復帰と失踪
この章での最終話。久しぶりの投稿。
では本編。
「それで、君はどうするのかしら?」
不意にサイギョウジさんにそう問われた。
「え…そうですね…どうにかして記憶を取り戻せたら良いかなって思ってます」
「そんな気楽で大丈夫なんですか?」
「妖夢ちゃん、お顔が怖いわよ〜」
確かに、じっと見ることは出来ない顔をしています。
「…そういえば、ここって桜の木があるんですね」
敢えて話題を逸らすためにそんなことを言った。
「えぇ、あれは『西行妖』。人の精気を吸って成長した桜よ〜」
「人の…精気を…」
俺にはなんだか、あの桜が綺麗なものに見えた。咲いていないのに、それでも美しいと思えた。それに…
あの桜には、俺の失くしたものがある気がした。
「…」
「ちょっと、カゲロウくん!?」
気付けば俺は、西行妖に近付いていた。その桜に触れようとしても、何かに阻まれて触れられない。
「…!もしかして、この間の男の人の目的って!」
「この桜に細工すること、だったんでしょうね。理由は分からないけど」
でも関係ない。俺は…見えない障壁を押し破って桜に触れた。そして…
「〜〜〜っ!!!!!」
酷い頭痛がして手を離してしまったけど、少しだけ、少しだけ記憶が戻った。
「…!!」
今度は離れない。強い意志を持って俺はさらに西行妖に触れた。
(…凄く辛い…でも…可能な限り、思い出すんだ…!!!!)
そしてその覚悟は数秒も持たずに、今度は意識を手放すことになった。
「っ!!!」
どれくらいの時が立ったのだろうか。俺は勢いよく跳ね起きた。起きたのは白玉楼ではなく、見慣れたいつもの家だった。
「お、カゲロウ!起きたか!」
「…なんで…どうして…?」
「妖夢が永遠亭に運んで来たんだよ。急にぶっ倒れたんだとさ。俺はそん時に永遠亭にいたからここまで運びなおしたんだ。割と軽いのな、お前」
「…そっか。ごめんね。アリスさんも心配してたよね…」
「おう…おう!?カゲロウ、その呼び方!記憶戻ったのか!?」
「…一応、ね」
その事にルインはすごく喜んでいた。アリスさんやアルタイル達も大声で呼ぶほどに。
「アリスー、アルタイルー!!カゲロウの記憶戻ったぞー!!」
「う、うるさいよっ!」
すぐにアリスさんとアルタイルは駆けて来た。
「ルイン、それ本当なの!?」
「真実なんだろうね?」
「本当ですよ。心配かけてごめんなさい、アリスさん、アルタイル」
「っ!!」
なんでか知らないけど、アリスさんが急に泣き出しちゃった。
「うぇ!?あ、アリスさん!?」
「ルイン、私達はおいとましようか」
「だな。あとはお二人で〜」
「ちょっと!?」
なんで部屋から出ていくの!?何か怖いんだけど!!
「…カゲロウ…」
「は、はいっ!!」
「私…凄く心配だったのよ…?記憶が戻らないんじゃないかって…それに、勝手に居なくなるし…」
「…ごめんなさい…」
俺にもなんで白玉楼に行けたのか分からないんですけどね…
「本当に…心配だったんだからね…」
「…はい…」
「…分かったなら良いのよ」
まだ少し泣き腫らした顔でアリスさんは部屋から出ていった。
「………今は、夜だよね…」
俺は、アリスさんにバレないように窓から外に出た。
暫く森の中を進んで、俺は手頃な木にもたれかかった。
「ルイン、着いてきてるんでしょ」
「…バレてたか」
「当然。まぁちょうど良かったよ。君に聞きたいことがあるんだ」
「何だ、改まって。ま、なんとなく予想はしてっけどな」
「白玉楼の西行妖に触れた時に、俺は記憶を幾分か取り戻したんだ。その時に知ったんだよね。外に俺の親はいないでしょ。ルイン、知ってたよね」
「…まーな。言っとくがお前に偽りを植え付けたのはニーズヘッグだからな。『子供には残酷過ぎる現実だから』ってよ」
だとしても、人の記憶に障るのは良くないと思うよ。
「…てことはさ…ルイン、俺の…俺達の故郷が外じゃない可能性もあるんだよね」
そう…それは記憶が戻って、この事実を知った時に初めに考えた事だ。はたてさんに見せられたあの写真、あれは数年前の物らしい。つまり、数年前から俺を知る人が幻想郷にいるってことだから。
「ま、深く考えなくても良いんじゃねぇのか?」
「考えるさ。だってこれは、俺に深く関わることだから」
俺とルインがそう言い合っていると、久しぶりに会うパルスィさんがやってきた。
「あら、カゲロウじゃない。ちょうど良かったわ。あなたに話があるの」
「カゲロウに話…?何なんだ?」
「…あんたに聞かれるのは妬ましいけど、良いわ。冥界の門番を代行している茨木華扇から報告があったのよ。冥界に、アリスそっくりの女の子がいるって」
「…!! それって!」
「十中八九、あいつだろ…!」
「えぇ、きっとそうよ」
…なんで…どうして…幻想郷の冥界に、アリィがいるのさ…!?
カゲロウが記憶を取り戻した次の日、私はカゲロウの部屋を訪れた。
「カゲロウ、起きているかい?朝になっているのだが…」
返事がなかった。私は、扉を開けて入ってみた。そこに、カゲロウの姿は無かった。
カゲロウは、姿を消してしまった。
次回より新章。そして物語は終へと向かいます。まぁつまり、次の次の章でこの物語は終わります。気長によろしくお願いします。




