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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
45/271

44曲目

投稿遅くなり申し訳ありません。

 街中にあるCDショップに立ち寄ってから買い物を終えると、もう空に浮かんで世界を照らしていた陽がすっかり落ちて、天地が暗闇に覆われていき辺りは急速に暗くなっていた。

 たしかこのことを天地晦冥(てんちかいめい)といった気がする、辞書をひいて見たことがある。

 なぜ辞書をひいたのか? 自分の楽曲に取り入れる言葉(ワード)を探してたからだ。


 けっこうケンがCDを買うか買わないか、色々試行錯誤してた時間が長かった。

 学園を出てからずっと背負(せお)ってるギターケースのベルトが肩に食い込んで痛い。

 あの肩当てみたいなヤツ、ギターをしまって背負うとすごくじゃまくさいから取っちまったんだが、今思うとそれがよくなかったな。

 布1枚越しなのに、存外効果はかなりでかかったと見える。

 俺はギターケースのベルトを背負い直して位置を少しだけ変えた。

 それでも肩に掛かる負担は増すばかりで、少しだけ気持ちが億劫(おっくう)になる。


「陽ちゃん、テレキャスター学校に置いてくればよかったのに」

「仕方ないだろ。家に持って帰ってこいつをアンプ無しの生音で練習するんだよ……いや、そろそろアンプも引っ張り出して音作りから緻密(ちみつ)にしなきゃならないから、シールドをぶっ刺して練習しないとな」

「ええっ? それはさすがに止めといた方がいいんじゃない。だって、そんなことしたらまた、おじさんに怒られるよ? こないだも生音で練習してたのにやっぱ気に入らなくてアコギで練習してたら、"夜中に弾くんじゃない"って言われて殴られたんでしょ?」

「ああ、そりゃもう思い切り顔面にゴキゲンの一発を喰らってな。だが俺だってやり返してやったぞ。"てめぇに指図受ける義理も命令される筋合いもねぇんだボケっ!"って言いながら馬乗りにして連打よ。お袋とアイツが家を出てってから、うちではこれが唯一のコミュニケーションなんだよ」


 俺が拳を握って力こぶのできる部分を反対側の手で押さえ真正面に決める。

 するとケンはそれを見て気さくで爽やかで柔らかい顔を出して口元が微笑む。


「あははっ、陽ちゃんは短気ですぐ手を出しちゃうからな~っ」


 短気は確かにそうかもしれないが、俺はコイツと稔たちには絶対にしない。

 確かに熱くなって口が悪くなることはあるが、決して手を出したことはない。


 それに短気って俺のことをそう敬称するのならそれこそお互い様だ。

 うちのクソ親父もお袋と別居してからは相当短気でアホなことを抜かす。

 それこそ煙草を吸ったり酒が体に入れば短気になるスピードは超特急。


 毎度毎度俺の部屋に訪れては"そのクソうるせぇ音楽とクソだせぇ歌を今すぐやめやがれ"と口汚くののしってくるのが日常茶飯事なんで、俺は"そのゴミのような喋り方を今すぐやめねぇと口先が切れるまで殴るのをやめねぇぞこのクソハゲ"と、たとえ肉親とはいえ相手の気にしている肉体的欠陥を平気であげつらう(それこそ事実だからそう言っても別におかしくはない)。

 そうして拳と拳をぶつけ合うケンカになるのがうちのパターンだ。


 もともと俺と親父はこんなふうにののしりあうことは無かった。

 今のようにハゲてもなかったし、見た目もほっそりとしてダンディーだった。

 小学生の頃から願い続けて有言実行をしてた音楽だって不器用ながらも応援はしてくれていたし、なけなしのお小遣いを使って弦や楽器を買ったときも自分の給料から少しだけ出してくれたし、弾き語りをして練習している俺の部屋に来ては"今度うちの商工会祭りでお前、ちょっくら歌ってみないか?"とか活躍させてくれる場を設けてくれたりもした。


 それも全部、出来のいい兄と優しくて美人なお袋が傍にいたからだ。

 それがいなくなってからは、親父も本当にクソ親父に変貌し堕ちていった。

 昼間っから酒を飲んだり煙草を吸ったりし、仕事以外は競馬やパチンコに明け暮れて、しまいには自室にあるパソコンでなにやらよくわからんものを"amazon"で考えも無しに買っては家の中を窮屈にさせてくれる自堕落でつまらない毎日。

 そんな親父を見てからは俺も両親の絆だなんてこれっぽっちも思っちゃいない。


「でも、そういうのってなんかいいよね」

「はっ? なにがいいもんか。ケン、お前ちょっとベクトルがおかしいぞ?」


 アスファルトの固い地面を歩く度に固い足音が短く響いて止まるを繰り返す。

 そんなときに、隣に並んで歩くケンはなにをおもったかそんなことを呟いた。


 俺はケンの上流階級(アッパークラス)に住んでいる家も、気心知れた優しくて社会的地位も持っている親父さんや上々の仕事に就いていながらも家事全般ちゃんとそつなくこなすお袋さんのことがうらやましくてたまらない。

 そんでもって音楽的に天才な能力を持つ可愛い妹までいやがると来てる。

 俺はこいつを見ていると恋愛もののライトノベル主人公かなにかかと思える。

 その辺に会社帰りや学校帰りで帰路を歩いている人間に片っ端からそのことを聞いて回れば、絶対に俺と同じ感想を述べるに違いない。


 もしさっきのようにケンが暁幸の振る舞いを見て言った"うらやましい"という質問がもう1度あるのなら、今の俺は間違いなく"お前みたいな生活と家族がうらやましい"と言うに違いないだろう……。




ご愛読まことにありがとうございます!

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