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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
35/271

34曲目

 そんなのんきに呆然と文化祭に出る俺らを想像するケンに、結理がさらに言う。


「ちょっとケン、そんなにのんきに構えてて大丈夫なのかしら? 言っておくけど、あんたの妹も私や稔と同じ時世代音芸部(じせだいおとげいぶ)のメンバーに選ばれて正式に入ったんだから」

「え、奏音(かなで)が? 嘘、ほんとに?」

「うんうん、本当だよ~。奏音ちゃんもうほんとにすごいんだから。まだ1年生なのに、女子軽音部の中でもずば抜けて上手いんだから。私もギターを教わってるくらいだもん~。それに教え方も上手くて上達のコツとかも教わっちゃった」

「へぇ、さすがは音楽の中でも唯一無二の天才少女。妥当だな」


 その言葉を訊きケンはめずらしく目を開けて驚いている。

 ケンの妹の奏音はこいつと同じく内気で前の稔みたいにあんまり前に出て来るタイプじゃないんだが、どんな楽器を扱わせてもすぐにコツを見出したり構造なども理解したり、自分の中に描かれたフレーズを瞬時に演奏でき使いこなせるようになってしまうという音楽が好きで努力を惜しみなく注ぎ込んでるヤツにとってはとんでもないヤツとしか思えない天才少女だ。

 彼女が女子軽音部に顔を出して少し楽器に触れて演奏を魅せたときはすごい天才だと、女子軽音部内での彼女の評判と噂は、こちらまでしっかり届き訊いている。

 すげえもんだ、天才妹の兄となりゃ大いに喜ばれることだろう。


「そうなんだ……そっか、奏音も時世代音芸部(じせだいおとげいぶ)に入っちゃったんだ」


 ここでようやくのんびりとしてたケンの表情が曇り、困り顔となった。

 あれ、俺の考えていたケンの表情と言葉とまるで一致しないんだが?

 もしかして妹がそんなに目立ってて兄としてはあんまし嬉しくないのか?


「なんだケン。あんまり嬉しそうじゃねえみたいだな? 自分の妹が活躍してるんだぞ。……あ、もしかしてさすがに技量が差を広がりすぎて自分が置き去りにされちまうみたいで、お前やっぱり焦るのか?」

「違う違う。そういうことじゃなくて、ほら、こんなふうに先輩である稔ちゃんや結理ちゃん。それに来年には卒業となる3年生だっているのに、こんなふうに先輩をさしおいてステージに立って演奏するってのは、自分の妹として教育的にどうなんだろうなぁって。先輩たちは残り僅かな時間でやれる文化祭で稔ちゃんや結理ちゃんもそうなのに、奏音はまで1年生なんだよ?」


 うん、やはり俺とコイツの考えていることはまるで一致しない。

 表情が曇り困っていたケンの考えを聞くと、俺の予想外の答えが返ってきた。


「んー、ケン君はちょっと心配のしすぎだよ~。大丈夫、奏音ちゃんはそういう性格じゃないもの。素直だし礼儀だってちゃんとしっかりしてるし、私たちも先輩たちも全然気にしてないんだよ」


 ケンの真意を聞き、稔が笑顔でそう返す。

 俺はよく知らないがどうやら音楽天才少女である奏音とも幼いころからの付き合いであるらしい稔が、奏音のよさをアピールするように天真爛漫な表情で言い、そういった性格でも心配することはないと否定する。

 稔の説明を目の前で聞き俺もやはりそう思う。

 むしろ、この心配性とのんびりを絵に描いた兄の妹だ。

 楽器に触れれば変貌するが、その性格から遠慮しすぎてないか心配なくらいだ。

 そんな心配性を与えた発端であるケンは未だに浮かない顔を出して困ってる。


「しかし、時世代音芸部(じせだいおとげいぶ)に正式加入して、グングン楽器と歌のレベルを上げているお前たちも文化祭に出るのか……。んっ? ということは、文化祭のバンドは時期部長と言われている結理が仕切るのか? おいおい、大丈夫なのかよ」


 俺は自分自身がバツが悪そうに顔を手で覆い天井を仰ぐ。

 各部の部長が時期部長へと部の未来を任せ交代するのは2学期からなのだが、その前に全校生徒で盛り上がれるメインイベントな晴れ舞台である文化祭で2年生の時期部長がバンドを仕切るのが、女子軽音部の中では慣例のようになっているらしくなんかカッコよくて嫉妬してしまう。

 だってあれだぜ。晴れ舞台の文化祭で演奏でき新部長のお披露目も兼ねてる。

 つまり、現時期部長の結理が新部長として、華々しく初仕事ができるわけだ。

 うっひょー、マジ超ヤベーじゃん、よしこの俺が握り拳をおごってやろう。


 俺が隠れて握り拳を握りわなわなと震えてるとそれを悟ってたかのように。


「ふふん、そういうこと。なによ陽太、もしかして怖じ気いちゃった?」


 ムカつく。

 この自信満々な笑顔を見事に割ってみたい。

 しかしけっこう顔が整ったコイツの顔を殴るのも、男としてよろしくない。

 俺は嫉妬と嫌悪で渦巻いた握り拳の力を徐々に弱め、代わりに威圧的に応じる。


「なんだとっ!? バカ言っちゃいけねえよ結理この野郎。誰が誰に怖じ気ついたってんだ。もしかして俺がお前にか~? 言っておくがな、寝言は寝て言えってんだ!」

「ふ~ん、それは本当なのかしらね? それじゃバンド勝負ね」

「はんっ! 望むところだ! 俺の熱い魂で文化祭燃え上がらせてやる!」

「あ、陽ちゃん。文化祭での部のライブ、やる気が出て熱気に満ち溢れた?」

「そりゃそうだ。なに当たり前なことを言ってんだケン! 男たるもの、勝負を挑まれたらタダで受けてやるし、絶対に負けられない戦いが幕を切って今下ろされたんだぞ。ならやるっちゃねえ!」


 俺が力強く拳を握り上げて意気込むとケンとも稔は"おおっ!"っと驚く。

 それとは裏腹に結理はバカにした顔色で見ているが本当になんなんだよ。


 男女関係なしにこの世界中には負けず嫌いという人種がいるだろう。

 俺はその中でも大の負けず嫌い派であり、なにごとも本気で挑戦(チャレンジ)するヤツだ。

 相手が誰だって、例え楽器や歌が上手かったり、演奏(パフォーマンス)がいいとか関係ない。

 俺はどこのどいつよりも負けるのが、なにもせずに諦めるのが大嫌いだ。

 あのとき、俺がどんだけ苦渋の決断を強いられて涙ぐみ夢を諦めたか……。

 あれはもう辛いどころのレベルをとうに越えており、体を(えぐ)られるレベルだ。


 だからこそ、絶対に負けられない俺自身の戦いを強いられているんだ。




ご愛読まことにありがとうございます。

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