81曲目
しかしそれは俺だけじゃなく、暁幸も同じ感覚を感じているだろう。
ヤツの顔つきは女をはべらせて楽しんでいる軽い雰囲気には見えなかった。
停滞気味だった自分の人生に新たな目標ができて嬉しそうな感じだったからだ。
「ほぅ……? なあ、お前たち。そんなにいがみ合って力があり余っているなら、わざわざウチの寺まで来てくれて話がまとまって、晴れてオリジナルバンドのメンバーが集結となれたんだ。だったら挨拶がてらちょっと楽器で合わせてみたらどうだ? せっかくお互い楽器を持っていることだし、俺も一緒にドラムで入らせてもらおう」
お互いに譲れない想いが駆けめぐり熱い魂を同時に点火させ、新たなるメンバー同士で手を強く握っている犬猿の仲の俺たちに、一部始終を見て観察していた宗介が冷静かつ面白そうな提案を切り出す。
おお、それはこっちとしても願ったり叶ったりだし、望むところだ。
しかしここは寺だし、あるとしても1つのバッテリー駆動のアンプ。
楽器は俺らが持って来たギター2つと、暁幸の持つベースのみだけだ。
とてもじゃないがこの場所でセッションをするのは無理としか言えない。
「うし、それならこの外野はうるさくて敵わんし邪魔だな。ああ、取り巻きの構造物ズラで谷底スタイルどものことを言ったわけで、お前の大事な彼女のことを言ったわけじゃないからな」
その言葉にさらにヒートアップしてしまい、ギャーギャーやかましく言ってる女どもを百鬼を従わせる鬼主の形相で凄み睨みつけると、負けずに女どもも犯罪を犯しでも構わないといえる極悪人の形相で睨み威嚇してきた。
それを見て、暁幸が肩をすくめて1つため息をつく。
「はいはい、わかったわかった。ここはお釈迦様が飾られている心清き人が修行する寺の中だぞ? そんな暴言1つや暴動1つでカッカして、いちいちケンカに発展させるなよ」
おう、そうだな。
今の言葉、さっきまでここで即興ベースプレイをしたお前に叩き付けたい。
そんなふうに考えながら女どもから体を引くと、暁幸が女どもに振り返る。
そしてヤツが"自由"の次に大事にしている"女神"である彼女の方をうかがう。
「ああ、ゴメンね子猫ちゃんたち……悪いんだけど、今日はもう即興ベースプレイはお終いってことで。今日はもう帰ってくれる? 今見ててくれた通り、俺と親友はちょっと大事な用事ができちゃったんだ」
暁幸がそう言うと、取り巻きの女どもはすごく悲しそうな顔をした。
だが決して、構造物ズラで谷底スタイルどもはグズグズ言わなかった。
なんと、打ちあわせでもしたかのようにみんな揃って素直に立ち上がった。
すげぇ、まるで集団高度の団体演技みたいにきっちり揃ってるぞ。
「もう~っ、すっごく残念だけど、アッキーが言うならそれに従うね」
「今日はもう帰るけど、またアッキーのベース聴かせてね?」
「それでまたウチらと一緒に街をブラブラ遊びに行こうよーっ!」
女どもは嬉しそうにキャピキャピと騒ぎ出す。
そういったとこもまったく同時で、実に笑える。
「ああ、もちろん。俺の奏でる音が聴きたいなら明日でもいいぜっ?」
「ほんとっ? わーい、やったぁ!」
取り巻きの女どもは素直に喜んで、本堂から全員出て行った。
それを間近に見せられていた俺にはあんなに憎たらしくてふざけた女どもが、どうして俺と顔つきと雰囲気は似てる暁幸にはこんなに素直に従うんだ?
あれか、なにか麻薬的なモノを注入しているのか?
「……ってわけだ、時間を取らせちまって悪いな。芽愛」
「ううん、いいよ。私は、暁幸がまた楽しそうで何よりだもん」
芽愛も暁幸のことをそう褒めて自分自身も喜んでいる。
暁幸は芽愛の前では少しスカした顔つきも崩れ、嬉しそうだ。
確かに、これならあの女どもよりも何億倍も可愛くて良い女だな。
「あ、じゃあ家まで送るぜ? すまん陽太、ちょっと時間っ」
暁幸がそう俺に告げようとすると芽愛がソレを静止する。
「あ、ううん。大丈夫だよ? 今からセッションするためにスタジオまで行くんでしょ。私はここから家近いし……それにさ、明日も暁幸と会えるんだったら、私も心配はしてないから。ねっ?」
芽愛は暁幸の顔色をうかがうように屈んで首を傾げる。
俺が野次でも飛ばそうとしたらケンと宗介が無言で力づくに止める。
なんだコイツら、今日初めて会話して知り合ったのに組合せ半端ない。
2人は恋人同士のスキンシップをして、芽愛も本堂から出てく。
暁幸はその背中が見えなくなるまで手を小さく振り見送っている。
「うわ~、本当に暁幸君の人気ぶりはすごいねぇ」
ケンも思わず感心して呆気にとられているぞ。
取り巻きの女どもと芽愛とのペーシングが全然違う。
確かにどちらも大切にしてるだろうが、後者の方が初々しい。
俺を拘束していたケンが俺から封じる行為を止め離れる。
宗介からやっと首絞めと手封じから解放され、俺は自由になる。
よし、封印された悪魔並みにアイツをからかってやろうじゃねえか。
「おい、彼女さんはともかく、アイツらは暁幸教の信者かなにかか?」
「はぁっ? プッ――あっはっはっはっはっ! そりゃいいな! 陽太、お前もけっこう笑いのセンスを上げたんだな~っ。だがそんなんじゃあねぇよ。アレは全部"愛"だよ、愛。俺と言う存在の底から沸き上がる愛を知ってくれたから、ああやって付いてくれるんだよ。もちろんっ……女神である芽愛にはその愛と、自由を存分に注いでいるけどなっ?」
からかったのに、暁幸は別に照れもせず真顔で最後まで言い切りやがる。
しかも俺に嫌味を言えるぐらい煌びやかで爽やかに整っている完璧な笑顔で、双眸を決して視線を逸らさずにマジマジと俺を見つめる。
愛やら女神に自由やらを語ってこんなに堂々としてるヤツは見たことがない。
本気で愛を語りきるコイツを見ると、こっちまで照れてしまうぐらいだぞ。
つまり本気で自信があると言ってるのと同じで、悔しいが、コイツは手強い。
「だーっクソッ! こうなったら俺と音楽で、ロックで勝負だっ!」
「はあっ? 勝負だと?」
「ああ、勝負だ! 男なら黙って、受けるよなぁ?」
「ほう……面白ぇ、オッケー! その勝負、受けるぜ!」
勝負という言葉を言った俺は体中のアドレナリンが分泌し熱くなる。
しかし、目の前にいる鬼才のコイツは勝負だってのにスカしてやがる!
クソっ、やっぱりコイツのこういうとこがすごく気に入らない野郎だぜ!
俺と暁幸が見えない火花を散らし火ぶたを切って落としている。
そんな最中、様子を見ていたケンと宗介はお互い見合わし肩をすくめる。
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