表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
88/271

87曲目

 俺は今この場で音を合わせてる中で、言えることがある。

 暁幸の即興ベースプレイには多くの超絶技巧で曲をぶち壊しにしてる。


 Hey Jude, begin。

(さあ、ジュード やってみなよ)

 You're waiting for someone to perform with?

(誰かが手助けをするのを待っているつもりかい?)

 And don't you know that it's just you

(それはきみにしかできないことじゃないのか)

 Hey Jude, you'll do?

(なあ、ジュード わかっているだろう?)

 The movement you need is on your shoulder。

(すべてはお前次第で変わっていくんだぜ)


 歌って演奏しているのは、そんなに即興を入れる曲じゃない。

 俺も今ほとんど原型がなくなってる"Hey Jude"を歌う気になれない。

 親友のケンが好きだからやってるのに、曲をガン無視されたら角が立つ。


 確かに超絶技巧も即興もできることは素晴らしいが、壊したら話にならない。

 よくライブでは演奏のつなぎ目や楽器ソロとなる見せどころ、ボーカルが歌って丁度ブレスをしたりちょっと出せそうな箇所があるところに、即興で持っている楽器から音を挿入(そうにゅう)することがある。

 これを確か、英語ではフィルインと言い、日本語になおすとオカズなどと言って、ステージに立ってバンドの演奏者としての技術力と判断力に音楽的センスなどが端的(たんてき)にあらわれる要素の1つだ。

 暁幸の独りよがりなベースプレイのそれらは、異様で反則的に多い。

 いや、それはもう多いとかの範疇(はんちゅう)をとうに越えているのだ。


 まさに、低音の粒による怒涛の連撃だ。

 本来の演奏パートであるリズムを刻んでドラムと土台となる役目を放棄して、周りの音をガン無視して自分の世界に入り浸り酔いしれては浮かれ、気がつけば別の曲を弾いてやがるのだ。

 低音でビートを刻むベースがこれでは、もはや曲にならないしめちゃくちゃだ。

 暁幸は指弾きでやる超絶技巧をし終わるとまたスラップをしたりする、ウザい。


「おい、テメェ……さっきからふざけてんのか? おちょくってるのか、おい?」


 ボーカルマイクから口元を離し、苛立ちが込められた声を出す。

 俺はテレキャスターでロックコードを弾きながら右隣にいる暁幸の方を向く。

 本当だったら声を大にして怒鳴りたかったが、ここはグッと我慢しおさえる。


「ああっ? んだよ、俺はさっきも言っただろ? 俺は"女神"と"自分の奏でるベース"を愛し、なにものにも縛られず囚われない"自由"が大好きで愛してるんだってよっ! いやっふぅ~っ、流石は俺のベースの音だ。実に、最っ高だねぇ~っ!」


 ヤツはそう意気揚々出答えると今度はまるでギターのようにコードを弾く。

 指全体の裏で叩き付けるように奏でる分厚いコードが、スタジオ内に響く。

 体の重心を下げて奏でるごとに左右に体を揺らして、実に楽しそうにやる。


 ああ、ダメだ……アレはアカン。

 完全に自分の世界で奏でる演奏に聴き惚れて愉悦に浸ってやがる。

 これではバンドになんてなりゃしないし、まず音楽として成り立ってない。


 だが、さっきも好きなバンドの言い合いでケンカに勃発したばかりと言うのもあるし、あまりにヤツの身勝手な演奏にケチをつけて短気を起こしてしまえば、早くも俺の組んだバンドは空中分解しかねないことになる。

 せっかくここまで形ができたのに、いきなり消滅しかねない。


 ムカつくがここはグッと我慢だ、我慢を覚えるんだ熱川陽太(にえかわようた)よ。

 俺の目指し決めた目的ははるか遠く、これから長く熱い戦いが待っているんだ。

 ケンも"もう少し未来を見て考えて"と言われたし、あんまり短気じゃいけない。

 今まで情けなく取り繕ってた自分を塗り替えて、これまでの俺とは変わるんだ。


 そうだ、俺は最高にロックでイカしたメンバーを集めれたんだ。

 宗介は正確無比のビートを刻み、暁幸は、即興に変えるテクニックもあるんだ。

 それにあのファンクロックのプロベーシスト並みの魅せ方や音の粒もあるんだ。

 独りよがりで身勝手な部分があるのは否めないが、その超絶技巧であるテクニックと音の粒をうまくバンドに取り入れていかしてもらえるようになれば、ありとあらゆるバンドが押し寄せても戦える立派な戦力になるし、新たなロックジャンルである"ソルズロック"の先駆者であるメンバーの音としてこれ以上のモノはない。


 自分にそううまい言葉を選んでは言い聞かせながら、セッションを繰り返す。

 これじゃ今俺の必要なことは"バンド"と"ギター"と歌の練習というよりも、精神集養に出向いて心清らかになる精神統一やら、負の感情を滅するために煩悩退散の修行をした方が有意義だし必要なんじゃないかと思いはじめてしまう。

 よし、今度また穐月寺(あきづきでら)に出向いて宗介に座禅から教えてもらおう。

 バンドメンバーのコネでお袋さんの旅館でなんか食わせてもらうのもありか。


 ま、それはそれとしてだ……。

 これは本当に、いったいどうしたらいいのか?

