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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
68/271

67曲目

曲名:Yoy're My LovenForever!

作詞作曲:二時世代音芸部。

※:ーーで繋がる歌詞がそうです。

「陽ちゃん。意固地になってないで稔ちゃんたちの姿と見て、曲を聴こうよ」


 隣に来たケンが俺の手を取り、ステージ脇まで連れてく。

 彼にそう促され、俺はやっと目の前に広がるステージを見上げた。


「ほらっ、見てよあのお客さんたちの顔色。みんな明るくて楽しそうじゃない。それにあの歓声、まるで1つに集まった力の源そのものだね。ソレを一瞬にして創り上げたってなるとやっぱすごいね、二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)はさ。それにみんな楽器も上手いし歌もすごくいいよねぇ。僕はちょっと心配してたけど、奏音(かなで)も堂々と楽器を弾いてお客さんを喜ばせてるじゃない」


 ケンが素直に、それでいて本当に関心をしている。

 ああ、それは俺も、控え室で音が流れた瞬間から思ってる。


 あまりにもダサくてカッコ悪かったデキだったからよく憶えてねえけど、俺はあのとき"つまらない顔してねぇで俺の歌を聴けっ!"って、まるで独裁者みたいな考えで思いながら観客たちに向けて歌を歌いギターを弾いていたのかもしれない。


 そんな胸糞悪い俺と、稔たちの演奏とは歴然の差と言えることがある。

 それは、稔たちは堂々と"観客たちの喜ぶ姿を見たい"って願って歌ってるんだ。

 ライブ会場まで足を運んだ観客に、精一杯、想いを込めて演奏()ってるんだ。


 思想概念を天秤にかけなくたって、わかりきった解答(こたえ)だ。

 稔たちの演奏は、悔しいけど本当に、心を揺さぶられるほどに素晴らしかった。

 観客を喜ばし一体になろうとさせる演奏パフォーマンスもあの心の底から音楽を楽しんでいる笑顔も、バンド内の目くばせによるコミュニケーションとギター同士やギターとベース同士で背中合わせになったりモニタースピーカーに足を乗せたりするコンビネーションも、今日のライブでやらかした俺らのデキじゃ、逆立ちしても敵いそうにない。


 なんなんだよアレは、客たちもノリにノッてるし笑顔じゃねえか。

 僅かにあった空席も今では埋め尽くされ、音楽の満漢全席を見せている。

 そんな埋め尽くされた客たちみんな楽しそうに、力強く飛び跳ねている。


 深く胸に、心に思い知らされる、彼女たちが演奏する音楽の力に。

 稔たち二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)として作詞作曲し手掛けたオリジナル曲が、歌と楽器による演奏が、こんなに大勢の人たちを沸かせて波を起こしているのだ。


 なあ、熱川陽太(おれ)よ、わかるか?

 これがロックであり、俺の目指しているソルズロックの到達点(はじまり)だ。

 ソルズロックの先駆者になるって決めた俺にできてないのに、虚しいよな。

 俺が最初に始めた音楽なのに、いつの間にか抜かされて、悔しくて辛いよな。


 だったら、俺が俺に言えることはこれだけだ。

 その目をしっかりと見開いて、よくこのライブを焼き付けとけ。

 いいか? これこそがライブであり、生きているって証拠なんだよ。

 こういう心の底にズドンと来るのが、俺はやりたかったんじゃないか。

 あんなに熱くて、素晴らしくて、生きてるって実感が欲しかったんじゃないか。


 虚無(きょむ)(さいな)まられた俺の体は、今まさに熱気すらない空っぽ同然だった。

 俺が胸の内で秘められた想いに浸らされていると、音楽が流れ込んでくる。


 ――もう本心で、好きだったらあんな規則(ルール)を捨てて。

 ――ねえ、どうしたいの? 君の気持ち、私に伝えてよね……。


 稔がコードを弾き歌い、と奏音のギターがテクニック満載のメロディーを弾く。

 結理のベースの低音と、柳園寺のドラムと南桐のキーボードが旋律を創り出す。

 そして満席となっている観客たちの歓声がスパイスとなり、完成度が増す。


 ――陽が境界線に、消える世界でも。

 ――キミといれば……Love'N'Forever(Love'N'Forever)。

 ――熱く夢見て前に進んじゃうけれど、仕方ないな行っておいで……。


 稔は意気揚々と、天使よりも天使らしい可愛い笑顔で、客席に歌を届ける。

 ステージ前まで客が押し寄せ、拳を強く握り、曲に合わせて声を上げる。

 まさに演者と観客とで一体となり、音楽の真なる姿を形成しているのだ。


 ライブハウスでやるより、最高の大舞台となっている鐘撞大祭(しょうどうだいさい)ライブ会場。

 今、特設ライブステージの上に立っている二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)は、素晴らしい。

 どのバンドよりも派手で、音も演奏も最高で、まるで音色の職人のようだ。


 呆然とする顔で、ステージ脇で見ている俺に気づいてなのか。

 それともそこに居たのがわかっていたかのように、稔が俺の顔を見る。

 いつもと変わらない、いやそれ以上に可愛い笑顔で最後の歌詞を唄う。


 ――私ずっと、待ってるから……。


 その言葉と共に、ラストスパートとなる楽器の音色が奏で出す。

 演奏に酔いしれながらも真っ直ぐ自分たちの曲を歌う彼女たちの前にあるアンプから、凄まじいまでに心高ぶる音々がつぎつぎに流れ、爆発的までに高なる鼓動(ビート)を刻み、今この場で"生きる"実感を出す。

 会場にいる観客からの声援も、演者たちの感情も最高点まで高まり、歌い切る。


 荒れ狂うほど照らし出す太陽の下、盛り上がりが有頂天となるライブ会場。

 余韻となる音々がアンプから流れくる中、観客の歓声は未だ鳴り止まない。




ご愛読まことにありがとうございます!

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