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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
7/271

6曲目

「な、なんなんだよコレ……っ?」


 目的地に着いて流されるまま案内させられた場所に入ってから、目の前で突拍子も無しに繰り広げられた光景に、俺の脳みそは受け入れずにただただ困惑してしまい彼らの中にある人間の本心に異議を申し立ててしまう。

 嘘だ。その言葉がグルグルと脳裏に走り回る。


 ただただ俺は自分の両目に映る光景を疑った。

 今の状況を疑わずにいられないし、本心を裏切られた。

 信頼していたのに、谷底へと蹴落とす様に見限られた。


 田所先輩が、いきなり両隣にいた女の胸をまさぐり乱暴に揉んでいる。

 俺が見ているってのに、関係無しと言いたげにネグリジェ上から胸の谷間が露出してる乳房を(まさぐ)ってだ。

 女共の方も目的地に着いてから着込んでいた服を着替えて、なにやら妖艶な雰囲気が漂う姿で田所先輩に身も心も委ねるように妖艶な淫声を話して求めている。


 目的地に着いた時は『楽器店』でもないし『スタジオ』でもないとこに連れてこられて疑問を抱いていたが、しばらくは女三人にせがまれ田所先輩が持っていた"FENDER"のストラトキャスターを借りてコードとか練習しているフレーズとかを弾いてたりしていたのだが、いつのまにか怪しくそれでいて淫らな感じを漂わせる雰囲気になって、今こうして女共は裸に近い服装に身をまとっては夜の付き合いによる粘着性のありそうな絡み合いをはじめやがった。


 もう一度俺は心の中で問う。

 なんなんだコレは? と。

 俺の思考回路がショートし、もうわけがわからない。


 ここがどこかと言うと、全く音楽とは関係が無い場所。

 そしてカップルや不倫関係がよく訪れるラブホテルというところだ。

 通称でラブホ、男と女の二人が夜の営みする場所を提供する場所だ。

 いや、別に通称で言い直すまででもないことなのだが……。


 嘘だろ。なんだか頭が働かずに体が硬直してしまった。

 突然異次元にでも飛ばされて右も左もわからず迷い込んだみたいだ。

 ライトノベルとかの異世界召喚とか転生とかのジャンルにも匹敵しそうだ。


 いや落ち着け俺、というかなんで俺はこんな変で怪しいとこにいる?

 こんなところ、音楽バカで後先考えない俺とは無縁の場所だったはずだ。

 俺はただバンドのイロハを教えてもらうためにきただけなのに、なんでだ?


『こういう人目に付かない場所、けっこう打ち合わせや練習にも使うんだぜ』


 そんな田所先輩が吐いた言葉を疑いこそしたものの信じて鵜呑みにしてしまい、のこのことついて来た俺が心底バカだった。

 もし数分前の俺がその場にいたらぶん殴っているところだ。


「おいおい、なに入り口で突っ立ってんだ? 早くお前もそっちでやれよ」


 両隣で発情期に入った動物の様に盛っている女共の胸を揉んだり顔をうずめたりしながら、田所先輩が悪役に匹敵するほどの不気味で気味の悪いにやけた笑い顔で俺をうながす。

 胸を良い様に弄ばれている女共も、ニヤニヤと固まってる俺を見ていやがる。

 ちくしょう……俺はこんなことをしに着いて来たんじゃねえんだぞ!?


「ねぇ~、君も早く脱ぎ脱ぎしましょうよぉ~っ」


 俺が心の底で悪態を吐いていると股間に妙な感触がするなとも思って見てみると、俺に絡みついてこれまた妙になめなめしく吐息混じりに喋る女の1人が、ジーパン越しにある俺の股間に手を伸ばしていた。


「な、なにしやがんだ!? やめろゴラッ!」


 焦ってしまい慌てて女が伸ばした手を払いのける。

 そして俺はその女に凄みを効かせた睨みと形相を向ける。

 だが、女の方はますますにやけた笑みを浮かべて懲りてない様子だ。


「あはっ、恥ずかしいんだ~っ? うわー、か~わ~い~い~!」


 女は猫なで声と呼ばれる声色でイヤミったらしく言ってくる。

 何だコレ、心底ウザくて敵わないんですけど?

