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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
63/271

62曲目

失敗は経験の元。

失敗は成功の母。

失敗して次にどう活かすのか。

音楽だけじゃないことですね。

 1曲、2曲……。

 どうにか気力で歌い切ると、全身が冷や汗でびっしょりとなっていた。

 頭の先から汗が出て、目もとにも涙かどうかわからない汗で(いろど)られた。


 特設ライブステージの中庭に設置された観客席からは拍手が起こってくれたが、先ほどまでの客の表情や仕草を思い浮かべると、演奏が終わったからとってつけたようなまばらでヒドイ印象しかうけない。

 観客1人1人の顔色はとても冷ややかで、視線も刺すように冷たい。


 懐かしい。

 俺が小学高学年の頃、アコギ以外なんにもなかったときと同じだ。

 道行く人々がまるでゴミでも見るかのような目、あんなだったな。

 そんな俺が好機(チャンス)を掴んだのに、(てい)よく金儲けのための駒として使われて、こんなの音楽じゃねえってプロデューサーや先輩ボーカリストに向かって暴言を吐いたときも――あんなに冷ややかで人間を見るような目じゃなかったなぁ……。


 刹那、俺はある言葉を生み出されたように思い浮かんだ。


『"Stagnant Suns"……お前にはこの異名がお似合いだ』


 俺にとっては忌み嫌い、絶対に見返してやりたいと思わせた異名。

 けれど、今この状況に佇む俺こそ、その異名にピッタリじゃねえかよ。


「おい……おい熱川、お前汗がすごいぞ。大丈夫か?」


 ベースを弾いていた先輩が小声で汗びっしょりの俺に囁く。

 先輩もこの状況にヒドク困惑し、泣きそうな顔を浮かべている。

 おいおい、そんな顔色を出すんじゃねえよ……まだやれるって。


「大丈夫ッスよ先輩。こんなの、どうってことないッスから」


 俺は明るく、それでいて空元気そうに笑いかける。


 俺はそんなに心配されるような態度と背中を見せていたのだろうか?

 ああ、そうだとしたらそれはマズいな。

 今、戦場となっているライブ会場で心配されている場合ではない。


 俺は重苦しく感じるテレキャスターをもう1度担ぎ直す。

 そしてマイクスタンドに近寄り、俺たちが演奏する最後の曲が始まる。

 男子軽音部が最後に選んだ曲は『The Beatles』の"Let It Be"だ。


 アンプのチャンネルを"Crunch"にし、砂漠のように乾いた音が広がる。

 エレキギターでなのにアコギ風のオープンコードをチョイスして弾く。

 イントロとなるコード進行を弾き、Aメロから俺はマイクを通して歌った。


 けれど、その最後に演奏した曲は、悲惨な内容となってしまった。

 なあ、こんな残酷で絶望することって本当に現実に起こり得るんだな。

 俺自身こんな運命は認めたくないけど、歯車が噛み合い時間を廻すんだな。


 俺は小さい頃から声量を付けるために夜中に走り込みをしたり部屋の中で筋トレしたり、音楽の文化が反映している"白神郷(しらがごう)"の街中にあるカラオケ店で1人カラオケは当然だったし、自分のできる向上効果は何でも興味を持ち積み上げて来た。


 音楽の才能も無いから必死に努力をしたし、時間もたくさん賭けた。

 それこそ"自分の人生"というチップを全賭けして、勝負に出るように。

 喉から血が出ても、指の皮が向け肉を見せても、必死に喰らい付いた。

 何度も、何度も、何度も、落ちぶれて哀しくなっても歌を歌ったんだ。


 だから俺は自分の体力も声量も、積み上げた歌い方も弾き方も自信がある。

 だと言うのに特設ライブステージに立ってバンド演奏ではたった2曲歌っただけで、俺の体力は限界まで達して武器となる声が枯れ、機械の関節がイカれ壊れかけのジャンクみたいに聞きとりづらいものになってしまった。


 枯れた声で、疲れた体で、俺は脳裏に浮かぶ。

 こんなにヒドイ演奏をするために、努力をしたんじゃねえ。

 こんなに聞き取れない声で歌うために、俺は音楽をやってんじゃねえ。

 こんな突き付けられた現実を言われるために、人生を生きてるんじゃねえ。


 そうか、俺は気づいてなかっただけでやっぱり緊張してたのかもしれない。

 リラックスしていると思ったのは幻想で、異常に力み過ぎたのかもしれない。

 あがいても自分の思い通りには動いてくれず、ただただ無為な時間が過ぎる。


 ここ数週間の怒涛な練習のし過ぎと先ほど控え室でやったアコギ生ライブでの行為で、ベストとなれるコンディション管理がまずかったのかもな。

 そう思うとガラガラになった喉を気にして、相まって発声もおかしくなる。

 こうなってしまってはもう後の祭りで、いくらなんでもその姿は醜態だった。


 俺が必死に歌い弾くと、反発するように醜態が悪化する。

 さっきしかめっ面で眺めていた女子が、苦笑しバカにするのが目に見えた。

 汗を流し、枯れた声で歌を歌いギターを弾く必死な俺が無様なのかもしれない。


 冷ややかな客席からの視線と、心配する人々の視線が重なるライブ会場。

 俺はそんなアウェイを通り越した絶望下の最中、どうにか曲を歌い切った。

 演奏を聴いていた客の顔を見たくなかったので、俺はそのまま天を仰いだ。


 そこには、ギラギラと自分らしさを出す太陽が、燦々と網膜を焼き付けた。

 世界中にあるありとあらゆる輝かしいモノよりも、カッコよく照らしてた。


 その瞬間、俺の視界が真っ青になると同時に、真っ白な世界へと変貌した。




ご愛読まことにありがとうございます!

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