41曲目
音楽室で思いっきり俺の曲をケンと共に双奏した後、俺とケンは充分にできたと感じ身支度をして音楽室の鍵を閉め、職員室に行きケンが代わりに先生のもとへと鍵を返却してからそのまま下駄箱のある玄関口まで向かい、履いている上履きを脱ぎ靴箱に入った自分の靴に履き替えてそのまま学園の外に出た。
俺はケンと共に並走して学園の外を歩く中、ふいに空を見上げる。
東の空が、群青から黒に染まり、時間と共に濃くなる。
そう、これがまさに夜の帳というやつだ。
こういった現象を夜の帳が降りてくるとかいうが、俺にはそれが降りてくるとは思えず幕を引くようにしか見えない。
左から右、下手から上手に向かって、サァーっと幕を閉じていく。
まるで劇場で長時間舞台に立ち、上手い役者のよき笑顔に被さるように……演劇や音楽会などの幕切れに心を揺さぶられ大いに拍手喝采をして、アンコールと共に出演者を再び舞台上に呼び出したり、最高のライブで最強の演奏を仕上げて魅せつけたバンドマンへ"カーテンコール"を盛大に送るように煌びやかに見える。
転じて振り返って見れば、西の空はまだ真っ赤な夕焼け空の色彩を染めている。
直近消えゆくような夕陽はもう見えないが、残照が赤く照らしているのだ。
俺はその消えそうなのに未だ存在を保っている夕陽を見てワクワクしてしまう。
学園から出て学生路である都内の道を歩いているときも、ほぼ空を見上げる。
「もうすぐ夏がくるねぇ……今よりもっと暑くなるかなぁ~?」
街の道路の隣に伸びる歩道を並んで歩いていたケンが、時間が経つにつれ暮れていく空を俺と同じように見上げて、いつも通りののんきな声を上げた。
ケンは本当に爽やかでのんびりとし"悩みがないのか?"と思える気ままさだ。
正直コイツには悩みを打ち明けるとそのまま全て消してくれる強みがある。
不満に思ってたことや悩んでたことを話すと、心が浮き、自然に消え失せる。
そしてそこに新たなモノを入れ込んで、俺やアイツらに笑顔を与えてくれる。
俺も、そんなケンのいいところは認めているし、学んでモノにしたいもんだ。
「いいじゃねえか。たとえ気温が暑くてしんどいとかになっても、心が爆発して太陽みたいに熱くなれて気分も爽快最高の音楽日和になれてまさに一石二鳥だ。それに俺は、あんな夕焼けを見ていると、なんだかわからねぇけど無性に走り出したくなっちまうよ。わからなくてもそうしちまうってことは、つまり本能ってことなのかもな!」
俺がまた熱血理論を口にするとケンはまた爽やかな笑顔で肯定してくれる。
今までは燦々と力強く輝きを放っていた太陽が時間の経過を受け、夕焼けになり暮れていく空を上を見上げて眺めているとなんだか自分でもわからない焦燥感と熱くてビートを刻まれる町中に流れた音楽を聴いて体中から沸き上がる疾走感の双方を一変に駆られて、理由もへったくれもなくなぜか無性に道を走り出したくなる。
太陽と夕焼けはなぜ俺をこんなにも身心共にうずうずさせてくれるのだろう?
俺はこんな街中の歩道でのほほんやらふわふわした爽やか癒し系イケメンの友人と肩を並べて、ただただ今向かう目的地を目指してトボトボとなんとなく歩いてて本当にいいんだろうか?
空に浮かぶアイツを見ていると俺はそんなふうに思ってしまう。
俺がズカズカと歩道を歩いて、知らず足早になり不意にケンが困り果てる。
なんだ、別に困ることはなにもないだろうに……。
「あ、陽ちゃん。早く帰っていつも通り作詞作曲したりギター練習したいって気持ちはわかるけど、僕を置いて行かないでよね? 僕は陽ちゃんみたいに歩くの早くはないんだから。それに今日はCDを買うの、付き合ってくれるって約束したじゃない? ……もしかして~っ、忘れてないよね」
「ああ、わかってるよ。ちゃんと覚えてるって、心配すんな」
なぜか先ほどから向かっている目的地を再確認された。
ケンが心配そうにそう聞いてきたから俺はそう答えて、今にも空に浮かぶ夕焼けの誘惑と熱意に囚われて、有無を言わさずそのまま歩道を全力疾走で駆け出しそうになる力強い衝動をグッと押さえる。
今日はなんでもケンが新しいCDを買いたいからCDショップまで一緒に来てくれるかというので、各園から出た俺たちは駅前まで足を運んでやって来たのだ。
ケンは小学低学年の頃から音楽をやり始め高学年になってから路上ライブをやり出して、当時から自分の色を見つけて荒削りながらも全力で己の音楽をやり続ける俺にかなりの影響を受けてCDを買うようになったのに、音楽の好みや弾きたいジャンルも俺とは全然違う。
コイツが好んで聴くのは全体的に、柔らかくて爽やかなでいわゆるバラードチックな女性ボーカルだったり、男性ボーカルでも同じく優しげでジャジーな、いわゆる癒し系でゆったりとされた分類の音楽を好んで聴いている。
それに流行りのモノの結構好きであり、ギタープレイで弾くのもそんな感じ。
今日も、今流行りのテレビCMや人気アニメやゲームのOPやEDに使用されている楽曲などがものすごく気になるから買ってみて聴いてみるのだという。
まあ、俺も作詞作曲するときに大体アニメやゲームの楽曲を参考にするしそういった何でも聴いてみるってのは別に悪くはないのだが、せっかく自分も俺の影響でやり始めたギターを弾いて曲を演奏するようになったんだし、もっとこう固定的で聴くのじゃなく系統的で曲を聴いていったらどうだろうと俺は提案してみた。
「たとえば、パンクロックの原点の1つでもある"Ramones"などの要素、オルタナティブの原点の1つでもある"Zebrahead"などの要素……そしてメロディック・ハードコアの原点の1つでもある"NOFX"といった要素を含んだバンド。そう、"Sum41"とかを聴くのはどうだ? このバンドだってお前の好きなゆったりして癒し系の楽曲だってあるんだぞ?」
「ん~っ、陽ちゃんはいつもそう言って"Sum41"薦めてくるけどさぁ……」
好きなバンドを熱弁する俺とは裏腹に隣にいるケンは困った顔をする。
俺が何度も"Sum41"を薦めるので辟易し、受け答えに悩んでいるのだろう。
なぜだ、なぜこうも"Sum41"が出す楽曲の素晴らしさを理解しないのだろうか?
まさか俺が"The Beatles"押しをされ辟易されるのと同じことか、ショックだ。
「まぁまぁケン、そうイヤがるなよ……そんなに心配性で困った顔ばっかしていると、お前の近くまで近寄ってくれた幸せも全速力で逃げちまうぞ? だけど、やはりそういった要素の原点を取り入れて進化したバンドってのはそれなりの良さとその意味があってだな……」
俺がまたもや"Sum41"のよさを熱弁しようとした、そのときだった。
「んっ……んっ!? おい! ……お前待て、お前だよお前。そこのツンツンして髪を真っ赤にして、アクセサリーをズボンやベルトに付けてロック風情を決め込んでいるお前だって。おい! 陽太! もしかしてお前、陽太……熱川陽太だろ?」
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