穴の底にて
本編33話。
ちょっと黒い回。
それでは本編、どうぞ。
「…う…ぐぅ…」
俺達は崩れた地面と共により深くに落ちてしまったらしい。今日は落ちてばっかりだ…
「うぅ…災難ばっかりだ…」
〔こっちもだよ。何度呼びかけても応えてくれないんだもん〕
「…そう?」
〔覚えてないんだね…〕
「…???」
なんの事だかさっぱり分からなかった。
「う…きゅう…」
その妙な鳴き声(?)で、俺は思い出した。
「そういえば、あの娘も一緒に落ちたんだった…」
〔忘れてたの?記憶力大丈夫?〕
「うっ…これでも忘れてないこともあるんだけどなぁ…」
〔それが普通だよ〕
うん…やっぱり『欠陥製品』は結構辛辣だ…
「ん…んん…」
どうやら、あの娘も目を覚ましたらしい。
「…あれ…ここは…」
「さっきよりもっと地下」
「ふぅん…ってなんであんたがいるのよ!」
「一緒に落ちたんだよ…」
「〜!!!」
わかりやすく動揺している。そりゃそうだろう。あれだけ目の敵にしていた相手が図らずとも近くにいるのだから。
「…多分、しばらくすればルイン達が降りてくると思う。そうなったら、少なくともルインは攻撃してくるだろうね」
「だったら何よ!!」
「今ぐらいしか、落ち着いて聞く時間はないんじゃないかな?」
「!!」
多分、俺の意図は伝わっていると思う。そう思いたい。
「…なんのつもりなの?」
「俺は、単に霊夢さん…博麗霊夢を探しているだけなんだ。けど、君は俺に何かしら恨みがある。なら、その禍根は取り除くべきだと思ってさ」
「…白々しい…私からソラを奪ったのはあんたなのに…」
「俺はソラって子のことは何も知らないよ…奪ったってどういうこと…?」
「とぼけないで!それとも何?自分が攫った相手のことも忘れるの?だいたい、博麗の巫女を探すなら、なんで私達の邪魔をするのよ!」
好き勝手言うルーツに、俺は少し苛立った。そして、秘めていた本心を少しだけさらけ出す事にした。
「…じゃあ君に問おう。”悪魔”の定義ってなんだと思う?」
「な…何よ急に…悪魔って何なのよ…」
驚きながらも、ルーツは答えてくれた。
「悪魔って…『悪意を持って害をなす、人外の化け物』…とかじゃないの?」
「…そうだよね。人それぞれだろうけど、本質的にはそんな答えだと思う。けどね…俺は、『躊躇いなく、誰かを害することの出来る存在』こそが”悪魔”だと思ってる」
「…それって…」
「妖精だろうと妖怪だろうと天使だろうと…そして人間だろうと、”悪魔”たり得ると思うんだ」
「…それが、なんだって言うのよ」
「わからないよね…俺は、自分のことを『躊躇無く人を殺せる者』だと思ってるんだ」
「…まさか、それが博麗の巫女を探してる理由だなんて言わないでしょうね」
なかなか、勘が鋭いようで。
「…そうだよ。と言っても、後付けの理由だけどね…初めは、単に巻き込まれただけだった。でも、幻想郷に来てから、人間を殺したいって欲求が強くなったんだ…だから俺は幻想郷に留まってる。幻想郷では殺しは御法度だからね」
「なんで同じ人間を殺そうなんて…狂ってるんじゃないの?」
その言葉を、俺は躊躇い無く切り捨てた。
「人間じゃない、あいつらだって”悪魔”だ。誰かの死を、誰かの不幸を、誰かの絶望を求める…そんな奴らは人間とは呼べない、呼びたくない」
アリィの事を思い出し、淡々と語る俺に訝しげな目を向けながらルーツは呟いた。
「…わかんないわよ…そんなの。私は人間でも悪魔でもない…妖精だもの」
「そうだろうね。うん、きっとそうだ。なんでも二次元みたいに上手くいくとは思わないし、簡単に理解されるとも思ってない。でもね、これもある意味現実なんだ。誰も彼もが快活に生きているわけじゃない。中には卑屈に生きてる奴もいる…物事を歪んだ視点でしか見れない奴もいるんだ…俺みたいにね」
そんな事を珍しく饒舌に語る俺を蔑んだ目で見ながら、ルーツは言った。
「もう良いわよ…アンタの理屈なんてどうでもいい。私が聞きたいのは、アンタはソラをどこにやったかってことだけ」
「…さっきも言ったけどさ、俺は知らないよ。きっとその子も妖精なんだろうけど…俺は今日初めて妖精を見たんだから」
「…本当に?」
「本当だよ…」
「…そう」
それ以上、ルーツは喋らなかった。呆れたのかもしれないし、意識が削がれたのかもしれなかった。
(…少し、言い過ぎたかな)
〔君は黒いものを吐き出し過ぎだよ。けど、少しはスッキリしたんじゃない?〕
(…少しは、ね…)
カゲロウの内心はこんな感じなんですよ




