84曲目
やたらと自信満々でベースを構えてはキラキラする暁幸。
本当にコイツをリズム隊のベースを任せておいて大丈夫なのか?
自分でメンバー誘っておいてなんだがやっぱり、バンドの協調性もロクな目標概念もない、ただの先天的に授けられた鬼才を振りまいて即興ベースプレイを女どもに聴かせて、良いように自分の人生を謳歌しては努力をする人を見下してバカにする嫌なヤツなんじゃないのか?
俺の降り注いだ直感はただの気の迷いとか間違いだったとかじゃないだろうな?
一気に俺は暁幸を疑いバンドの方向性がみるみるうちに不安になる。
「まあ、陽ちゃん。今回こうやって僕たちのバンド、ソルズロックバンドを結成するためにこうして暁幸君と宗介君が入ってくれたことは大きな第一歩なんだ。それに今から音を合わせながら色々と模索をして、みんなが面白く楽しく、そして熱く盛り上がれるような曲をやればいいじゃない。きっとそれが、一番いい方法だよ」
「いいやケン、それは違うぜ。俺は、そういう浮遊感ただよって優柔不断で中途半端なの、大好きな音楽で突き詰めたいソルズロックでやるのはあんまり好みじゃないな。第一、ロックってのは極論だぜ。バンドだってそうだ、俺が本気で立ち上げるバンド内に1人でも軽々しい態度でいられちゃ、生み出される楽曲だって冷え切っちまうじゃねえか」
「まあまあ、とにかく陽ちゃんは落ち着いて」
「なあ、そうゴチャゴチャと言って口喧嘩になる前にここは1つやってみようじゃないか。俺はこういうとこを使うのは初めてだし勝手はまだいまいちピンとこないのだが、こういうとこを借りて音楽をする場所では時間で金がかかるのであろう? ふむ……なんだかアルバイトと同じなように思えるな」
スタジオ奥のドラムセットを陣取った宗介が言う。
しかし、良く通る声と風貌からして妙に貫禄のあるヤツだな。
言うこともやることもなんだがソレっぽいし、テキパキと事を進める。
なんだかまるでバンド内のリーダーみたいな風格なんだが?
おいふざけんなし、このバンドのリーダーは俺だってのに……。
「ああ、わかった。宗介の言う通り時間は有限だ。思い立ったが吉日、ならばその日以降は全て凶日ってことわざもしっかりクリアして、今こうしてバンドメンバーが集まったんだ。あるべき時間を有効活用しないといけねぇな。それじゃあ最初だし、曲はそっちで決めてくれ」
こっちからバンドを誘ってわざわざ加入してくれたからサービスだ。
それに今の今まで本堂で音合わせばっかやってたとのことだし、こうしてスタジオに入って練習するのも初めてらしいので、最初ぐらいは合わせたい楽曲をそっちで選ばせてやることにする。
「お、いいのか? なんだ、陽太のくせに意外と気前がいいじゃねえか……ならお言葉に甘えさせてもらって。あ、宗介。お前はなにかあるか?」
「いや、俺は別にお前が楽曲を決めてくれれば大体たたけるし、異存はない」
「おお、そっか。それじゃあ、"PAIN・OF・SALVATION"を演奏ろうぜ」
礼を言ってから暁幸はロクに考えもせずに合わせる曲を決めてしまった。
もちろん宗介にも意見をしたことはいいことだが、出す曲がまたマイナーだ。
コイツがちゃんと礼を言うことに思わず驚いて、少し気がかり的な顔を出す。
「PAIN・OF・SALVATION?」
「おお。あっ? なんだ、もしかして知らないのか?」
「ああ、知ってるさ。なんか実験的な雰囲気出して暗ぼったいバンドだろ」
俺は心に思ったことをはっきり言うと、暁幸はムッとしたようだった。
まるで俺の言った感想が気に入らないと、今にも掴みかかりそうな勢いだ。
だが、あのバンドは本当に実験的で暗いし、何よりイメージが太陽っぽくない。
「ちょ、ちょっと~っ。よ、陽ちゃんってば」
「いや、本心なんだから仕方ないだろうがっ」
「そうか。ならお前はなにが好きなんだよ?」
「"Sum41"だ」
「……プッ、ギャハハハハッ! 嘘、"Sum41"だって?」
まるで先ほどのお返しとばかり、暁幸がバカにしたように鼻で笑う。
今度は俺がその感想を訊いて、ムッとしたように気に入らない感じになる。
「おい陽太、冗談は顔と頭と考えと楽器の力量だけにしといてくれ。あんなの、メンバーの脱退とかでジャンルそのモノが変わったりして一貫性のない。メインヴォーカル&ギターも結婚からの離婚騒ぎでバンド潰れる寸前だったこともある……それこそ、お前みたいに中途半端なことを嫌う、下らないバンドじゃねえか。カッコ悪くてしかたないし、話にならねぇな」
「なっ、なんだとテメェ! "Sum41"をバカにすんのか!?」
「なんだよ、俺に異論があるのか? ああっ!?」
俺と暁幸にまた新たな火花が視線から飛び交う。
どちらの表情には眉間にしわが寄り、引かない。
「はあ、やれやれ……また口喧嘩か? 話が進まないな」
ドラムセットを陣取り座っている宗介がため息交じりに呟く。
初バンドの初陣は前途多難だな、といった感じで俺たちを眺める。
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