいます。

 大きなトラックも並んで走っています。


 海が見えました。

 キラキラした海がずっと続きます。

 みぃちゃんと見た同じ海です。

 ウニみたいな石が一列に海の真ん中に並んでいます。


 いつもはこの辺りでつい眠ってしまうけど、今日は眠らずに海をながめていました。


 お父さんとお母さんも、なにも言わずに前を見ています。


 タコの看板を通りすぎて、ビルがいっぱいになってきて、けんちょうを通りすぎて、たくさんの車の中を泳いでいきます。


 わたしとみぃちゃんがなん日もかけて歩いた道が、あっという間に過ぎて行きました。


 おうちに着いて車が停まると、お父さんが振り向きました。

「お、今日は起きている」

「大人になったからね」

 わたしはいじわるそうなお父さんにそう言い返してリュックサックを背負って降りました。

 みぃちゃんも降りてくるのを待ったけど、降りてきません。

 みぃちゃんはおじいちゃんの家にいるからです。

 みぃちゃんがいないのを確かめてから、ドアを閉めました。


 もう一度だけ、ほんとうにみぃちゃんが乗っていないか見て確かめたけど、やっぱりいません。


 おうちに入ると、お母さんが言いました。

「猫のぬいぐるみ、買ってあげる」

 お父さんがお湯をわかして、あったかいココアをいれてくれました。


 わたしは思い出して、リュックサックから『じだらクマ』のシールを出しました。お母さんがよろこぶと思って、とっておいたシールです。

 お母さんはじっと見つめて、シールの台紙を出しました。

「ここに貼って」

 わたしはシールを貼りました。


「じゃあ、今日は休みにしたから、聞こうかな」

 お母さんはココアを飲むと、お父さんに「お菓子も持ってきて」と頼みます。

 お父さんはお菓子をいっぱい持ってきて「僕も聞きたいな」と言いました。


 お父さんもお母さんも、わたしの話を待っています。


 わたしは、おうちを出てからのできごとを、お父さんとお母さんに話したいことがいっぱいあって、なにから話せばいいのか迷ってしまいます。


「えっとねえ、えっとねえ」


 お父さんとお母さんは、わたしの話を聞きながら、心配そうな顔をしたり、笑ったりしています。


 ココアのいい匂いがして、お父さんとお母さんが話を聞いてくれて、わたしはずっと夜まで、みぃちゃんと歩いたときの話をしました。


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