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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
90/271

89曲目

ガス欠の中にエネルギー注入。

そんな感じの場面です。

 不意にあるはずもない、聞こえるはずのない天使の声が聴こえる。

 作詞作曲をしていなければ一瞬にして溜まりに溜まったフラストレーションが、爆音を立ててエクスプロージョンしそうになっていたのに、まるでマジックのように一瞬にして霧散(むさん)する。


 俺はテーブル上の歌詞ノートから視線をはずす。

 そのまま振り返るとギターケースを担いだ稔がいた。


 俺たちのバンドにとっては最大の宿敵であり、ロックの音楽仲間の1人だ。

 あんな女神に近い天使のような笑顔を出してくれる子が相手とは、世も末だ。


「おおっ! 稔じゃねえか!? え、なんでここにいんの? だって稔たちはたしか、親父さんとお袋さんが経営している喫茶店のさ。同じ楽器店で無料でできるじゃん? わざわざここに来たのは……ま、まさか! 寂しくて俺に会いに来てくれたのか!」

「えーっと、その、違うんだけど……お父さんやお母さんのとこでバンド練習するのはいいんだけど、それだと限られた人としかコミュニケーションとか取れないしいずれか慣れちゃうでしょ? だから他のスタジオにも入って色んなバンドマンの人や店員さんともコンタクトを取って二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)のことを知ってもらおうと思ってね。だから今日ここのスタジオにも来たんだ」


 稔の考えはすごくバンドとしてちゃんとしている。

 確かに慣れたとこばっかだと同じ人としか知り合えない。

 稔の親父さんとお袋さんの経営する喫茶店兼楽器スタジオはコーヒーやサンドイッチを求めてくる主婦や仕事帰りの人はもちろん、学生のバンドやらバンドマンやらソロ活動している人やらも足を運んで、喫茶店で茶をしばいてからスタジオを利用している。


 二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)はそこのスタジオでよく練習している。

 だから自然に利用している学生バンドや社会人バンドの人らとも交流も保てる。

 しかしこういった穴場ともなるスタジオの人とは、こちらから出向かないと知り合えずに顔も覚えてもらえないだろうし、そう考えたからこそ好奇心旺盛かつ天真爛漫で音楽に対して熱心に取りくむ彼女は、こうして足を運んではわざわざ金払ってスタジオを使うのだろう。


 いちバンドマンとして、そして女としても出来上がっている。


「そうか! つまり俺に会いに来てくれたんだな、憂いヤツめっ!」


 いまの俺の頭の中は"稔"のことばかりで、他のは視野に()れてない。


 こんなフラストレーション溜まりっぱなしなとこに、彼女が現れたんだ。

 そりゃ俺の身心共に疲れた体力も、げんなり感も一気に回復してしまう。


「もーっ、そんなんじゃないってばぁ」


 稔の丁寧かつ優しい心を持って俺の問いを否定するが、そんなの関係ない。


 俺はすぐに歌詞ノートとペンや消しゴムを自分のギターケースにしまう。

 稔の声を聞いてしまえばゾーン状態に入っている俺でもすぐ解除される。

 それほどまでに稔の声と存在と言うのは、俺にとって強大なモノなのだ。


 傍に駆けよって彼女の豊満で可愛い体を抱きしめたくなったがなんとか耐える。

 あークソっ! 稔はまさに犯罪的で神がかってるほどに可愛い、まさに聖女だ!


「もー、ちょっと稔? さっさとスタジオに入ってかないでよ。見失うところだったじゃない……って、うわ~っ。なんで人目も付かない穴場のスタジオに陽太がいんのよ? なにアンタ、迷い込んだの?」


 稔のあとから付いて来た結理が俺の顔を見てはイヤそうにする。

 そんな彼女も稔と同じ様にベースケースを背負っては練習する気マンマンだ。

 つーか迷い込んだってなんだよ? ここは神隠し的なスポットかなにかかよ?


「んっ? ああ、結理もいたのか」

「なによ、いて悪かったわね。稔を1人で来させるわけないでしょうが」


 俺のそっけない言葉に反応して結理は親友を想う気持ちを出す。

 さすがは稔専用のガードマンかSP的な役割を果たしていることだけはある。

 毎度毎度『結理、そのポジション俺と代われ』と何度おもったことだか……。


「熱川君たちも楽器と歌の練習をしに来たの?」

「おお、稔たちも練習か。さっきまでスタジオ入りしてたのに、熱心だな」

「えへへ、まぁね。なんか物足りないし、もっと練習して上手くならないとね」

「おう、それは同感だ」


 稔は嬉しそうにギターケースを下ろして、大事そうに抱える。

 手ではもう納まり切らない大きな胸が潰れて、ギターも幸せそうだ。

 俺は今、ものすごく稔の大事にしているギターケースと変わりたい。


 しかし、さっきまでスタジオで猛練習してたのにまた練習か。

 もうじゅうぶん演奏も魅せ方も上手いクセに、なんて真面目な連中なんだ。

 いや、だからこそあんなに素晴らしくて熱気を高める演奏ができるんだろうな。


 悔しい、悔しい、悔しい、だがこれでいい。

 その悔しさと受けた辛さをバネにして、力と熱狂的な音に変えればそれでいい。

 そしていつかは絶対に俺たちのソルズロックで、お前らもろとも照らしてやる。


「けどさ、少しは天狗になって練習もサボれよ。いつまで経ってもお前らに追いつけないだろうが……いっかい楽器から目と手を離して、少しは女の子らしいことしたらどうだ? ゲームセンターに行ってプリクラ撮るとか、ハンバーガーショップに行ってハンバーガーとコーラを頼んで店の中で食べ飲みするとか、映画館とかに行って最近流行のアニメ映画を見るとか。アニマートに行ってラノベ小説やアニメコミックを漁って出歩くとか。今考えれば、音楽以外でもいろいろとやれることはあるだろうに」


 俺がジェスチャーも入れてはそう結理に悟らせる。

 バンドとしては、こいつらと俺たちの力は歴然の差だ。

 少しは羽目をはずして休んでてほしいと、正直俺は願うのだ。


「はい? ちょっと陽太、それどういういちゃもんの付け方よ? というかソレ、どう考えても……アンタが稔と一度はしてみたいシチュエーションばっかなんじゃないの? 前ケンから訊いたことがあるんだけど」

「えっ? そ、そうなの熱川君」

「うぐっ、それは……おいケンっ! なんでコイツにバラしたんだ!」


 俺が図星を突かれうろたえてから、すぐ原因のケンへと振り返る。

 そこでは両手を合わせて"ゴメン"として爽やかな顔つきで謝るケンがいた。

 隣には、500mlのお茶を風流感じさせるような飲み方で和む宗介もいる。


 そこで状況把握に鈍くさい俺でも把握できることがあった。

 なぜ今まさに状況把握が必要なのか、イレギュラーである稔たちの存在だ。

 危険視しなければいけないヤツがいることを、視野に入れていなかったのだ。




「おい。さっきから1人で女子と喋ってんなって。オレにも紹介してくれよ?」




 俺の大事な稔の敵、暁幸が澄ました顔で俺らのとこへしゃしゃり出て来る。

 ああしまった、女たらしで顔の整っているコイツの存在をすっかり忘れてた。




ご愛読まことにありがとうございます!

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