表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
87/271

86曲目

 そして、初バンドとなる練習が始まった。

 しかし初めてすぐ、俺はいきなり愕然とし絶望を強いられた。

 音合わせをして数分で、"こんなはずでは……"って思うほどである。


 Hey Jude, don't make it bad。

(なあ、ジュ―ド 悪いように考えるなよな)

 Take a sad song and make it better。

(悲しい歌も、素敵な歌に変えてくれよ)

 Remember to let her into your heart。

(彼女のことも、その心の中に受け入れてあげてさ)

 Then you can start to make it better。

(そうすれば、きっと良くなっていくからよ)


 俺は歌いながらテレキャスターでコードを弾き、周りを見渡し観察する。


 ケンは音楽を聴くが、プレイ方面はそんなに上手くないのはよく知っている。

 けれどケンもケンなりに必死に努力を積み時間をかけて、日に日に少しずつギターの腕前も上達はしてきているが、いざバンドとして音合わせするとどうももたつきがちで、すぐに遅れたりフレーズを間違えたりする。

 バッキングをやってみてもアップとダウンがガチガチだし、ヘンな力が入る。

 ミュートもあまり得意じゃなく、曲を演奏してるとき妙な雑音が入り混じる。

 得意な方であるアルペジオも、ゆったりしたり止まったりして気が気じゃない。

 いいか悪いかで言うなら正直言うと悪い、しかしこれはわかってたからいい。


 問題はこれからバンドの戦力になると踏み、期待してたリズム隊の2人だ。


 Hey Jude, don't be afraid。

(ねえ、ジュード 恐れないでくれよ)

 You were made to go out and get her。

(さあ、彼女のところへ行ってあげな)

 The minute you let her under your skin。

(そして待ってる彼女を受け入れてあげるんだ)

 Then you begin to make it better。

(そうすれば、きっと良くなっていくからさ)

 And any time you feel the pain。

(たとえどんなに苦しく感じるときでも)


 まずは宗介なんだが、こいつは焼けに妙でおかしなドラムを叩く。

 それはドラムというか、"打楽器"というのは情熱的で熱狂的で快楽的に感情が高ぶられる最高の楽器だと思うのだが、宗介のドラムプレイはなんだか淡々としすぎててまるで感情が無いように、引くほどにおそろしく人間としての匂いもしないし雰囲気も気配も出していない。

 いや、それも1つのまた味で良し悪しもあると言えるかもしれない。

 けっしてヘタじゃない、コイツは全然ヘタじゃないんだが、なんか物足りない。

 コイツが寺の息子ともあってか、ドラムも悟りを開きすぎて煩悩がない感じだ。


 ただ良いとこもあって、リズムは驚くほどの正確さで舌を巻いてしまう力量(レベル)だ。

 演奏中は始終叩かれているタイコでロックでは強烈なアクセントとなる"スネアドラム"に左あしで開け閉め調整可能のビートを刻む"ハイハットシンバル"、右あし担当で重低音を出すオオダイコの役割を持つ"バスドラム"に大小さまざま、好みによって数が決まるハイとローの"タムタム"、3本脚で床置きするタムの"フロアタム"に屋上から皿かなにか落としたような衝撃音を出すクラッシュシンバルに固い音を出してビートを刻む"ライドシンバル"。

 それらを自由自在に操りながら、無人間のような正確なリズムを刻み続ける。

 まるでリズムマシーンかメトロノームのように正確無比なリズムを出すのだ。

 というか、あまりに正確すぎて、本当は人間じゃなくマシーンなのだろうか。


 俺は後ろを振り向いてヤツの姿をうかがう。

 するとヤツは目を閉じ耳で周りの音を聴き、的確なリズムを刻んでいるのだ。

 バンドでのコミュニケーションもアイコンタクトも、これじゃままならない。

 けれどそれすらもまだいいと思えるような光景が、俺の目に飛び込んでくる。


 Hey Jude, refrain。

(なあ、ジュード あきらめるんじゃねえぞ)

 Don't carry the world upon your shoulders。

(すべてをひとりで背負い込むことはないんだからよ)

