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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
89/271

88曲目

 今日と言う日は俺の魂も不完全燃焼のまま、初バンドとなる練習時間をいっぱい使って、スタジオから出るともうクタクタだった。

 バンドとの一体感も協調性もまったくなく演奏も気持ちよくもなかったし、ストレスもフラストレーションも溜まりに溜まったのに発散できることもできぬまま、心身共に疲れ切ってメランコリーな状態にさせられた。


 スタジオの外に出ると他にもバンドマンの人らが練習している音が微かに聞こえ、俺はその中で近くにある自動販売機のもとまで出向いてはなけなしのお金が入った財布を開けて、その中から100円玉と10円玉2枚を取り出し、お金を投入して缶コーヒーを購入して取り出し口から取り出す。

 190gのソレに付いたプルタブを開けて戻し、一口飲んでは気分を紛らわす。


 買ったのは苦くて頭の冴えるブラックコーヒーだ。

 あんまり苦いのは好きじゃないが、このイライラをどうにかしないとな。

 そう思いながらもう一口飲むと、苦い味が口の中に広がり、少し辛い。


「ああ、ったくよ~。せっかくのスタジオ練習なのに横やりは入るわ、やりたいことも制限されそうになるわでよ~……しっかし陽太? お前、想像以上に下手じゃねえか。ソロで今までずっとシンガーソングライターをやってたり、セミプロまでイケたんだろ? ハッハ、ソロとバンドだとやっぱ違うのかよぉ?」


 暁幸は不機嫌な顔から一気に変わって、ゴキゲンな笑顔を浮かべている。

 まあ、身勝手で自由という名の集団行動できないヤベーコイツは結局最後の最後まで好き勝手弾いていたし、ましてや試してみたいと言ってたテクニックもバンバンやってたんだから、そりゃすこぶるイライラしている俺よりは、正反対で自分の音を楽しんでやれたんだし気持ち良かっただろうよ。


「ああっ!? テメェ、うっるせぇんだよ! ソロとバンドじゃ勝手が違うんだし、まだバンド慣れもしてねぇんだよ。つーか、お前に言われなくても、これからの練習で楽器も歌も上手くなんだよっ!」

「へー、そうかいそうかい。そいつは楽しみだな。だったら早く歌もギターも上手くなれよな。せめて俺の足を引っ張るなよ。バンドでやると上手い俺が目立ってると、やっぱ下手なヤツも視界に入って聴いてくれる客がげんなりするからよ~っ?」


「ぐっ……ぐぬぬぬぬぬっ! テメェ、このっ」


 俺は思わず噛み付くような顔を出しても言葉を出せず(つぐ)んでしまう。

 少なくとも、超絶技巧もテクニックも音作りも負けているのはたしかだ。

 言ってることが正論になってしまい、まったく言い返せないのだ。


 なんだコイツ、やっぱイケすかねーっ!

 絶対に負けたくないヤツが目の前にいるのに、なにも言い返せない現実。

 そんな認めたくもないことを突きつけられて、俺は血が滾り血管が切れそうだ。


 俺は飲んでた缶コーヒーを一気飲みし、缶ゴミ箱に投げ入れてから振り返る。


「くっ……クソッ! 今にみてろよっ! 絶対に上手くなってやるからなっ!」

「陽ちゃん。言うことはいいかもしれないけど、それ負け犬の遠吠えじゃない?」


 一緒にスタジオから出たケンがさらりとヒドイことを俺に言う。

 そんなケンの方を見ると、宗介と共にロビーの椅子に腰かけてる。

 前に置かれているテーブルの上に500mlのお茶を置いて一息ついている。


「うるっせぇ~!」


 俺はケンに向かって理不尽極まりない怒声を上げる。

 そんな俺の声がうるさいのか、ロビーにいる店員もこちらを見てくる。

 すぐその視線を察知したケンと宗介が代わりに謝り、こと無きを得る。


 俺は僅かに悪いと思い口をとじて黙ると、自然に暁幸が視界に入る。

 まるでバカなことをしでかした俺を暁幸はニヤニヤしながら黙って見る。


 ああ、なんなんだこのストレスとフラストレーションの溜まり方は!

 おかしいだろ、バンドってのはもっと楽しくて気持ちのいいもんだろ?