 他所を見れば魅力で魅惑的な笑顔かもしれないが、事情を知らされず信頼を裏切られた今の俺には異星人のように得体の知れない者が奇妙な眼差しを向けて嗤っているようにしか見えない。


「なんなんだよおまえらはよ? 俺はただ音楽のことで話が……」


 俺はそこまで言い掛けて、無駄だと悟る。

 そりゃそうだ、どうして俺の前で、平気で女の胸を揉みしだき乳首をしゃぶったりし女の方も嬉しそうに揉まれたりして身を委ねているんだ?

 どうして話したこともない初対面の男の股間を平気で触ってくるんだ?

 大きくなった胸を腕に、脇腹に、肩に押し付けて誘惑をしてくるんだ?

 いったいお前らの中にある思考も神経もどうなっていやがんだよおい!


「さっきからやんややんや言ってるがどうしたんだよ陽太~っ? ……あ、ああそうか。もしかしてお前、こういうのが……は・じ・め・て、だったりするのか。ええっ? うえええええっ! そりゃすげぇ、そんな厳つい風貌しているのに以外にもピュアだったんだね~っ。うっははははははっ!」


 田所先輩はすごくお楽しみの最中で俺に向けてバカにする様に言う。

 バカにする口調が鼻につく言葉の中で『はじめて』のところに、変なイントネーションをつけて鼻を伸ばした顔で(言われたように俺には聞こえた)田所先輩が言うと、女たちが黄色い声を上げて大いに笑いやがった。

 ものすごくバカにされているみたいで俺はムカついた。

 その減らず口とニヤケ面を思いっきりグーでぶん殴ってやりたい。


「べ、別に。ないことはないっすけど……それとこれとは話が」


 俺は否定してから次第に小さい声でそう呟く。

 もちろん言われた通り『はじめて』なのだが、俺の中に蠢いているケチな漢のプライドがへそを曲げてしまい正直に言わせてくれない。

 テキトーかつ曖昧そうに難を逃れることにした。

 だが、それでも田所先輩と女三人は、今だにニヤニヤと笑っていやがる。

 俺が咄嗟に思いついた偽りなんか全部まるっとお見通しって面構えだ。

 だー面白くねぇ、クソッタレ、〇ァッ〇!


 俺の吐いた嘘も見破って身も心もあったかい気持ちで人を小馬鹿にしてニヤニヤしているお前らも、生まれたてのひよこみたいに着いて来てホテルに来たことも無いのに今が初めて訪れたレッテルを張られた俺も全員クソッタレな馬鹿野郎だ!


「ね~え~っ。そんなに純粋無垢な感じで恥ずかしがらなくてもいいからさぁ……ああいう行為をするのがはじめてなら、今からあたしが手取り足取り、腰取りア〇コ取りでみっちり教えてあげるからさぁ」


 気味が悪い――まさにそれだ。

 隣で密着している女が、いやらしい手つきと喋り方で俺の体を身心撫で回す。

 その瞬間、ホラー的ヤバいなにかを見た様にゾッとして全身に鳥肌が立った。

 ここまで見事な鳥肌スタンディングオベーションは今まで何回あっただろうか?


 …………。

 いや、そういう意味でゾッとしたわけではない。

 不覚にも、女の慣れた淫乱的行動にゾクゾクしてしまったのだ。

 ただ服越しから触れられただけなのに、俺は術中にハマり感じてしまっている。


 俺はその場から一歩も動けない。

 行くも引くも、情けないことに全く足が動かないのだ。

 頭の中ではわかっているのに、体の神経が言うことを聞かない。

 動け、さっさと動けよ、このポンコツ足共がよぉ!