 For well you know that it's a fool who plays it cool。

(クールに振る舞っている奴なんて、そんなの愚かなだけさ)

 By making his world a little colder

(自分の世界を、冷たいものに変えてしまっているんだかろよ)


 それは言うまでも無く、"自由"が大好きで信条の俺の兄貴、"暁幸"が問題だ。

 いや、超絶技巧も難なくやれるベース技術と速攻で自分の色と音を創り出す鬼才で言えば、間違いなく暁幸はこの中で一番うまく軍を抜いているかもしれない。

 コイツは"PAIN(ペイン)OF(オブ)SALVATION(サルヴェイション)"が好きだと言っていたが、今バンドとして音を合わせて演奏しているスタイルを見ていると、どう見てもファンクロックで世界を代表する"Red(レッド) Hot(ホッと) Chili(チリ) Peppers(ペッパーズ)"のベースの技量は高くパフォーマンスもイカしているベーシスト"Flea(フリー)"にしか見えない。

 宗介が同バンドの"Chad(チャド) Smith(スミス)"みたくプレイすれば様になる、それほどだ。


 さっき言い争いになりケンに止めて貰ってからヤツがどのような音作りをしているのか気になり、ふてぶてしく謝りながらどう作ってるのか聞いてみたところ"俺のベースアンプを見ろ"と言ったので、彼の後ろにあるベースアンプのもとへと出向き見たのだ。

 彼がよく多用するスラップをメインで弾く曲のときは、ベースはトレブル強調にして、低音と高音ばかりやたらに強調され中音が充実していない音を示すいわゆるドンシャリと呼ばれる音で作ってる。

 彼はそれに自分の足元に置いてあるエフェクターのチャンネルでドンシャリともう1つの音を作っており、床に置いてあるエフェクターのボタンを踏んで音のチャンネルを変えて、スラップなどから指弾きへと変更するときは逆にミドル重視にしてベースとトレブルは上げすぎない音作りにしているとのことだ。

 うん、これほどまでに完璧に"Flea"の音作りとプレイで逆にびっくりだ。


 Hey Jude, don't let me down。

(なあ、ジュード がっかりさせないでくれよ)

 You have found her now go and get her。

(ようやく出会えた彼女を速く抱きしめてやれよ)

 Remember to let her into your heart。

(そしてその心の中に受け入れてあげるべきなんだ)

 Then you can start to make it better。

(そうすれば、きっと良くなっていくからさ)

 So let it out and let it in。

(素直なままに、受け入れてあげれば良いんだぜ)


 俺は思わず、思ってたことと違い、うろたえそうになる。

 今までずっとソロとして活動し路上ライブとかアコギ一本のみでライブに出てただけで、荒削りで乾いた砂漠みたいなギタープレイしかできずに今やっとバンドとしてのギターを学んでいる俺が、やっとまとまって音楽をプレイするバンドでの音楽らしくきこえるという力量(レベル)なのに比べれば、それこそ音楽でも技術面で出る差は歯を噛みしめるほどに悔しいが一目瞭然で明白な事実だ。


 俺みたいなバンドでペーペーのヤツが、色々と言えることじゃないのはわかる。

 それでも言える問題なのは、とにかく俺以上に"独りよがりなプレイ"なのだ。

 まず、他人の音なんて知ったこっちゃないと物語るほどに全然聴いていない。

 おそらく自分の音のみに執着して愛し、ほかの音は聴く気も無いのだろう。


 その性格とやり方は気に入らないが、それはまだ仕方ないことだ。

 まず他人と音を合わせる経験がなければ、最初はだいたいこんなものだろう。

 だから俺の頭を悩ませてくれる問題は、もっと別なところにある。


 まさにそれは、多いなる大厄(たいやく)といっても過言じゃない。

 今初バンド音合わせとして俺たちが演奏()ってるのは、静かめの曲だ。

 ケンが提案した"The() Beatles(ビートルズ)"の"Hey Jude"だから当然だろう。


 俺がまさに"Free"と"Flea"でも合わせてるのかと思うほどの問題……。

 そんな物静かな曲に、胸が一杯になるほどの超絶技巧(テクニック)の満載ということだ。




ご愛読まことにありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