 ロックってのはもっとスカっとして輝けるカッコいいもんじゃないのかよ!


 俺の目指しているソルズロックはもっともっと燦々と輝いていいもんだろ!

 こんな体たらくで混じり合わない音楽じゃなかったのになんかおかしいぞ!

 心の中で不平不満が入り混じり、葛藤し、上手くいかないことに憤怒する。


 俺たちが送る人生って言うのは、どうしてこうも上手く進まないのか。

 曲がりくねった軌跡(レール)に乗っかったように、憂鬱な気分になりそうだ。


「クソっ! こんな気持ちのときは……作詞作曲が一番いいっ! やってやる」


 俺がいつもこういった気持ちや感動したときにとる行動が、作詞作曲だった。

 なぜなら、その瞬間が一番"歌詞"として脈動感と躍動感があり繊細だからだ。

 魚などで表せば採れたてで鮮度のいいモノを仕入れる、といった感じである。


 バンドとしてやること成すことまったく上手くいかない俺はまた自分のイラ立ちを消し去ろうと試みて、ギターケースの外側にあるポケットのチャックを開けて中から歌詞ノートと歌詞を書くためのペンと消しゴムを取り出し、自分も近くにある椅子を後ろに下げてから座り込み前にあるテーブルの上にソレらを置く。


 けっこう使い込んでいる歌詞ノートはすでにボロボロだ。

 ノートの中身は消しゴムで消しては汚れたページがいくつもある。

 ペンで何度も何度も歌詞ノートと向き合い頭の中や視界に入ったモノなどでいろいろ浮かんだ歌詞を書き綴って、すでに空想と創造の中から生み出されていくつものオリジナル曲が出来上がっており、"まだ改善途中"などと書かれている未完成モノの曲もある。


「へぇ~っ。これはすごいな」


 暁幸も意外な行動を目の当たりし興味を持ち俺のテーブルに座る。

 歌詞ノートの中を彼が覗き込むと、軽くても20から30曲は手掛けてある。


 暁幸がそう呟いたのを訊き、ケンも宗介も俺の周りに集まって来る。


「ほぅ、たしかに。これは全て陽太が書いたものかね?」

「うん、そうだよ。だけどこれはソロ用のオリジナル曲かな」


 俺の代わりに宗介の問いをケンがのんびりとした口調で答える。

 実際にオリジナル曲の歌詞を書いてる俺が答えられないのも無理はない。

 現に暁幸がおちょくったり宗介が疑問を投げかけたりしても、反応がないのだ。


 スポーツだと"ゾーン"に入っているのと同等のことが今の俺に起こってる。

 集中力が上昇し、自分の感情と思い描いた世界が、頭の中で凝縮している。

 バンドの音合わせが上手くいかない負の感情すらも歌詞にたとえてしまう。


 まったく反応せずにタイトル未定のオリジナル曲の歌詞を書いている俺。

 無の一心不乱で一直線に歌詞を手掛ける彼を見て、あの暁幸も舌を巻かれた。


「ふーん、なんだよコイツ。ある意味、才能を手にしてんじゃねえか……」


 いつも陽太にちょっかいを掛けてバカにする暁幸が小さくそう呟く。

 その言葉は歌詞を書き綴る彼を間近で見てるケンや宗介にも聞こえなかった。


 音楽のことやロックのことになると数倍にも憎たらしくて、手に負えずにバカなことばっかするコイツを褒めてしまった彼は、そんな概念全てを振り払うように頭を振って椅子から立ち上がりロビーの中を歩く。

 ただそんなときに、不意に思ってしまうことがある。


 才能に近い鬼才を先天的に授かった自分。

 才能すらなく泥臭い努力で積み上げた弟。


 努力なんて無駄で、報われるかどうかもわからない。

 しかし、そんなものに必死になって頑張れば、変わるもんなんだな。

 ある種の天賦の才を手にした彼は不思議にもそう考え込んでしまう。


「あれ? あ、やっぱり熱川君だ!」


 そんなとき、陽太にとって天使で女神の声が聴こえた。

 陽太たちの使ってるスタジオのロビーに居るはずもない。

 憤怒する彼に向ける、細やかなプレゼントのように彼女が舞い降りた。




ご愛読まことにありがとうございます!

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