75曲目
可愛い天使と悪魔の間に生まれた様な女からの上目遣い。
間近で見た暁幸も頬を赤らめるが、すぐに訝し気な顔色を出す。
そして少しだけ考え込み、数秒後、折れてくれたようだ。
「ああ、芽愛がそういうなら仕方ねぇな……んで?」
「俺たちのここに来た目的を聞いてもしかしたらお前は、そういう目的も目標も夢も全然無くて、その子や女共に持ち合わせた鬼才を十二分に使った超絶技巧こみの即興ベースプレイを聴かせて楽しむのが好きなだけで、俺らの目指してる目的にはまったく興味を持ってもらえないかもしれないが……」
「ちょ、ちょっと陽ちゃん! それ人にものを頼む態度じゃないって……」
俺の問いに思わずケンが慌てて口をはさみ俺の服を引く。
しかし俺は全然構わないし、なぜか暁幸も平然としている。
悔しいけど、そういったところは兄弟そっくりなんだなと思える。
「いや、俺は俺の言い分を変えない。それにこれは大事なことなんだ。その芽愛って子や取り巻きの女共にだけお前の天賦の才にも近い鬼才を腐りきらせてるベースの音を聴かせるだけで満足しているようなつまらないヤツらだったら、俺は用は無いしな。満足してるってんなら金輪際お前と関わるのは止めるつもりだ」
「もう、またそんなおかしなこと言って。それに実の双子なのに、いきなりそんな絶縁の約束まですることないでしょ~? 第一、僕らにはもう時間が無いんだからさ。もう少し穏便に話し合いで解決しないと」
静かなる山の如しとも言える寺の中で異常的な光景で彩られる
いきなりムチャクチャを言う俺とそれをなだめ落ち着かせるケン。
それを見ていた暁幸は肩をすくめ、やれやれといった様子である。
「ははっ、勝手にこっちの電話番号を消してしかも自分は携帯アドレスも電話番号も変えてたヤツが? いきなりなんだ、今度はお前との縁を絶対に切るとかそういう話かよ? ま、俺もあんときは悪いとこはあったかもしれんが、お前の方も十分悪いんじゃねえの?」
「な、なんだとテメェ!?」
俺が暁幸のバカにする対応に腹が立ち鬼の形相で睨み話に噛み付く。
しかしそれとは正反対に暁幸は愛想笑いを浮かべながら冷静に対処する。
「まぁ待て、そう熱くなんな。ここは大人の対応としてもっと冷静になろうぜ? 俺たちは双子の兄弟なんだ、もう少し仲良くしようやっ……あーちなみに、お前の言った問いの答えなんだが。たしかに俺は鐘撞学園や他の学校の女の子たち、それに俺にとって大事な彼女『操芽愛』に俺が奏でるベースの低音を聴かせるのは大好きだ。それに俺の親友であり相棒の宗介のドラムと一緒に双奏するのも楽しいけど、それが一体どうかしたのか?」
「おう、話がさっぱりわからないし何より唐突に怒鳴られたり意味のわからないことを告げられてもこちらの対処も遅く生じてしまうぞ。だからもう少し簡潔にまとめて、こっちがわかるように説明をしてくれないか? 君の話はその目的となる単語を圧縮言語すらしないで本題に入っていないからな」
静かな本堂と蝉の鳴き声とマッチする落ちついた声で宗介が言った。
暁幸の袖をつかむ芽愛もだまり、取り巻きの女共はざわざわざとし始める。
例の2人は目を閉じて俺らの言葉を待つかのようにただ黙りこくっている。
「あの、実は今日ここにお邪魔させてもらったことはですね……」
「いや、待てケン。それは俺の口から言わないといけない。任せろ」
この妙に落ち着けない雰囲気におどおどし、焦れて本題を話し出そうとするケンを制してから、俺はまた一歩前に出てヤツらと対峙する。
取り巻きの女共は忌み嫌うように俺を睨み、芽愛という子はキョトンと見る。
別にそんな何ともなく、屁の突っ張りにもならない視線はどこ吹く風だぜ。
バンドの逸材となる暁幸と宗介を、きつく睨みつけるように見据える。
ここでポカしたら色々とめんどうになるだろうな。
だったらここはインパクトかつエモーショナルな伝え方がいいか。
しかし、どうする? なにかいい伝え方が無いだろうか……。
熱意で背中を押された俺は前に出て意気込んだはいいが、僅かに考え込む。
色んな人から視線が集まる中、数秒後、石像みたく考え込んだ俺は口を開く。
「あー、まあ俺は頭悪いしあんまし丁寧な説明はできねえから、なんとか簡潔にまとめた。簡単に言うとだな……ベースを弾ける暁幸とドラムを叩ける宗介のリズム隊コンビとしてじゃなく、人よりも1つ飛び抜けた才のあるお前らは、俺たちと天下を取る気はないかってことだ!」
心の中で"これだっ!"と思えた見せ場で俺は動く。
寺の天井向かって高く右手を突き上げ、人差し指でその先にあるであろう空に向かって差し、左手を腰辺りに置いてビシッと決めたソレはまるで……世界を代表するアメリカ合衆国出身で世界から『時代に合った王者』とも評された世界的一流のエンターティナーが大きなダンスステージで『〇ゥ!』とか言いそうなポーズを取って高らかに宣言した。
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