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金の斧:現代版

作者: 時風

 失恋した男が、橋の上にいました。

 男は、苦しく、そして度重なるアプローチによってやっと手に入れた彼女をたった1ヶ月で失くしてしまったのです。

「好きな人ができたってなんだよ。俺は中継ぎかよ…」

 男の悲痛な叫びが、深夜の静寂に飲み込まれます。橋の中ほどにいる彼は手摺に体を預け、河を睨みつけていました。

 遠くにビル街の光を臨み、電燈に照らされるだけの橋は、男と同じように孤立しています。

「ちくしょう」

 気分を変えるために男は、財布から写真を取り出し、笑顔で映る女を眺めました。

 写真の美女は、少しウェブ掛かったセミロングの黒髪を持ち、しなやかで光沢を放っています。そして、ほっそりとした顔にはバランスよくパーツが配置され、見るものに微笑み掛けていました。

 男は写真を見ながら、この笑顔に何回救われたのだろうかと懐かしみました。

 彼にとって、失くしたものはあまりにも大きく、取り返しがつきません。電燈の光だけが辺りを支配しているなか、彼は黙って写真を眺めていました。

 男は名残惜しそうにしていましたが、うなずくと、写真を手から離し河に落とてしまいました。

「今日でお別れだ」

 落ちていく写真は風に吹かれ、巻き込まれながら着水します。最後まで見守った男は、帰ろうとして、欄干に預けていた体を持ち上げました。

 その時、ジュワワワワーっと不審な音がなります。

「!」

 男が驚いていると、水から靄が立ち上がり、怪しげなピンクの光と共におっさんが現れました。

 当然の事態に男はポカーンとしてしまいます。

「驚かなくて良い。わしはこの河の主じゃ」

 おっさんは男の近くまで寄ると、固まる男に声を掛けました。

「そなたが、困っているのはわかっておる。失くしたものはこれか?」

 おっさんの手許の写真には、悩ましげなポーズを取り、ぷっくら膨らんだ唇ともっちり膨らんだ胸をアピールしている金髪美女が写っていました。

「そうで…」

 男は思わず頷きそうになっていましたが、踏みとどまって考えました。

(待てよ、これは童話でみたことあるぞ。ここで断っておけば、金髪、銀髪が手に入る。そして彼女との中も元通りだ)

 欲深い男はそう考えると、姿勢を正しました。

「いいえ、違います。私の失くしたものではありません」

「では、これか?」

 今度は、儚げな印象を持ち、線が細い銀髪美少女が写っていました。

(しめしめ、やっぱしそうだ。これでハーレムだな)

「いいえ、それでもありません」

「なんと、これでもないと言うのか。なんて正直者なのだろう。よし、わかった全部そなたに渡そう」

 それを聞いた瞬間、男は小躍りしそうでした。何の苦労もせずに美女3人が手に入るなんて、小躍りせずにはいられません。ですが、ぐっと我慢して感謝の言葉を述べました。

「ありがとうございます」

「うむ」

 河の主は鷹揚に応え、言葉通り全部渡すと霞のように消えてしまいます。そして後には、3枚の写真を持った男が独り橋に佇んでいました。

 めでたし、めでたし。

読んでいただきありがとうございます。批評、感想ございましたら、ぜひ書き込んでください。


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― 新着の感想 ―
[一言] はははははは。悲しい!!!! でも旨いなぁ。旨いですね。旨い。
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