70曲目
おお、なんだかメチャクチャ燃えて来たぜーっ!
定まった目標と、これからバンドをしてく快感に思わず体が震える。
体のすみずみまで流れる血が沸騰し、逆流せんばかりに爆発しそうだ。
「俺にとって、これ以上ないリベンジとエヴォリューションなイベントだぜ」
俺は振り返るとケンに向かって右手を出し、サムズアップする。
「うん、そうだね。陽ちゃんがいきなりカレンダーの紙をとってはマジックでなに書くんだろうな、って思ってたけどそのためのスケジュール表だったんだね。最終目標はイベントでか~っ。んーだけど、本当に大丈夫かなぁ……?」
ポジティブな俺とは裏腹にネガティブなことを考えるケン。
まあ、心配性で気の弱いケンが心配するのも無理はない。
これからの夏休みにやる行動も練習量も最終目標もきっかり決めたはいいけれど、まだ俺とケン以外には参加するメンバーもいないし足りないし、"バンドでこれから活動する"と宣言するはいいモノのその"バンド"がまず無いのである。
大海原を出航したのにいきなり手痛い壁にぶつかり、停滞を強いられる。
今のとこバンド活動で確定しているメンバーは、俺とケンのみだ。
バンドのパートと言えば、メインヴォーカル&ギターとサイドギターの2人ということで、演奏するにあたって肝心のリズム隊がいない。
バンドをやるなら最低でもあとベースとドラムが欲しい。
ギターとボーカルがいてできるのと言えば最低限でも弾き語り形式だ。
今迄路上ライブ経験の長い俺は自分の歌声とアコギ1本のみで音楽活動も作詞作曲も普通にできていたし、アコースティックギター2本だけでも演奏としては成り立てる。
けれど、それじゃ意味が無い。
いや、意味はあるかもしれないが、俺たちの今やりたい音楽とはまた違う。
新たな目標と夢を立てた再動の人生を送るなら、やはりバンドを組みたい。
「俺もケンも鐘撞男子軽音部でのバンド活動しかやれてなかったし、もちろんバンドとしての知識も心得も少ない。そんな0からバンドをやっていくなら最低でもボーカルとギター、そんでベースとドラムは必要だよな。ボーカルは1人でも2人でも良いし、ギターもバッキングとソロで2本あってもいい。出来ればキーボードも欲しいところだが、二時世代音芸部みたいにロックだけどポップな感じがあるならともかく、基本的にはロックンロールを主体にしてバンド活動する俺たちで考えるなら別にそれはいいかな」
「いいの? 確か"Sum41"にもキーボードあったよね」
ケンが付け足すように言う。
確かに、本心で言えばキーボードも欲しい。
だけど今は、リズム隊となるベースとドラムが肝心だ。
「いや、好きなモノの先に超えるのが新たな音楽を創り出すんだ。今はリズム隊となるベースとドラムだ。ケンもけっこう歌は上手いがお前は引っ込み思案だし、できればベースは俺と同じく歌も歌えるヴォーカル&ベースなら尚更いい」
「そっか、うんそうだね」
俺の意見を聞いたケンは否定することなく爽やかな笑顔で頷く。
「とにかく、すでに迫っている夏休みに突入する前にはバンドメンバーを揃えたい。最終目標となるライブイベントの前にはバンドで1、2度ライブハウスで演奏して、ソロとは違う演奏と意思疎通にライブでの魅せ方とかを勉強して早めに感覚を掴んでおきたいからな。そんで最終目標で行われるイベントで、俺たちの生まれ変わってる演奏で思いっきりエクスプロージョンっ! ってわけだ」
俺はそう言葉にしては最後に両手を命一杯広げてジェスチャーする。
確かに俺自身でやるステージ感覚や魅せ方は経験済みだし心得ている。
しかし、それは俺個人として、シンガーソングライターとしてでだ。
現に俺がソロとして活動してたような演奏や魅せ方は、今回の鐘撞大祭で手痛く思い知らされたし、いち音楽の探究者であり熱狂者としてはあの失態は勉強になったことだ。
もちろんオリジナル楽曲の作詞作曲は大体の感覚で言うと俺が作ってケンが視て聴いて手直ししたりすればいいが、俺たちのバンドとして演奏するステージ経験のなさは、明らかに致命的となる痛手だ。
俺は腕を組んで顔をしかめながら、少し考える。
夏休みの最終目標と今後の活動による方針も定まって事は一刻を争うが、男子軽音部の人間を0から創り出そうとする俺のバンドに誘う気にはなれなかった。
確かに鐘撞大祭でのライブをし終わった後には色々と褒めてくれたり(厳密には慰められたり)して好感はあっただろうが、基本的に俺は部活動にはあまり顔を出さないし自分の音楽理論を怒涛の口狂で言い放ってたから嫌われているし、中には気がよく音楽のことでも熱心に語れる人はいるけどいざ自分のバンドを立ち上げて一緒に組むとなると、肌合いの違いがものすごく目立つし気になる。
俺が未だに答えが出ずに考え込んでいると、ケンが意見を出す。
停滞まっしぐらな道筋に、さらなる停滞さを知らせる解答だった。
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