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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
Second:Track I’m Truth Sols Rock” N” Roller
78/271

77曲目

バンド活動の兆しが見え始めました。

 蝉の鳴き声と木々の葉のせせらぎが奏でる本堂。

 そこで俺は未だに正座をし、顔を畳に付けたまま上げず必死に頼み込む。

 そんなときケンが暁幸と宗介の方を見ると、陽太の出した提案と誠意を訊いて、芽愛以外の取り巻きの女性たちは『ざまぁみろ!』『マジでダッサっ!』という感じで見下してはお気に召してなかったようで、ロコツにイヤそうな顔つきがさらに雲行きを怪しく覗かせている。


 そのとき、いつもは冷静で爽やかなケンも思わずムッとする。


「ちょ、ちょっとあなたたち。ここまで必死に頼んでいるのにっ」

「待て、ケンって言ったっけか? 大丈夫だ。陽太、お前も顔を上げろ」


 その先を口にしようとしたケンを暁幸が静止し俺にもそう声を掛ける。

 俺はその言葉を聞き畳に付けていたおでこを話して顔を上げるが、肝心の暁幸は未だに考え込むように眉間にしわをよせたままで、どう受け止めたのかよくわからないが、最初に寺の本堂に入って会ったときの軽々しくバカにするような態度ではない感じもさせてた。


「むう、気にかかるなぁ。なぜ、俺たちにそんな提案をしに? 確かに俺も暁幸も元男子軽音部だった手前。キミたちとは面識はあるが、とりたてて、親しくはなかったし……双子である暁幸とキミは全然仲良くなかったじゃないか」


 未だに黙って考え込んでいる暁幸に代わって、向こうの方でライトノベルをしまい、また手元においてある経典などを手に取り読み出そうとしてた宗介がよく通る力強い声で訊いて来た。


「ああ、そうだ。俺たちとアンタらは全然親しくないし、関わり合いもないと思ってた。だけどいざ、今年の夏から本格的にバンドをしようと考えて残りのメンバーを探そうと思ったら、お前ら2人のことがなんかよくわかんないけど真っ先に思い浮かんだんだ。最終目標に掲げてるコンテストに出ようと決めてるし、時間もこく一刻を争う中だし……そしたらもう、2人しか俺のバンドのリズム隊しかいないと思ったんだ」


 根拠もへったくれも無いと言われたらそれまでだ。

 俺の考えはとても突拍子的で行き当たりばったり、計画も荒々しい。

 ましてや狭き門となるコンテストで優勝と掲げたら、そりゃ笑い者だ。


 だけど、もはや根拠とか道理なんて関係ない。

 俺の立ち上げるバンドには、なぜか、コイツらの力が必要だ。

 運命でも、未来に決められた道だとしても、俺はその道筋に賭けたい。


「……はっは、なんだ。結局、思いつきなのかよ」

「ほぅ、それはまた、不思議な話だな」


 2人も俺の言葉を聞いて思わず呆れてしまう。

 暁幸は気さくに笑うように、宗介は目を閉じて考え込むように。

 けれど俺の熱意となる誠意を見てからか、あまり毛嫌いしてない。


「すまん。本当に悪いんだが、俺自身ムチャな話をしてるってわかってるが、どうしてもお前ら2人の腕と心意気を貸してもらいたい。2人にしか頼めない……一世一代の未来を掴み取れる可能性を秘めた、絶好のチャンスを勝ち取るために力を貸してくれっ!」


 俺は自分のポリシーを振るい捨ててまで、力強く頼み込む。

 下げたくない頭も下げ、言いたくない言葉も言い、無様な姿で頼み込む。

 それほどまでに、最終目標であるコンテストに参加して絶対に勝ちたいんだ。


 頭を下げて懇願した後に数秒間経ってから頭を上げると、さっきまで経典に旅館経営のビジネス本やら自分の好きなライトノベルを読んで少し離れた場所から見てた宗介がおもむろに畳から立ちこちらに来ては考え顔で黙り込み、暁幸はまるで自分の弟が言いたくもないであろう呼び名を言ってまでここまで頼み込むことに驚きを隠せないまま俺を見定めようとするように真っすぐ見据えている。

 その真っすぐに映る瞳を、俺も真っすぐ見つめ返した。


「なあ暁幸……いや、兄貴。そりゃ、兄弟の縁を切ろうとしたリする俺なんかは全然信じられないかもしれないけど、音楽に向き合ってロックっていう1つの最高に熱いジャンルを知ってよ。本気でバンドで始めたいってからには、ライブって言うのはさ……なんつうか、こう、俺は何となく生きてるんじゃなくてもっとさ」


 俺がそう卑屈ながらも下手(したて)に出るように口から言葉を連ねる。

 すると暁幸はなにか1つ考えが浮かんだように、曇らせた表情を戻す。


「ああ、お前がそこまでして頼み込むなら、わかった。やってやろう」

「……えっ?」


 俺は思わず呆気にとられ情けない声を出す。

 さっきまではなにやら渋った感じで苦虫を噛み潰したような表情を浮かばせていたにもかかわらず、今あっさりと暁幸が頷きやる意志を魅せてきたので、こちらが拍子抜けしそうな思いだった。


「えっ? 暁幸君。やるって、もしかして陽ちゃんのバンドに入ってくれるの?」


 さっきの取り巻きの女共が俺の熱心な誠意を込めての土下座に向けて、指を差して笑ったりしてたことに文句を言おうとした以外はずっと黙って訊いていたケンが、さすがに身を乗り出して確認する。

 そりゃそうだ、何度頼んでも全然首を縦に振らないだろうから"修行をお願いします"的な弟子が師匠に頼み込むような意思を固めていたのに、こんなにあっさりバンドをやるとオッケーを出すだなんて俺だって全然思ってもみなかった。


「ああ、入るよ。お前らのいうバンドってヤツに。第一、お前らは俺と宗介をバンド加入させるためにわざわざ来たんだろう? だったらいいじゃねえか、入るっつってんだから。それとな陽太、お前から"兄貴"って呼ばれると、体のあちこちがこそばゆくて敵わねぇ。いつも通り"暁幸"って呼べ」


 俺とケンの羨望にも似た眼差しを受けた暁幸は観念したように呟く。

 しかしその言葉の中にはやはりコイツ独特の軽率さが、やはりうかがえた。




ご愛読まことにありがとうございます!

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