43曲目
「よお、こんなとこで会うとは奇遇だな陽太。なにしてんだよ?」
「別になにも、お前はどうせ女をはべらせてイチャついてるだけだろ」
俺は不機嫌な態度を隠さず刺々しい振る舞いをする。
こぞって女を連れているなら、その女共とチャラチャラしてればいいのだ。
こんな街中で大勢の人がいるのに、なぜ俺にわざわざ声をかけてくるのか。
しかも俺がこんなふうに態度悪そうに振舞っても、平然とした対応である。
こういうところもいちいち癇に障るし大キライなのだ。
俺は双子の兄である事実でありとあらゆる方面で鬼才を発揮できるコイツを、刺々しく険難ながらもこんなに意識をしているというのに、コイツの方はまったく意識をしていないみたいじゃないか。
とにかくコイツのなにもかもが腹正しく気に食わない。
今でも長ったらしいサラサラヘアーをかき上げる仕草で黄色い声が上がる。
きっとこれが生理的に受け付けないというヤツなんだろう、勉強になる。
「まぁまぁ、そうツンケンすんなよな。ツンツンするのはそのハリネズミみたいな針の髪型だけにしとけよ。それにそうイライラしてっとストレスで髪も抜け落ちちまうぞ? あ、そうすればお前の言っていた"太陽"にもなれるじゃねーか! きっと世界中の人々をそのツルツルの頭でピッカピカに照らしてくれるぞ?」
暁幸がそう軽口からのコンボをすると、回りの女たちがクスクスと笑った。
ヤツに群がる女共の外側にいる宗介はそのことに対して何も言わず笑わない。
俺は自分の頭と髪型をけなしたコイツに便乗し笑いやがった女共を人をも殺さんばかりに睨みつけてやるが、女たちは見た目カッコいい系クズの暁幸の方ばかりを見て俺の方など眼中になかったのでまったく効果を発揮されなかった。
「おい、俺の髪にケチつけてムカつかせるたあどういう了見だゴラァ!」
俺はドスの効かせた低い声で噛み付くが暁幸はまったく平然としている。
女共も俺をまるで檻に入れられた猛獣でも見るような視線を投げかける。
「おいおい、だからそんなに怒るなって。もう少しカルシウム摂れよ……あ、そうそう。さっき俺も小耳に挟んで噂を聞いたぜ。牧野先生を頭痛で早退させたんだってな? 本当にお前はなにかお騒がせしないと目立てないのか。情けねぇな」
暁幸がおかしそうに言ってから付け加えてけなしてくる。
今すぐにでもコイツの顔面にグーパンをしたいがここはグッと我慢する。
「牧野先生がか? そんなことは知らん。早退しちまったのか?」
そんなことは俺は初耳だ。
俺はそのまま暁幸の言ったことを聞き返す。
するとそいつはさらにおかしそうに笑い、やれやれと言ったポーズを取る。
「ああ、職員室から出てきたとき頭を抱えて具合が悪そうにして帰っていくのを見たぞ。あいかわらず、お前はやることが全部ダイナミックでエキセントリックで、結果をエクスプロ―ジョンで終わらせちまうヤツだな」
暁幸はそう言って、また笑った。
なぜか俺を小馬鹿にするときはいつも愉快そうだ。
結果をエクスプロ―ジョンで終わらせるってのはまだいい。
けどダイナミックでエキセントリックなのはどう考えてもお前だっての。
そこにいるだけで人々の注目をさせるようなヤツに言われても嬉しくはない。
「ねぇ、アッキーってば。こんなヤツほっといてもう行こうよ~っ」
隣でヤツの腕に手を回している女が退屈したと言わんばかりに暁幸をうながす。
周りにいるヤツらも輪に入れずはみ出した女共もそれに同感といった感じだ。
「オッケー、わかってるすぐ行く。みんなも待たせて本当にごめんね~っ」
暁幸は、自分の回りと離れたとこにいる女共に愛想笑いを浮かべながらハリウッド俳優並みの勇ましく手を振り上げたりして、もう1度俺に意気揚々と向き直る。
「ま、そういうわけなんで俺はこれから可愛らしい子猫ちゃんたちと宗介と共に大事な用があってな……女がいると世界が変わるぜ? あ、お前はそういった人が居ないんだっけな~っ? また学校でその辛気臭い顔を拝ませてもらうわ」
「うるせぇんだよ、さっさとどっか女共と行っちまえクソ暁幸が」
「はいはい、双子の弟がこんな体たらくで俺は哀しいね~……はっはっはっ!」
俺が会いたくもないのに見つけられては向こうから近寄って来てもの凄く不機嫌にしているというのに、元凶を作り出して爆弾を置いてくれた暁幸は俺をバカにできたこともあってか実に楽しそうに、女たちとじゃれ合いながら宗介にも"行こうぜ"と短く答え共に去って行った。
クソ、やっぱアイツは根っから気に入らねーし全てを認めたくもねーわ!
