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その38・窓ガラス

 車が停まる音がして、玄関が開く音がして、お父さんとお母さんの声が聞こえて、わたしはこわくなりました。


 おこられる。


 ちぢこまってみぃちゃんをぎゅっとして動けなくなったわたしに、お父さんが手を伸ばしました。


 お父さんはわたしの頭をなでてきて「よかったよかった」と言います。お母さんは顔をぎゅーって抱きしめてきて「心配させないで」って泣いています。


 わたしもまた、よくわからないまま泣いてしまいました。

 ひさしぶりに、お母さんの匂いだ。


 みぃちゃんは窓から外を見て、足で首のうしろをかいています。

 窓ガラスに手を置いて「にー」と言っていたけど、いまはごろごろ転がって横になってくつろいでいます。


「ちんたいけいやくで、飼いたくても飼えないから」

 お母さんはくしゃみをして言いました。


「近くのペットかの物件に引っ越すか」

 お父さんは腕を組んで考えながら言います。


「猫のために引っ越すって、借りたばかりなのに」

 お母さんは鼻水をすすってちょっと怒ってみえます。


「まあまあ、みぃちゃんはここで飼えるから」

「孫と暮らすのも悪くないわねえ」

「転校っていうのも考えたら?」

「猫のために転校っていうのも聞いたことないぞ」


 なにやらいろいろ話し合っているけど、わたしが口をはさめるふんいきではないことは確かです。

 みぃちゃんと遊ぼうかなあと思ったけど、そのわたしとみぃちゃんのことを話し合っているので、こまりました。

 いい方向にまとまるといいんだけど。


 しばらく話し合いを聞いていると、お母さんがわたしの背中に手を当てて「どうしたいの?」と聞いてきました。


 そんなこと聞かれても、わたしもどうしたらいいのかわからなくなりました。

 わたしはただみぃちゃんと家族になりたいのです。

 本当に、それだけ。


「子供に決めさせるのはこくだよ」

 お父さんがお母さんに言いました。

「じゃあなにかいい案が浮かぶの?」

「そうじゃないけど」

「ぜんぶを思い通りにいかすのは無理でしょ」

「そうだけど、お義父さんとお義母さんに甘えるのも悪いだろうと」


 わたしは話し合ってほしいけど、けんかになるのはいやです。

 なんだかとてもわるいことをしたんじゃないかと気持ちが沈んできました。


「まあまあ、とりあえずみぃちゃんはうちで飼えるわけやから」

「あとは、あんたらがどうするかでしょ?」


 みぃちゃんは、おじいちゃんの家で暮らせるみたいなので安心しました。


 お父さんは組んでいた腕を下ろして、わたしをじっと見つめました。


 お父さんのまじめな顔はあまり見たことないので、ちょっとドキッとしました。たぶんこんなにまじめな顔は初めて見るかも。

 お父さんはアニメを観ているときよりもまじめな顔です。

「いいね。僕が勝手に決めるけど、ぜんぶ僕の責任だから」


 わたしはうなづきました。


「もしそれがいやでも、従ってもらうよ。でももし本当にいやなら、それはぜんぶ僕のせいだから、いやなことは僕にぜんぶ言うこと」


 わたしはもう一度うなづきました。


「それと、家出はもうぜったいにしないこと」


 わたしはちょっとだけうなづきました。


「家に帰って、今まで通りに生活すること」


 わたしはうなづけませんでした。


「みぃちゃんは、おじいちゃんの家で暮らすけど、いつでも遊びに来れるからさびしくないよ」


 わたしは、ほんのちょっとだけうなづきました。


 ほんのちょっとだけうなづいて、みぃちゃんを見ました。

 みぃちゃんは窓ガラスのそばで日向ぼっこをして眠っています。


 わたしは心の中で窓ガラスにひびが入ったような感じがしました。


 お父さんはじっとわたしを見つめています。


 わたしはうなづきました。


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