83曲目
「えーっと、あの、そ、宗介君はよかったのかな? 陽ちゃんと暁幸君の話に流されるままな感じが否めないんだけど、僕たちのバンドに入ってくれるって話なんだけど……大丈夫なの?」
ドラムのセッティングをする宗介に、ケンがなにやら訊いている。
彼は仏頂面にも思える冷静な顔つきでケンの方へと見上げる。
「んっ? ……うん、まあ致し方あるまい。今日初めてこうして会い初めてまともに話をしたが、君の連れの陽太も、暁幸も、俺たちがバンドをやるんならもちろん俺もやると決めつけているようだからな。ははっまったく、行動力は2人ともあるようだし、俺にとって新しく面白い趣味をくれた暁幸と一緒にいれば退屈はしないしな」
ああ、そう言われてみえば、まだ宗介の返事は聞いてなかったな。
暁幸がバンドやると言ったから宗介もいいもんだと勝手に思い込んでた。
するとベースのセッティングを済ませた暁幸が宗介の方を振り返る。
「あれっ? 宗介、なんだお前、もしかしてバンド入るのイヤだったか?」
「いや、別にそういうわけではないけど」
「なんだよ。ならいいじゃんか、お前のドラムがありゃ最高の演奏になるしな」
「ああ、別にいいじゃんな。俺のバンドは難アリのメンバーだらけだがな」
暁幸と俺との手出しによる応酬が始まる。
どちらも掴まれまいと避けながら相手を掴もうとする。
「……まあ、いいんだけどな。はあ、前途多難な感じがするものだ」
宗介はそれらを訊き今のを見てなんだか複雑そうだ。
そうなりながらもハイハットの位置やらスネアの高さを合わせていく。
「えっと、ごめんね。陽ちゃんはもともと1つのことを考えると周りが見えなくなっちゃうし、それが大好きで本気になってやろうとする音楽でロックのことになると、周りすらも巻き込んじゃって影響を出しちゃうから」
「おい、聞こえているぞ。陰口を叩くんなら外で言うか聞こえないように言え」
手出しの応酬が終わり、ギターのセッティングを終えた俺が睨み言う。
そしてすぐにまたギターのボリュームを上げて音作りの調整に挑んでく。
「えっ? あ、いや~っ。今のは誉め言葉なんだよ」
ケンはいつも通り爽やかでのんびりした笑顔で場をごまかす。
いや、あれは冗談ではなく本気で言っているのかもしれないが。
「まあそれはそれでいいさ。俺はこれでも仏教に置く身だし、旅館の息子でもある。これが自然の成り行きで理として出されたのならば、あるがままを受け入れ、俺はそれに従い動くだけだ」
さすがは仏教を唱える寺の息子は悟りを開き切ったように平然と言う。
暁幸もたいがいヘンなヤツだが、こいつもずいぶん変わったヤツだな。
ま、そこは別に気にしないし、変人同士ということでいい。
変わっていようがなかろうが、バンドとしてドラムが叩ければそれでいい。
利用するのが初めてだということで、スタジオ代は俺とケンで割った。
別に気にすることじゃないが、いきなり寺に出向いてメンバー加入したんだ。
かなり無理難題を突き付けたにも関わらず加入してくれたんだ、致し方ない。
初オリジナルバンドとなる音合わせと練習のスタジオ代によって痛い出費だが、エフェクターやエレキギターの部品などを購入しようとして、家にあるいらない物を片っ端から売ってできた金がまだ少し残っていたからなんとかなる。
しかし、このままじゃ近い内に俺の金は破産待ったなしだ。
これから本気でソルズロックバンドを立ち上げてバンバンライブ活動をしていくんなら、今年の夏はバイトにも力を入れて収入する必要がありそうだ。
「んで? 一応聞くんだが、どんなジャンルをやろうと思っているんだ?」
一早く全てのベースセッティングと音作りを終えた暁幸が、俺に尋ねた。
きっとジャンルを訊いてこれからの方向性を導き出そうとしているのだ。
コイツはいちいち癇に障ることを平然と言うが、そこはきっちりしている。
「勢いと怒涛性のあるパンクロックバンドでオリジナル……作詞作曲もだいたいはアニメやゲームとかの曲を聴いて、そこから単語やら曲調をアレンジして、俺たちの楽曲で勝負できるのにしたい。まあ、ジャンルはだいたいパンクとかに近いかもしれないが、別にそこまで気にしない。お前の言っていた"自由"らしく、なにモノにも縛られず囚われない、真のロック――太陽のように輝ける、ソルズロックをやりたい」
「ソルズロック……? くっ、ハッハッハッ! そりゃいい! いいね、いいね、最っ高だぜぇ! 真のロックンロールで、太陽よりも熱く自由よりも自由らしい新たな音楽ジャンルってことか。くくっ」
暁幸はまたバカにしたように高らかに笑った。
今俺たちのいるスタジオ内にそのバカにする爆笑が響き渡る。
「あっ? んだよ、なにがおかしい? 俺は本気なんだぞ?」
「ああ、そうか。いや、悪い悪い。別にバカにしたわけじゃねえんだが、訊いたらちょっとな……ま、そこまで大見得切って言うんなら、とりあえずはお前の熱意と決意の証明に期待しとこうじゃないか。真のロックンロール、ソルズロックってやつをさ」
長い髪をかき上げてキザッたらしくウインクなんぞしてくれる。
やはりコイツは自由を愛し、自分の生きたいように生きているヤツだ。
しかし男にウインクなんかされても、気味悪いし鳥肌が総立ちするだけだ。
ついにソルズロックを目指す真なるパンクバンドの結成できた最高の日。
初となるバンドの音合わせが最悪のひと時にならないように祈るばかりだ。
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