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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
54/271

53曲目

 ユサユサ……トントン……。


「陽ちゃん、起きて」

「おうわっ!?」


 うかつだった。

 こちとら精神集中のために音楽を聴いて寝てたのだ。

 それなのに不意に体をゆさぶられつつかれて、俺は飛び起きた。

 全身に雷をうたれ隅々まで電流が流れ、一気に開眼したかのように。


「うわっ! ご、ごめん。驚かせちゃった?」


 視界があいまいな寝惚け目で見上げると、ケンが驚いた目で俺を見ていた。


「だ、誰だ、敵襲かっ! であえ……って、なんだ、ケンか。驚かすなよ」

「ゴメンね。僕としては、軽く起こしたつもりだったんだけど……」


 ケンがしゅんとした顔つきで謝る。

 ここが戦国時代の戦場下でなくて本当によかった、と俺は思う。


「ていうかただ起こされただけなのに驚きすぎじゃない? 何かトラウマでも……あ、もしかしてさ。昔の音楽事務所でのことを思い出したとか? だったらそんな反応するのは無理ないわ」


 ケンと一緒に結理もいた。

 その向こうでは、稔が奏音と話しているのが見えた。

 どうやら二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)のPAチェックも無駄なく終わったようだ。


 俺は稔と奏音の傍にいる他2人の女性も視界に入った。

 あれはたしか、同じ二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)のメンバーだな。

 稔や結理と一緒にいて話をしたり全奏(セッション)をしたりしてるとこをよく見かける。


 たしか前髪を後ろに上げたオールバックながらも腰近くまで長い金髪で資産家のお嬢様である柳園寺真理沙(りゅうえんじまりさ)というドラムで、メガネをかけ右目の下に泣きぼくろがありこれまたお嬢様風の上品で真面目そうな外見だが、実は腹黒い一面を持ち合わせていそうな雰囲気を漂わせるのが南桐八恵(みなぎりやえ)とかっていうキーボードだったか。


 どっちもこんなクソッタレで救いを求めている腐敗した世の中で富も地位もありますよとか言うお嬢様お嬢様をしてて、一見貧乏で才能無しの俺とはちょっと住む世界が違いそうな雰囲気を2人からはだしていた。


 あんなどう考えてもクラッシックとかオペラとか聴いてそうな女がロックをなんてやってるのは、稔もそうだが人は見かけによらないし、世の中なにが起こるかわかったもんじゃない。


 あちらでは、三岳部長を筆頭とする男子軽音部のメンバーが、女子軽音部の3年生たちとなにやら楽しそうに話を交わしている。

 そして、その向こうで固まっているのが、出場する有志のバンドだ。

 ああ、そう言えば出場するバンドは俺たちと二時世代音芸部(にじせだいおとげいぶ)のメンバーだけじゃなく地方で活動をしているバンドも出場してくるんだったな……とのんきにそんなことを思い出した俺の周りにはいつのまにか文化祭ライブの出場者たちがこぞって集まり、俺の精神統一と闘気と英気を養える孤独の控え室は、楽しく面白いお祭りムードの支配する場所と変わり果てていた。


「ああ、なんだ。ここはみんなの控え室だったのか」


 だったら俺はここに居るべき人間じゃない。

 それならさっさと俺は他所へと行くとしようか。

 そう思い椅子から立ち上がる俺を、結理が訝し気な目で見つめてきた。


「んっ? ちょっと陽太。なんで控え室の教室から逃げようとしてんの?」

「激熱の対戦を前にして、強い敵と馴れ合っている暇は俺には無いんでな」


 俺はそう悪態をつく。

 けれど、結理には俺の崇高な気持ちを理解するにはまだまだ知能が足りなかったらしく、怪訝な顔をしては疑い深いジト目でこちらを見る。


「アンタさぁ……まーだそんな子供じみたことを言ってんの? バカかよ」


 結理はすごく呆れたように言う。


「はぁ? なんだそれ、どういう意味だよ?」

「アンタは小さいときからずっと独りで音楽と向き合って音楽活動を続けていたからこういうことはわからないかもしれないけど、こういうときって、強敵となるのは他のライブ出演者じゃないんじゃないの? そんな雑念と虚栄ばっかりでいざ特設ライブステージの上に立って、一体どうするつもりなのか見ものだわ。プススー、そういうことだから、今日のアンタのステージ楽しみだわっ」


 こいつはやっぱ言うこと1つ多いし、ムカつくな。

 結理は俺をそんなバカにする目で見ては勝ち誇ったようにほくそ笑む。

 しかし結理の的確な皮肉に、俺は口ごもってしまい反論できないでいた。


「うるせぇな。わざわざ睡眠から起こして一々絡んでくんなよ。せっかくライブ本番前に向けて体を休めて、しっかりとヘッドフォンで"Sum41"のアルバムを耳から心に聴き届けて、爆発させる英気を養っていたのにこれじゃあ台無しだぜ」

「はぁ? なにそれ、別にあたしがアンタを起こしたわけじゃないでしょうが」

「前半はお前に言ったが後半は違ぇ! おいケン、お前に言ってるんだよ!」


 俺は前半だけは結理に言い、後半はケンに軽い怒鳴りを投げかける。

 正直言って反論できず悔しかったので、矛先を起こしたケンに向けた。

 心の中では反論できなかった自分に嫌気が差し、怒りを湧き上がらせる。


「ああ、ゴ、ゴメンよ陽ちゃん。でも、せっかく初のバンドライブとなる文化祭なんだから、陽ちゃんも出演者のみんなとなにか話をしたりしないのかなって思って……」

「おいおい、そんな曖昧な動機で睡眠を邪魔されてもこっちは困るぜ?」

「あ、あはは……」


 ケンは爽やかに笑っては頬を赤らめて話を誤魔化(ごまか)す。


 俺はソレを見ていつも通りだな、と考えやれやれというポーズを取る。

 そんな俺の仕草を見たケンは申し訳なさそうに、結理はアホだと感じる。


 こんな人と人が集まって和気あいあいとしたお祭りムードで話をする空間。

 今までずっと独りで歌い続けた俺には、少しだけ、眩しく見えていた……。




ご愛読まことにありがとうございます!

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