「ははっ、なんだよお前? もしかしてビビってんのか? 情けねぇぞ」


 ネグリジェや胸開きタートルネックに身を包んだ二人の女をはべらせて、人生のクズとしてお楽しみに(いそ)しんでいる田所先輩がニヤけながら煽る様に言って、はべらされている二人の女がまた盛大に笑った。

 何言ってんだ、誰がこんなことで一々ビビるかっての。


 理由は至ってシンプルで簡単だ。

 俺にはそういうことをしたくない、断固たる理由がある。

 だからこいつらがどんなに淫乱的なことをしても手を出したくない。

 それはその理由の元になっている者に対して、裏切る行為になるからだ。


 うし、ここは一発漢としてカッコよく言い放ってやる。


「俺、心の底から惚れちまった好きな子がいますから」


 結構鍛え上げられた胸を張って、俺は言い放つ。

 妙に変な力が入りすぎて、少し声が震え気味になってしまった。

 それでも俺の顔色は全く変えずに、言い放ってやったと見せつける。

 クソッ、なんで声が震えちまったんだよカッコワリィ……。


 だが田所先輩も女三人も、こぞって俺の言った言葉の真意が読み取れずに意味がわからないと表したかの様にその場で仕草が止まり(ほう)けている。

 しばしの静寂から、田所先輩がキョトンとした表情のまま動き出す。


「はぁっ? 好きな女がいるって、だからどうしたんだよそれが?」

「だからどうしたんだよって……いや、わかるだろ普通」


 俺は先輩後輩の間柄なのにも拘らず思わずタメ口になってしまう。

 だって自分にとって大事で好きな女がいたら、普通、別に興味も無ければ好きでもない女とは一線を越えてはいけないそういった行為をしないもんじゃないのか?

 そういうつもりで言い放ったのに、目の前で半裸やら裸よりもいやらしい姿になって、見方によっては生まれたての状態で盛っている連中にはその真意が伝わらなかったらしい。

 というか、心底バカにしたみたいに俺を見下していやがる。

 ああ、こいつらは人間になり切ってない猿同然なんだな……。


「お前、本当にバカだよなぁ~っ? そんなこと一々大事にして考えずに、気にすんなよな。こんなのどうせ今夜一晩限りの関係なんだからさ。楽しまないのは阿保がすることだし、人生の半分以上を損することになるんだぞ? お前それでいいのかよ。おい?」

「は……。ひ、一晩だけって、なんだよそれ?」


 今度は俺が呆けて見下す番だ。

 マジで今の言葉は聞き捨てならない。

 一晩だけの関係ってなんだよ、一晩だけって?

 俺の中で蠢く怒りがひしひしと燃え滾り、有頂天になりそうだ。


「いいか陽太。こういうのは朝までじっくりねっとりと好き放題やってりゃそれで十分なんだよ。できるできないとか、デカいちっちゃいとか、不倫だなんだとかのめんどうなことにはならないってこの道長い俺が保証してやる。後腐れなんてないんだからさ、お前もお楽しみにしっぽりしてけよ」

「そうだよ~っ? 巡り巡って出会えた今日だからこそ、今夜一晩だけ、私も君も包み隠さず絡み合ってさ。お互い後腐れが無く朝まで楽しめばいいじゃない」

「そうよ。アナタもこういう行為がはじめてなら、その心底好きだって言う彼女といざするとき困るじゃない? だから、今日はその予行練習だと思えばいいんじゃない? アタシがちゃ~んと教えてあげるからぁ」

「そうそう、目の前に魅惑で美味しい果実があったら食べるでしょ~っ?」


 田所先輩も姦しい女三人もこういったイケない行為を楽しむことがいいと意見を変えずに、俺の近くで密着し耳元に息を吹きかけてから舌なめずりしそうな下品で不快に思える顔つきで俺の顔を覗き込んでいた。

 その瞬間俺の背中にある産毛が、ゾクゾクっと総毛立つ。

 女の目は俺の顔から今度は俺の股間にシフトチェンジし見ていた。

 そこにはもう、雰囲気の空気に毒されて大きく山が形成されていた。

 桃色チックな雰囲気に身を包まれた自分じゃもはやどうにもできない元気ハツラツなそいつが、心底情けなく歯と歯を噛みしめるほどに悔しかった。


「よせ、止めろ近寄るな、離れろ汚く澱んだ目で俺を見るな。さっきも言っただろ、俺には心底惚れて好きな女がいるんだって。お前ら耳ちゃんと付いてるなら理解しろよな」


 わからない女目がけて、再度歯と歯を食いしばってもう一度そう告げる。

 傍の女は呆けて、田所先輩はわかったふうな顔でいやしくニヤリと笑いかける。


「踏ん切りがつかない奴だな~っ。まさかお前、その心底惚れて好きな彼女に自分のはじめてを捧げるとか息巻いて操立てているのか? うわ~っ、引くわ。やめろよなそういう古臭い心情はよぉ」

