72曲目
考えたら即行動。
次の日、季節はもう夏にもなって実に清々しく気持ちのいい日が舞い込んだ。
そんな日差しの強い太陽が空から覗きギターのケースを背負った俺たちは、ケンの言う団体行動ができず意志を曲げない社会符適合者をバンドメンバーとして誘うために、眠くなる授業で思いっきり寝ていつの間にかなった放課後その目的地に訪れた。
そこは"白神郷"の住宅地の中にある大きくて年季の入ったお寺。
寺の近くには別々であるがこのお寺のお母さんが経営する旅館がある。
茂った樹木に囲まれた境内に足を踏み入れると、四方八方から蝉の鳴き声が降ってきて、もし夕方だったらひぐらしが大いに歌を奏でてくれるだろうと何気なく思える一種の大自然だ。
真夏だからこそ奏でられる音の滝水。
こいつを"蝉時雨"とはよく言ったものだ。
そういう言葉をパッと思いつく人は、本当に良いセンスをしている。
音楽と楽器にしか興味が無ければ訪れた時間も全て作詞作曲と路上ライブなどで送る日々を暮らして、修行とか堅っ苦しそうなイメージしか抱かない寺になんて俺は今まで全然興味も考えもしなかったが、住宅地にあるここはなぜか見て訪れただけで一発でお気に入りになってしまったのだ。
なぜ俺たちがこんな寺に訪れているのか。
もちろんこれから組むバンドメンバーを誘うためだ。
しかし場違い感MAXで、思わず俺は疑い深くなってしまう。
「だけど、本当にここなのか? 音楽とかけ離れすぎだろ」
俺は思わず口に出してしまう。
見た通り疑問しか浮かばなかったからだ。
「さっき同じクラスの子に訊いたら"そうだ"って言ってたんだけど……」
隣を歩くケンもさすがに困惑気味に言う。
まあ、そうだよな、だってお寺に来てんだから。
楽器店とかスタジオとかなら話はわかるが、お寺だぞ?
俺たち別に煩悩退散するために出家しに来たんじゃないんだぞ?
俺たちは時間が無いため、考えたことを速く行動に移した。
それで訪れた先が年季の入って過ごしやすいお寺ときたもんだ。
ことわざで確か、滑り道とお経は早い方がいいって言葉があったな。
もしかして速動とお寺を掛けた謎かけなのだろうか、なるほど上手い。
俺はどっちかっていうと"鉄は熱いうちに打て"の方がニュアンスが好きだ。
まあ、今はそんなことはどうでもよくて重要なことじゃない。
俺たちは直接相手の連絡先を知ることはできなかった。
俺の知っている『すげー楽器と歌が上手いけどヤベーヤツ』とは、"縁を切る"という意味で履歴もアドレスも衝動に任せて思わず消しちまって、さらに携帯アドレスと電話番号も変えてしまったため連絡手段を意図的に消してしまったんだ。
俺は1度、ケンと共に久しぶりにお袋のもとへ出向いた。
そこでヤツの行方を訊いたのだが、学校が終わるとすぐに友達と街に出向いたりどこかへ遊びに行ったりしてしまうらしく、しかも遊びに行く際必ず"陽太とその友達には居所を絶対に教えないでくれ"と念入りに釘を刺されてしまって、もはや知る手段が無くなり手持ち無沙汰状態だったのだ。
目的である相手の2人と同じクラスの人間に俺が最初聞こうとしたんだが思いっきり目を細めては口を噤んでしまったため、誰に対しても優しく心を開ける程度の能力を持つケンが尋ねたら、この寺によくいるという情報を掴んだのだ。
別に俺の忌み嫌い知っている『マジで楽器と歌が上手いけど超ヤベーヤツ』が寺の息子だとか旅館の息子だというわけではなくて、『ヤベー楽器と歌が上手いけどすげーヤツ』といつも一緒につるんでいる親友というのが、住職である夫の寺と妻が女将として経営している旅館の息子の実家だという、実家で出家してんのか。
いつもは街に出向いてはハンバーガーショップに行ったりゲームセンターに行ったり、そして楽器スタジオなどでリズム隊の双奏をしているらしいが、暇を持て余して行くとこも遊ぶとこも無いときはたいてい親友であるヤツの寺に入り浸っては楽器を弾いて叩いているらしい。
「陽ちゃんは知ってると思うんだけど、あの2人、最初は全然話をしなかったらしいんだけど"とあるゲーム"を陽ちゃんが忌み嫌っている人がオススメしたら話が盛り上がったらしくてね。そのまま意気投合して親友になったんだって。クラスでも一番目立っててハチャメチャな2人組なんだってさ」
「へー、じゃあ俺とケンみたいな感じなんだな。俺らは実質幼馴染みっていう衝撃的事実を受けたけど、アイツらは趣味から派生した親友同士ってことか……つーか俺、あの2人が親友になった理由今初めて聞かされたぞ?」
「えっ? 陽ちゃん知らないの?」
「ああ、知らん」
ケンはものすごく呆れた様子で俺を見る。
なんも才能も無く泥臭い努力をしないとなんにも掴めなかった俺とは違い、アイツはまったく知らないことやできないことでもそつなくこなして自分のモノにしちまえる一種の鬼才だった。
俺が始めた音楽もすぐに興味を持ち、俺と同じ楽器であるギターをやるのは俺のポリシーに反するとか言い放って同じ弦楽器だけど違う楽器を初めて、数日もかからずに俺よりも上手くなったし、洋楽邦楽関係なしに1度何気なく聴いただけでもすぐにフレーズを完璧に再現しましてやその楽曲に合ったアレンジまで施してしまうほどの腕と感性を持ってる。
その鬼才をアイツは棚に上げて、回りの人間を軽く見ていた。
だから俺はアイツのことがキライだったし、アイツも俺を忌み嫌う。
しかし、今ケンが言った言葉を聞いて少し親近感を覚えた。
実質最初っから親近感はあるはずだが、俺はアイツと距離も疎外感も感じてた。
だがよくよく考えてみれば、同じ釜の飯を食う仲であるはずなのにそんな基本的なことも知らないほど、俺は鬼才だけ大盤振る舞いするアイツのことを知らなかったし親友であるソイツのことも知らないわけだ。
俺は自分で考えたのにかかわらず、思わず苦笑する。
よくそんな連中を初となるバンドのメンバーに上げては誘う気になったものだと、忌み嫌って話もしたくなければ近づきたくもないと思うのに会おうと思ったものだなと、我ながら訝し気に思う。
しかも気に食わないし話も合わないし協調性も無いヤツなのにさ。
自分でもまったくわからない。
アイツらを誘う意図も、これから先の未来の行く末も見えない。
だけど、限りない真夏と夏休みのバンド活動には、アイツらの力が必要だ。
顔を合わせればすぐ忌み嫌って互いに暴論を吐き出す、陰と陽の関係。
だというのに、運命に定められたメンバーのように、惹かれ合ってしまうのだ。
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