80曲目
書き終わりが遅くなりました。
申し訳ありません。
まるで俳優みたいなセリフを言っては場を大いに盛り上げる。
それは全然いいし凄いとも思えるし、何より目立ちたがり屋のコイツらしい。
俺も同じく目立ちたがり屋で負けず嫌いだからそういったとこは勉強になる。
だが、必死に取り繕っては、俺に決めセリフにも似た言葉を出す。
過去の恋バナを暴露した彼女は持ってたハンカチで彼の汗をぬぐう。
なんだろう、確かにいい話で別に笑う要素はないんだが、笑いそうになる。
しかしこれまたロックを愛した女神様とはずいぶん芝居がかったセリフだ。
いや、そういう言葉での表現する仕方はシンガーソングライターでもありオリジナルの作詞作曲に精と熱意を出す俺も嫌いじゃないが、やはり顔がよくルックスもよく楽器の上手さも際立つヤツが言うとなんだか気に入れない。
汗を拭いてくれた芽愛に"サンキュっ"と軽く言い抱き寄せる。
女どもは"いいなーっ"て感じで眺め、宗介は"またか"と呆れて見る。
それを見せられているケンは"わぁ……"と顔を赤らめてまじまじ見る。
俺はというと心の中に浮かんでいる真実がたった1つ。
おい……人前でみさかえなくイチャつくんじゃねえぞ。
「それに、こういう冴えなくて才能のカケラもなく努力で補ってる泥臭いヤツとバンド組むのも新鮮だし、俺のベース技術と宗介のドラム演奏のハンディキャップとして丁度いい。なにより陽太はなにしてくれるかわからないから期待ができるしな。俺は面白くて楽しいことが好きだからな」
暁幸は俺をまたバカにしたような口調で言いニヤニヤする。
うん、やっぱりコイツは気に入らないぜ。
誰が冴えないで泥臭い努力とか、才能のカケラもないだコノヤロー。
自分がまるで才能マンみたいに言うコイツは、やっぱ俺とは似て非なる。
「なあ、ケン。昨日の夜に俺が提案して名前を出したけど、100歩ゆずってドラマーの宗介はいい。だけどベーシストとしてコイツをバンドメンバーに選んだのは間違いだった気がして、ものすごーく後悔をしているんだが。超絶技巧と円相技術は優れているのに、如何せん性格と自慢に難アリって感じで」
「その意見、却下します。まったく……第一、陽ちゃんが言ったでしょ? 男は一度物事ややることを心の中で決めたら、けっして過去には振り返らないんだって。だったらこれも男らしく、振り返らずにあるがままを受け入れるモノなの」
「ぐっ……クソッ!」
「よし、んじゃ決まりってことで。これからよろしくなっ!」
暁幸は収納スツールから立ち上がり、俺に手を伸ばした。
あんなに双子の絆を毛嫌いし、敵対心も未だに持ってる俺にだ。
めんどくさがり屋で団体行動ができないのに、義理堅いヤツだな。
暁幸は渋ってる俺に"ほらっ"と短く答えさらに手を伸ばす。
手を伸ばしてきたってことは、仲間としての握手をしろってことか?
やること成すこと本当にイケメン風でキザッたらしく鼻につくものだ。
だがその行動に向ける感情をガマンして差し出された手を握る。
見た目も曖昧で性格ブスな取り巻きの女どもが、小さく悲鳴を上げた。
まるで最近流行のウイルスにでも触れたようなリアクションだなフ〇ック!
「今までずっとソロで活躍して、1度はセミプロとまで言われるほどのシンガーソングライターになったお前の作るバンドとやら……期待はしていないが少しは楽しませてくれよ? とりあえずお前らの掲げている最終目標となったコンテストとやらまでは一緒にやるぜ。面白きことは良きことなりってな。ただし、少しでもお前らの演奏やバンドの出来がおろそかで嫌になったらすぐやめるからな。オレは縛られているのは好きじゃねえ、何よりも"自由"と"女神"に"俺の奏でるベース"を愛しているんだ」
俺の手を握ったまま、暁幸はまたもやスカした口調で言った。
解釈すれば"俺のベースの上手さにちゃんと付いて来い"ってことだろう。
鼻についた俺は、ヤツの手を握る手にグッと力を込めてニヤリと笑う。
「へぇ~っ、縛られるのが好きじゃねえってわりにはけっこう愛してるのが多いな? まあ、好きにすればいいさ。どうせ生半可な気持ちじゃねえだろうしこれから俺のバンドでリズム隊メンバーとして加入するんだから、中途半端なところじゃやめられねぇぜ。俺はもうその魅力に取り憑かれちまったんだ……バンドってのは日本で、世界で、宇宙で一番ワクワクさせてくれるんだぜっ!」
殺気にも近い決意を込めた笑みで、ごたくを抜かす暁幸を睨みつける。
鬼才を大いに放つコイツには他では負けても、ロックだけは負けるかよ。
しかし俺の自慢できる握力を物ともせず、ましてやキョトンとしている。
「……ふっ」
なにかを察した暁幸はスカした笑みのまま、力の限り強く握った俺の手を、そのさらに上を軽く超すほどの力でグッと握り返してきた。
キザで優男のくせに意外と握力が強いし、今思えば手も大きい。
虫唾が走るほど腹が立ち忌々しい。
だけど、俺はなんだかとても頼りがいがあり嬉しくなった。
これだけの手の大きさと握力はベーシストにとって最大の武器だ。
それに加えてコイツの先天的鬼才による感性も合わせれば、金棒だ。
忌々しいけど頼りになり、虫唾が走るほど嬉しい。
兄と弟との絆も決裂したのに、またこうして顔を合わせ和解する。
そう考えるとなんだか奇妙で不可解なことだが、不思議な感覚だ。
ご愛読まことにありがとうございます!