 初めてバンドを組んだ俺には、その答えが曖昧すぎる。


 カズののんびりとしてフレーズももたつき慌てるギター。

 暁幸の超絶技巧満載の自分勝手で周りの音を聴かないベース。

 宗介の幽体離脱した霊体が叩いてるような正確無比なドラム。

 そしてソロと勝手が違い、俺の荒削りで下手でがなる歌とギター。


 えっ、ナニこれ、ちょま、マジでなんなんだコレ……。


 ……………………。

 な、なんだ、なんなんだよこれはよぉっ!?

 プレイしてても全然楽しくも面白くもないし、俺自身も気持ちよくなれねぇぞ!

 俺があの日、雷にうたれたかのようなお告げを実行した人選は、間違ったのか?


 伝説を塗り替えようとする俺の初ソルズロックバンドの出陣となる音合わせ。

 これほどまでに例えも難しく、まとめるのも難しそうな現実は、いらなかった。


 そこで俺は鐘撞大祭(しょうどうだいさい)で演奏した男子軽音部を思い出す。

 ああ、なんだかんだ言っては争いになってあんまり顔も出していなかったけど、三岳部長や先輩たちはちゃんとした人で物わかりもよかったんだなぁ……。

 バカにしたり心の中で貶したりして、本当に申し訳なかった。


 セッションを続けるにつれて、絶望的な気分で苦痛を味わう感じになって来る。

 そんな今の俺の気持ちを言葉で表現するなら、『バンド人生、一寸先は闇』だ。

 俺自身が認めたくもないのにその言葉が似合うのが、至極腹が立ち抑えれない。


「ぐっ……ぐぐぐぐぐっ、クソっ! あー、もうガマンはやめるし、考えるのもメンドクセーっ! ふっざけんじゃねーぞゴラッ! こんな、こんなふざけた音ばっかのセッションなんて下らねぇし、やめだやめ!」


 俺は血管が切れてガマンできず、マイクをぶん投げて演奏を無理やり止めた。

 いきなり暴れ出した俺を見たケンは唖然とし、暁幸は憮然として止まっている。

 おまけに正確無比でビートを刻み続けた宗介は静かに表情1つも変えていないものの、またもやヤレヤレと言ったように肩をすくめて、"ふう……"と鼻で言いそこで項垂れる。


「おいなんだよ、陽太? 人がせっかく気持ち良く演奏して楽しんでたのに」

「おいお前、お前だよお前。お・ま・えが特にめんどくさくてやり方が卑しいんだよっ! そういうとこがイヤで俺はお前の電話番号も消してアドレスを変えたほどなんだぞゴラッ! 俺の双子の兄貴なんだったらもうちょっとちゃんとしろよなっ。お前は周りをもっとよく視ろよっ! お前は自分の音だけじゃなくもっと周りの音にも耳を傾けて聴けよっ! これはお前1人で楽しんでやってるんじゃねーんだぞっ! わかってんのかお前えええええええっ!」


 今まさに"お前"という言葉がゲシュタルト崩壊しそうだ。

 俺の怒涛で憤怒した意見を訊いた暁幸は一瞬だけ驚き、軽く鼻で笑う。

 そしてすぐに青筋を立てては俺並みに怒り狂い、人差し指で人を差す。


「はあっ~っ!? んだテメェゴラっ! 1回や2回なら別に気にしねぇけど、いきなり怒声を上げたと思ったらポンポンポンポンポンポンポンポンっ~、俺のことを『お前』呼ばわりしてんじゃねーぞ! 一応俺はお前の兄貴なんだぞ。それとお前こそいま俺の演奏をその腐った耳で聴いてたのかよ? 超イケてたし目立ってただろ? お前らみたいな音はまさに前座なんだから、わかったらもっとこの主役(おれ)を立てろよ!」


 普通、楽器の音と歌声が響くはずの室内は、まさに奇妙奇天烈(きみょうきてれつ)だ。

 お互いの悪さを出し罵声が飛び交い、これでまた最初からのやり直しだ。

 スタジオに入ったときと同じく、火花が散り引かない言い争うがはじまる。


「ちょ、ちょっと、もう2人とも。ケンカはやめなよ~っ!」


 そんな中、ケンの悲痛にも思える嘆きだけが小さく木霊する。




ご愛読まことにありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