33曲目
早めに書けたので投稿します。
俺はうろたえたくないのに狼狽え、僅かに思考が空回りする。
知り合いの2人が鐘撞学園で生まれた伝説的なバンドに選ばれた。
まあ、そりゃそうだろう。なんたってあの伝説を築いた時世代音芸部バンド。
今までは仮としてメンバーに居たであろうが、それが正式となりゃ嬉しい。
俺だって流石に両手を広げて拍手するほど、祝福しなきゃならん事態だ。
まあ俺もあんまり詳しい内容を把握はしていないが時世代音芸部というのは、運動部でいうところのレギュラーであり文化部でいうところのアマチュアのようなポジションらしく、そのバンドが生み出された女子軽音部の中で一番上手い連中が、伝説の逸話を数々残した時世代音芸部バンドを組むことが当初からできた規則で今では通例となっているらしい。
実際この鐘撞学園では、男子軽音部より女子軽音部の方が部員も多いしなにより歌も楽器も上手いし部活動にも精を出して活発である。
その活発さと技術力を少しでも男子軽音部に分けてくれないだろうか?
元々は、鐘撞学園には女子軽音部はなく男子軽音部が権力を振りかざして体育館や近くにある施設を大盤振る舞いで使用していたらしいが、ある年の文化祭で、部員もおらず受け持ちの教師もおらずで廃部寸前だった奏楽同好会である時世代音芸部の唯一残ったメンバーが、最後の記念にとバンドを結成した。
それが結果的に文化祭ではどの部活動よりも注目を集め逆境を覆して風を巻き起こし、一気に部活動でもこの地域周辺にもその名を轟かせ、しかも受験間近に迫った三年生もメンバー内にいるのに全国各地へとボロイキャンピングカーでライブ活動を頻繁に行った伝説的なバンドへと成り上がってしまい、そのメンバーで5人中3人が女子だったということもあって、それをきっかけに新しく女子軽音部が誕生したという経緯らしい。
てなわけで、この鐘撞学園では男子のより女子の軽音部の方が活気に満ち溢れて盛んであり、アマチュア上がりのミュージシャン顔負けな歌や楽器が上手いヤツも多く層も厚く、現に稔のギターボーカルも結理のベースもそこらで音楽をかじってピロピロと速弾きしてどや顔かましているヤツより断然上手い。
俺みたいに、誰もやるヤツがいないでパートを押し付け合うなか、昔から音楽に携わって歌も歌ってからと、なんとなくじゃあお前でって言うクソ下らない理由でギターボーカルに選ばれるなんてバカげたことは絶対にありえない。
正直な気持ち、なぜそのときの男子軽音部はシャンしなかったのかと言いたい。
それに、学校などで唯一楽しめるイベントの『文化祭』ともなれば一世一代の一番大事なステージの1つなのだから、大抵来年で卒業しちまう3年生で演奏メンバーをそろえるのが普通だ。
運動部でも最後の大会や甲子園とかで1、2年生がレギュラーを取るのだって至難の業なのにそこに、2年の稔と結理が正式に加入できたというのはそれはもう凄すぎて鼻から鼻血が突然出たっておかしくないほどだ。
ちくしょう、コイツらはどこまで成長しやがるんだ……嫌味かっ!
俺もうかうかしてられないし、もっともっと楽器も歌も上手くならねぇと!
「うわーっ! すごいすごい、2人ともよかったね! なんたってあの逸話の残し音楽界をかき乱した伝説の時世代音芸部に、正式にメンバーとして抜擢されただなんて立派だし素晴らしいことなんだよ。これは盛大に拍手しないと」
ケンが自分のことのように嬉しそうに言う。
それと同時にいきなり手を合わせ宣言通りに盛大に拍手をした。
のんびりでまったりしているケンの人柄がそうさせるのだろうか。
周りで関係ない話で盛り上がってた生徒たちも2人に祝福の拍手を送る。
稔も結理もその拍手を聴き思わず照れて振り向き軽く頭を下げて応える。
「おいケン、なに他人事みたいに喜んでるんだ。お前、わかってるのか? この中で、文化祭のステージに立って演奏できないのはお前だけなんだぞ。お前それでいいのか?」
「あ、そういえばそうだね。皆本当に凄いんだなぁ……」
コイツののんびりとした口調で言う言葉を訊き俺と2人は笑うしかない。
一応ケンもギターを弾いてる音楽人の癖に、なぜこんなに悠長なのだろうか?
俺や稔と結理はこぞって文化祭でライブをするのに、コイツだけはカヤの外。
まったく、本当にケンはのんきで誰よりものんびりしてて危機感の無いことだ。
こいつは夏休み俺とバンドを組んで活動するんだが、この調子でいいのか?
不安だ。
俺の心の中でこれから音楽を共にするコイツの経緯が不安で仕方がない。
とはいえ、俺も傍に居るし稔も結理も二つ返事で力を貸してくれることだ。
あんまし心配することはないとはいっても、もう少し熱意を見せて欲しい。
俺は今のケンを見ていると、そう考えてしまう。
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