内心
本編34話。
今回はルーツ目線、初の敵目線ストーリー。
それでは本編、どうぞ。
私は、この男が分からなくなった。こいつは、私の友達のソラを攫った男だ。それどころか、あの巫女服女さえも、私達を裏切ってあいつの仲間になってしまった。それなのにあの方はこの男を消そうとしない。いけ好かない吸血鬼は、
「御神楽が付いた男、あのお方の友人らしいぜ。だから消さねぇのかもな」
と言っていた。ならば尚更許せない。正しいことをしているつもりなのか、偽善者風情が。そう、思っていたけれど…
(あいつも、闇を抱えてるのか…相当深い闇を…)
さっきの言葉、あれからは、長い間癒えることの無かった傷が感じられた。それこそ、目の前で大切な人を喪ったような。
(分からない…分からないわよ…)
「…そろそろ、かな?」
不意に、あいつがそう言った。
「うん、ルイン達が降りてくる頃合かなって……そりゃ分かるよ、ルインと一緒にいた時間は、他の誰よりも長いからね」
(何を1人でブツブツと…気持ち悪い)
けど、その独り言には聞き逃せない情報があった。『ルイン達が降りてくる頃合』、あいつはそう言った。ルインとは、さっきの浮いていた男だろう。そいつが降りてくるということは…
(消される…!隠れる、それとも逃げる!?)
そんなことを考えていて、ふと気付いた。
(私…なんで逃げようとしたの?)
そして、あいつの矛盾に気が付いた。
(そうか…私が逃げようとしたのは、あいつが『ルインは容赦なく私を消す』って言ったから…でも、消すってことは殺すってこと…幻想郷では殺しは出来ない…あいつ自身がそう言ったじゃない…)
つまりあれは、単に私と話すための嘘か…何だか、はめられた気分だ。
「…ねぇ、どうする?そろそろルイン達来そうだけど…」
「知らない。勝手にすれば?もうあんたに何を聞いても無駄だろうし、上に上がれればそれでいい」
「そうじゃなくてさ…ホントに、もう聞きたいことは無いの?」
「無いわよ。私は、あの方が『協力すればソラを助けてあげる』って言うから手を貸してるだけだし」
「じゃあ、一つだけ教えて。あの方って誰のことなの…?」
「…あのいけ好かない吸血鬼は、あの方とあんたが友達だったみたいなこと言ってたけど、知らないの?」
「……いや…それはないよ。だって、俺は外の世界の生まれだよ?こっちに友達なんて…」
…やっぱり、あの吸血鬼野郎は嘘つきだ…
「いやまぁ、そうなんだけどさ…誰も、『あの方』なんて呼ばれ方されるようなキャラじゃないでしょ?…アルタイルは…何となく違うかな…どちらかと言えば誰かに付くタイプでしょ」
また独り言だ。よく飽きないな…
「…うっさいわね…」
「うっ…ごめん…」
男なのに、文句言うだけで子供みたいに萎れるなんて…アホらしい。
「…あぁ、来たみたいだよ」
『何が』とは言わなかったけど、私も『何が』とは聞かなかった。言われなくても分かっているから。
「…そう」
「カゲロウ〜、無事だよな〜?」
「全然心配してないよねっ!?」
「俺がお前の心配なんかするかっての」
「……」
「ん、お前…ちったぁ落ち着いたのか?」
「!?」
「ルインには、なんか隠し事出来ないよね…」
「こいつ…なんなの…?」
「うーん…俺の別人格…なのかな?」
「断定しやがれ!」
「えぇ…だって今は独立してるじゃん…」
「そーだけどよぉ…この体、魔力で出来てんだぜ?違和感すげぇんだからな?」
……こういうのを…ギャップって言うんだっけ?凄い違和感だな…
「…とりあえず上がろーぜ。なんか向こうに道あったしよ」
ルインとか言う浮遊霊(?)の先導で、私達は上に戻った。
…あれ…私、いつの間にこいつらの友達みたいになってるの?
ルーツは今後どうするんでしょうね。そしてあの方とは一体。




