微かな疑念
本編42話。
多少真実に近づく回。
それでは本編、どうぞ。
「カゲロウの…ご両親かい?」
「おぉ。もしアルタイルの言う通り、カゲロウが幻想郷の人間なら、幻想郷に親がいるはずだろ?でもって、カゲロウが急にいなくなったら、誰かに探してもらおうと思うはずだろ?」
「…確かに、そうだね。そして私達は、そんな話を聞いた覚えがない」
「…けど、こいつはカゲロウが幻想郷の人間だって前提だ。もしカゲロウが外の人間で、あの写真が捏造なら、一番いいんだがな」
俺は、自分の意見をそう締め括った。
「けれど、主様の記憶が戻らなければ、意味はありませんよね」
「確かめようもないしね」
「…そろそろ帰っていい?もう用はないよね」
「んぁ?帰すわけねーじゃん。しばらくはここにいてもらうぜ?」
「はぁ!?」
「プロキオン、ふざけないで」
アルタイルにひっぱたかれた。滅茶苦茶痛てぇ…
「心配しなくても、君には帰ってもらうさ。君を縛る理由は私達にはない」
「…あっそ」
素っ気ない返答をして、ルーツは立ち去った。
「……あいつのこと、よろしく」
最後にそう言い残して。
「まったく、素直じゃないね」
「心配なら残りゃいいのにな」
「そうですね。主様が心配なのは私達も同じですから」
…なんだろうな。こいつの声音的に、何か知ってる気がする。ルーツは多分、なんだかんだ言って何も知らないんじゃないかと思う。
「では、私もこれで」
「あぁ、すまなかったね」
栞もどこかへ立ち去って行った。
「私達は、再び結界を維持するとしよう」
「しゃーなし。あとのことはあいつらに任せっかなぁ」
(さて…栞がどうでるか、楽しみだな)
所変わって、寺子屋。
「ふむ…つまり、彼は記憶喪失の状態なのか」
「えぇ…流石に慧音にどうにかしてもらおうと思ってきた訳では無いけど、知恵を貸してくれないかしら?」
「無論だ。困っている者は助けなければな」
流石は慧音。こんな無理難題に等しい問題にも手を貸してくれる。
「…流石に私の能力ではどうにもならないだろうから、そこは期待しないでくれ」
「わかってるわよ」
「…やっぱり俺、色んな人に迷惑かけてます?」
「そんなことないわよ。私は好きでやってるんだから」
「私も、誰かの力になれるなら本望だ」
私も慧音も、カゲロウのためにやっているのだから、気にしなくていい。そんな気持ちは伝わったかしら。
「…すいません、ありがとうございます」
「礼はいいんだがな…」
うーん…このカゲロウの下手に出る感じ…慣れないわね。慧音も何だか調子が狂うみたい。
「ほら、カゲロウは少し外を見て回ってきたら?」
「…分かりました。それじゃあ、1,2時間したら戻ってきますね」
そう言ってカゲロウは外に出かけて行った。
「…なぁ、アリス」
「どうしたの、慧音?」
「彼は時計を持っているのか?」
「……………………………持ってない」
「はぁ…まぁ人里には阿求達もいるし大丈夫だろうが…」
何でだろう…すごく不安になってきたわ…カゲロウ、大丈夫かしら…
「そう言えば、アリスは何故彼を治そうとしているのだ?」
「…居候だから…かしら…いえ、違うわね……」
「自分でも分からないのか?」
「えぇ…よく考えてみたら、私はなんでカゲロウの為にやっているのか…具体的な理由が無いわね…」
「…理由もなく助ける…か」
「あ、でも。カゲロウを見ていると、何だか安心するのよね。それに、放っておけないの」
「…………」
何故か慧音が苦笑いしている。何か変なこと言ったかしら?
「アリス…気付いていないのか?」
「…何が?」
そして慧音は、私自身気付かなかった本心を言い当てた。
「…どうやらアリスは、彼に惚れたようだな」
慧音さんはこのために出したようなもの。




