怒号
本編29話。
カゲロウ拉致のその後。
それでは本編、どうぞ。
「あいつはまだ起ないのか!!」
よく分からない場所で目覚めた途端に聞こえたのはその聞きなれない怒声だった。
(これは騒音…なのかな?)
「殴ってでもさっさと起こしなさい!!」
「落ち着いてください、ルーツ様!」
どうやらその怒号の主はルーツというらしかった。声質的に少女だろうか
[頭ニ響ク声ヲ出スガキダナ、潰スカ]
俺は、頭痛を伴い聞こえるその声の主が誰か分からなかった。
「だ…誰…なの?」
そう問うた時、目の前のドアが開いた。
「…!あんた!!」
彼女は俺を見た途端、怒りを隠さずに詰め寄ってきた。
「さっさと返せ!!」
「か…返す?一体何の…」
そこで彼女は、予想外の、そして俺の知らない事を叫んだ。
「私の友達を…ソラを返しなさい!」
ズキリ、とまた頭が痛む。
[ウルセェカラ黙レヨ、クソガキ]
(君こそ…少し、黙ってて…!)
「返して…って、どういう…事…?」
「とぼけないで!あんたがソラをっ…!」
少女…ルーツは最後まで言えなかった。なぜなら…
「ここかぁぁぁぁぁ!!!」
ルインが森の木々、そして建物の壁を突き破って飛び込んできたからだ。
「ル…ルイン!?」
「カゲロウ!大丈夫か?」
[仲間…カ…]
「あ、あぁ…うん…大丈夫」
「なんなのよあんた!」
「カゲロウの裏人格ってやつさ!」
「裏人格…ならあんたもぶっ倒すっ!」
「私もいるんだがな…」
「妹紅さん!」
「ルインのやつが先走るから置いていかれたんだ…」
「ははは!悪かったな!」
正直に言おう、ルインが来ると場の空気が一気に変わる。悪い意味で。
[紛イ物ノ分際デ、仲間ヲ作ルカ]
(うるさい…黙れって…言ってるんだ!!)
「何よ…何なのよ!みんなまとめて壊れろ!!!」
「うおっ!!なんだ急に!!」
急に、という程ではないだろう。何せ、本人が敵対宣言した後なのだから。だが、分かっていた俺は何故か、その攻撃を防ぐことが出来なかった。
「ぐっ…」
(やっぱり…依姫さんの時と感覚が違う…!身体が…思うように動かない!)
「カゲロウ!大丈夫か!」
「大丈夫、案外軽いから…って…妖精…?」
そう、その攻撃の正体は、彼女と同じ…と言うより、彼女より一回りも二回りも小さな妖精達だった。さっきのは、攻撃と言うより体当りなのだろう。
「甘く見てると、痛い目見るぞ!」
その言葉に反応してか、俺は妖精達の持っていた小さな槍に貫かれた。と言っても軽く刺さったようなものなのだが…
「…っ!?!?!?」
さっきまでの頭痛とは異なる、激しい痛みが身体中を襲った。
「な…ん…だ…こ…れ…」
「な…なんで…?」
何故か命令していた本人が驚いていた。
「それは激毒…本来なら即死級の強さと濃度なんだけど…なんで生きてるの?」
「ど…毒ぅ!?なんつーもん使ってんだ!!」
その説明も、ルインの驚愕も、辛うじて意識が繋がっている状態の俺には届いていなかった。
(なんだ…何を言ってるんだ…?)
[オ前ハ毒ニ侵サレテンダヨ、相当キツイ毒ニナ。ドーセメディスン辺リヲ脅シタンダロ]
(…毒…か…多分…あの槍全部に塗ってあるんだろうな…)
[マァ、オレトシテハ好都合ダナ。容易ニ身体ヲ奪エル]
(…何を…)
そこで俺の意識は途絶えた。いや、奪われた、の方が正しいのかもしれないが、それを確かめる術は無かった。
あの謎の声、一体全体誰なんでしょうね