「なんなんだよあいつ! 声なんかかけてくんじゃねーよクソバカ野郎がっ」
俺は女共に囲まれて人生を楽しそうにしている実の兄貴の背中を見てそう言う。
本当になんでもそつなくこなし、欲しいもん全部手に入れてるのが心底ウザい。
「あ、そういえば陽ちゃん。双子の暁幸くんのことが大キライだったんだっけ?」
「はっ? 当たり前だろうが、ケン。見るからに俺のキライなタイプだろうが!」
「あはは、そうだったねぇ。陽ちゃんの実のお兄さんなのによくわからない人だよねぇ、暁幸君って。でも、なんだか芸能人みたいだね。ほらっ、ベースだって一週間足らずにマスターしたし歌だって上手いし、顔つきだけは陽ちゃんと似ているのにどこか違うんだよね」
ケンはまた爽やかな笑顔でのんびりとした口調で言う。
そう言われればそんな感じだ、実の双子の俺はそんなに気にしなかったが。
アイツは俺に対してはうざったいヤツだが、他の人間にはちゃんとしている。
ルックスとペーシングのおかげか、ヤツの周りには友達も女もたくさんいる。
とにかくその場にいるだけで注目させる存在感があり、悪趣味だがド派手だ。
「ああ、そうだな。けれどまた相変わらずウチの学校だけじゃなく、他の学校の女子生徒もはべらせてやがったな。なんなんだよアレ? みんな、喋ること全部が猫撫で越えで桃色チックな雰囲気を出しては目をハートマークにさせて、暁幸に接してやがった。俺なんか、ほとんどの女子は目を逸らして遠くの方では俺の陰口をたたいているぞ?」
「あれっ? もしかして陽ちゃん……うらやましいの?」
「ふざけんなっ! あんなの全然うらやましくなんかない! 心の底から悔しいしムカついてるんだよ! なんでアイツ、俺よりもあんな目立ってんだよ。ヤツの外見だけに惚れて集まった女共ならともかく、道行く男女関係無しに視線を集めやがるし、スター気取りでイライラすんだよ!」
俺がヤツの意味のわからないことに憤怒し地団太を踏む。
それで道行く人が俺をあたまのおかしい真っ赤な怖い人を見る目を向ける。
俺がギラリと睨みつけると人々はそそくさと俺から離れ遠くから振り向いてる。
「あははっ」
隣にいるケンは俺のいつも通りを見ては爽やかに微笑む。
それを見るだけで意味のわからない憤怒も次第に怒りを引いていく。
「ちくしょう、世の中はなんでこんなに不平等なんだよっ!」
本当にこの腐敗した世界はなにからなにまでおかしい。
だから俺は、ロックに惹かれ、ソルズロックをやろうとするのかもしれない。
ご愛読まことにありがとうございます!