「はっ? そういう古臭い心情ってなんすか? 意味わかんないんすけど」

「お前、マジで言ってんの? ……だったら言ってやるよ。仮にもこれからバンドを組んでライブ活動を志そうとしている者が、社会的概念とかあれはダメこれはダメっていう感じの? どこの誰かもわからない馬の骨同然の人間が作ったつまらない枠に囚われて意固地になっててどうすんだよ? そういうクソ下らねえ概念そのものを道理すらぶっ飛ばしてぶち壊すのが、バンドをし音楽界を背負って立つ俺らのするべき真実だろ?」


 田所先輩はそう言うと隣にいる女の胸にまた顔を埋めてく。

 甲高い声で嬉しそうに、嫌な気一つもなく女は甘えさせる。

 その隣にいる女も羨ましそうに田所先輩を覗き込んでいる。

 十分甘えてからもう一度女の胸から顔を上げて俺を見やがる。

 なんだアレ? 心底うっとうしくて仕方がないんだが……。


「はぁ~っ、やっぱ良いぜぇ……なあ陽太。お前だって、そういうつまらない(しがらみ)に拘束されて抑えきれない熱意と衝動。それ湧き上がる夢に頭じゃなく心が突き動かされて、でもなにをすればいいのか全くわからなくて、バンド経験でも先輩でもある俺のとこにわざわざ足を運んで相談しに来たんじゃねえのかよ?」

「俺は……俺はなあ……っ!」


 俺は思わず口ごもってしまう。

 なにか言ってやろうと考えていたのに、言葉が喉から出ず飲み込んでしまう。

 どんなに考え込んで探してみても、一向に、いい結果が生み出されなかった。

 この、今俺の中でマグマの様にグツグツと温度を上げて煮え滾り渦巻いている感情を、今の状況で保湧現してやれる言葉が全く見つからなかった。

 悔しい、俺はこんなとこでも惨めで無力なのかと自己嫌悪する。


 抑えきれない熱意と衝動。

 そして湧き上がる夢、か。

 田所先輩の言った衝動と言う正体ってのが、きっとこれなんだろう。

 決して言葉にできずに蠢くコイツを、俺はなんとかできると思ったんだ。

 言葉をべらべらと並べず、拳や脚で語らず、凡人でも努力して叶う、と。


 俺に"夢"を与えてくれた音楽なら、心を突き動かされたロックなら……。

 あの時、たった一人の観客に夢と希望を与えてやれた、俺の歌とギターなら。

 街の中で路上ライブをして誰一人立ち止まることなく軽蔑の目で見られながらも、手を引く母親と共に近寄ってくれた、耳の聞こえないあの子に歌と音色を届けられた奇跡を引き出せれるギターボーカルだったら……なにかが変わると、囁いてきやがるんだ。


「ほらほらっ、早くこっち来いよ。悩ましい疑問も吹っ飛ばしてやっからよ!」


 田所先輩の自信に満ち溢れ咲き誇る"ダリアの華束"の如き笑顔で俺を呼ぶ。


「俺にとって同じ趣味と目標を持ち、かわいい後輩のお前にだからこそ教えてやるんだ。世の中、歯車が上手く噛み合って回っているようでお前の知らないうまい話なんてよぉ。蓋を開ければいくらでも見つけられるんだぜぇ~っ? そんなもの、一生気づけずに知らないままでのうのうと暮らしてくバカなヤツらの方が圧倒的に多いんだ。だが、真相を知っている俺たちはそうじゃない」


 田所先輩は「ちっちっち」と舌打ちするように舌を跳ねて言葉を連鎖させる。

 女共はこれから彼が言う言葉を興味津々で物欲しそうに静かに笑い待っている。


「陽太、俺が今だに踏ん切りが切れずに悶々しているお前に絶好のチャンスを与えてやる。お前の心の底に蠢いて、鎖でがんじがらめにしている『既成概念』とか『柵に縛られた思い』も全て吐き出して思いっきりぶっ飛ばして壊してやれ。いいか? 地球だってそうだ。すべては創造からじゃない、破壊から生まれるんだぜ?」

