76曲目
天下というセリフをしてから、寺にはまたお似合いの静寂が出される。
俺の目的であることを簡潔かつ簡単に説明しようと思ったら、なぜかそんな言い方になってしまったものの、この世に自分より優れたものなどないという思い上がりと言う誤解した意味にも通じる天上天下唯我独尊ならぬ、天上天下唯肆独尊といったとこだ。
我ながらまたもやこの世に新たな名言を生んでしまったが、まあ、伝えたいことはだいたい間違っていないのでよしとする。
現に暁幸と宗介、それに芽愛や取り巻き共も呆然としている。
ふふん、どうやら俺の伝えたい意図をわかってくれたようだな。
「あっくん、あっくんの弟さんとお友達……天下取りたいんだって」
俺の代わりに芽愛がまた暁幸の服の袖を引っ張って聞き出す。
その行為に思わずハッとした暁幸はすぐに芽愛の方へと視線をうながす。
「あ、ああ大丈夫だ。芽愛、言った言葉くらいは理解してっから。はあ、やれやれ……おい、陽太。今なんつった? 天下? ナニそれ、ここは戦国時代でもない平和な日本なんだぞ? なのにお前は某どうやら反乱でも起こして、夢は世界征服とか子供じみた考えでもしてんのか?」
だがまったく伝わらずに、変なもんでも食ったかといった表情を出された。
イカン、ちょっと伝えたい話を端折りすぎたのかもしれない。
仕方がないので、もうちょっと詳しく話すとしよう。
「違う。けど似た様なもんだ。俺はこれから夏休みに入る前から自分の音楽を突き詰めようと志す、0からバンドを始めるつもりなんだ。そこでお前ら2人に、俺のバンドにメンバーとして参加してもらいたいんだ。だから今日、宗介の寺まで訪れたってわけ」
「バンド?」
「おう、最高に熱くて楽しくてカッコいいロックバンド……いいや、ソルズロックバンドを結成するんだ。それで、俺と一緒にロック界の天下を取ろうって算段だ」
サムズアップして熱い笑顔を出した俺は、すかさず状況を説明した。
夏休みに入る前にはバンドを組んでスタジオなどに入っては練習しバンドとして自分たちのオリジナル楽曲を作詞作曲したり個人練習も込めて怒涛の練習を積んだ先、最終目標となる夏休みの終わりにあるコンテストがあることと、そこで優勝してバンドの名を売り出したいということ。
「いいだろ?」
「いや、"いいだろ?"と有無を言わさずに言われてもな……」
俺の問いに宗介が目をつぶり顔をしかめてしまう。
「そりゃ陽太にいちいち説明をされなくたって、俺も宗介もそのコンテストのことは知ってるさ。なんてったって"白神郷"の中でもビックなイベントで夏になれば街中でも学園の中でもその話で盛り上がるし、バンドやら軽音部などに属しているヤツなら有名な話だからな」
「まあ……俺も暁幸から聞いたんだが。小さい頃からずっとソロとして活動している実績や経験などは教え知らされているが、実際に聴いたことはないしソロじゃなくバンドとしての演奏がどのくらいできるかは知らない。そんな中、急造でロックバンドで"バンドマンの狭き門"とも言われているコンテストでいきなり優勝するつもりだとは、また大きく勝負に出たとこだな」
「おお、男はドカンと一発、未来行く末を見定めるよりは結果のわからない勝負に出ることこそ意味があるだろう。為せば成る、成さねばならぬ何事もってやつだ。楽器としての実力を持っているお前らが俺のバンドに力を貸してくれりゃ、俺は優勝も夢じゃないし不可能じゃないとも思ってる」
「ほお、あの熱血でロックバカで人の話もロクに聞かない陽太が、キラってる俺と親友の宗介を褒めるとはな……ま、実力のある俺たちにバンドメンバーとして目をつけたのはすごくいいセンスだし、お前にしては賢明な判断だ」
口にそう呟いた暁幸は黙って考え込む。
どうやらバンド加入とコンテスト出場のことで、迷っているようだ。
やはり目立つことと自分が輝けるイベントに出るのは、こいつも好きなようだ。
まだ答えが出しにくい暁幸に、俺は提案を1つ提示する。
「もちろん、俺のことはキラってるだろうし同じバンドに属しているのも正直無理だって思うのもわかる。だから最悪、夏休み最終日にあるコンテストまででもいいんだ。そっから先はすぐに脱退してもかまわない」
「「…………」」
提案を訊いた2人はまだそれでも口を開かない。
まるで俺とケンの本気度を見定めているような感覚だ。
俺は心の中で舌打ちが出てしまったが、ここで意を決した。
本堂の畳に正座し手を前に置き、自分のおでこを畳に付けた。
ここまで頑なにうんと言わないなら、仕方なく、誠意を見せるしか無い。
そんな唐突に出した行為を思わず暁幸の周りにいる取り巻きの女共に彼氏であるヤツの近くに寄りそう芽愛は目を丸くして絶句し、俺の隣にいるケンも"ちょっ!?"と短く悲鳴のような叫びを上げ、バンドメンバー加入を告げられた暁幸も少し離れたとこで見る宗介も"なっ!?"と驚きの声を上げるのも当然の結果だ。
もう絶対に折れたくないと願う俺が、土下座して頼み込む。
「頼むっ! 俺はどうしてもそのコンテストにバンドで出場して、優勝を掴み取りたいんだ。次は無い、たとえ来年もそのコンテストがあったって、それじゃもう遅いんだ。今しかない絶好のチャンスを逃したくない! だからお願いだ。そのために、どうしても2人の力が必要なんだよ。その実力を俺のバンドに貸してくれ! ――頼む、兄貴っ!」
その呼び名をしたのはいったい何年振りだろうか……。
俺から出された怒号にも近い、けど必死な懇願が本堂に響き渡る。
ご愛読まことにありがとうございます!