「うわぉ! 超カッコいい! さすがカジクン、男らしくて渋い~っ!」

「そうだろそうだろ~っ? 陽太もそんなに縮こまって怖がるなって。ガキがはじめて自転車に乗る時、電車に乗る時、遠出をする時と同じだよ。何事も経験を積まないと成長はしないんだ。いいか……プロデビューしたいならこう肝に銘じとけ。【I:Love:リカー&ドラッグ&ロマンティックラバーセッ〇ス=ロックンロール】……ってなっ? ぎゃはははははははっ!」


 田所先輩はまるでネグリジェの女を楽器の様に撫でて唄うように呟く。

 端から見てりゃ、ナルシスト染みて自分に酔っているのだと一目瞭然だ。

 あれでカッコイイだとか、イカしてるだとか、マジで頭湧いてんじゃね?

 わかってないのは頭がアッパラパーになっている本人たちだけだ。

 彼の言う信条にどこに音楽の最高潮となる部分があるのだ、わけがわからん。


 なぁ俺、お前は本当に、ここにいったいなにしに来たんだ?

 なんでこんなバカに成り下がったやつの話を鵜呑みにしちまったんだ?

 こんなとこまでのこのこと着いて来た自分を、心底嫌い情けなく悔いた。

 例えることができずなんとも言えない感情が痺れを切らしグツグツと煮え滾り、もはや自分では歯止めが聞かずにどうしようもなかった。


 辛い、苦しい、それでいて本当に哀しくなる。

 そして俺の中に見え隠れしていた正体が現れる。


 紛れもなく、それは怒涛の怒りだ。

 憎悪にも似た激動の怒りそのものだ。

 とにかくこんなことを見せられ言われたことに、すごく腹正しい。

 しかしなにが腹立たしいのか、どうしてなのかの本質はわからない。


 俺はまだ意識がある意志でその理由を探してみる。

 のこのこここまで着いて来た愚かすぎる自分のバカさ加減か。

 野生のサルみたいに裸で絡み合っている田所先輩たちなのか。

 信頼しすぎてからの手の平返しで、裏切られたことによる思いなのか。

 ともすると誘惑に屈服し折れそうになる自分の意志の弱さになのか……。


 俺の中に、体に、心に紅色でどす黒い感情がどんどん無限に湧き出してきて、収縮された腹の底へと送られどんどん溜まって怒りのボルテージを引き上げていく。


「ああ、もういいや……クソが。クソッタレが……っ!」


 怒りに身を任せて暴れたい。

 その力を全てギターにぶつけて思いを吐き出したい。

 腹立たしい、なにもかもが最低で腹立たしくて抑えきれない。


「はっ? 陽太、今なんつった?」


 田所先輩が女を抱いたまま真っ裸で呆けた顔で聞き返す。

 ロックの燃料にもなる"怒り"の衝動に真っ先と駆られた俺は、エロく桃色チックな雰囲気で壁も天井も装飾品全てがピンク色で彩られた営み場所、その部屋の隅に"もう用済み"だと言われた女の様に無造作に置かれた田所先輩のストラトキャスターギターを手に取った。

 こんな淫乱的な行為がおっ始める前まで、女共にせがまれて弾いてたギターだ。

 そして小型の高級アンプをジャックに差し込み、ギターの調節をし出す。


「おっ? おいおいなんだよ陽太……弾くんならそんな今晩用がないギターなんかよりこっちを弾けって、いい音色がめっちゃ出て来るんだぜ~っ?」

「そうだよぉ~っ? あたし、声優顔負けのいい喘ぎ声出すんだよ~?」

「「それかぁ~、こっちのお相手でもしてくれる? 君ぃ~っ?」」

「ああ、そうかい。相手をしてくれるのか、クソッタレがよぉ……っ!」


 プッツンと、頭の中で確かに糸が切れた。

 そのムカつきを逆なでする言葉を聞いた瞬間、俺の中でなにかが咆哮を上げる。

 タイムリミットだ、お前のリミッターを外させてもらう、そんな感じがした。




ご愛読まことにありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。

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