32曲目
「ああ、今年の文化祭に間に合わないのは残念だが、夏休みに入ってからは作戦"ギラギラ輝かせて行こうぜ!"を実践して怒涛のバンド活動をしていくつもりだ。一曲入魂、熱い魂を燃え上がらせてバリバリ最高オンリーワンを目指すぜ! なあ、そうだろ――ケン!」
「うん、そうだね。僕も陽ちゃんと共に新たな一歩として0から創り出すバンドで頑張って活動してかないとね。ああ、でもその前に、陽ちゃんは文化祭頑張らなくきゃいけないじゃない。男子軽音部の先輩が、せっかく陽ちゃんをバンドに入れてくれたんだし」
ケンは心配そうに言った。
俺もそのことを聞き思わず苦笑いする。
そう、文化祭で演奏する男子軽音部のことだ。
「いやまぁ、そうなんだけどさ。軽音部でのバンドはあんまり気が進まないんだよな。音楽は二の次で勉強進学とか言っちゃてるし、別に趣味でやってるからって感があって合わないんだよ。俺よりお前が代わりに男子軽音部のライブに出てくればよかったのに」
「ええ!? ……んーだけど、そういうわけにもいかないよ。だって、ボーカル志望が陽ちゃんだけだもん。それに陽ちゃんは小学生の頃からずっとギターにも触れてたんだし歌詞だって作詞してるんだから、ギターボーカルで入ってくれて助かるって先輩言ってたんだよ?」
ケンが困ったように言い俺を悟らせる。
そうなのだ。
別に超絶テクニックができるとか音楽センスがいいとか歌が上手いとかいい歌詞を書くとか、そういう飛びぬけた努力の結晶がある理由で俺が男子軽音部のボーカルに選ばれたわけじゃ断じてない。
なにを隠そう軽音部に所属している先輩たちが揃いも揃って目や話を逸らして誰もボーカルをやりたがらず、さらに他の二年生はクラスの活動やサポートで入っている部活動に呼ばれて忙しいとかなんとかで、回りに回ってお鉢が俺に飛ばされてきたというわけだ。
俺はそんな成り行きでギターボーカルに選ばれたときは、なんだそれと思った。
こんな選ばれ方じゃ、やる気も失せてつまらないというものだ。
「まったく、なーにがステージの真ん中に立って堂々と歌える自信がないとか恥ずかしいとかだ。バンドの華でもあるボーカルを押し付け合うぐらいなら、もう文化祭でのバンド演奏で男子軽音部はステージをやらないで、やる気も無いんだったら欠席にすればいいんだよな。その方が早い」
「まぁまぁいいじゃない。形が成り行きで決まったと言っても、陽ちゃんにとってはバンドとして歌える初めてのステージに立てることができるんだからね」
「はぁ!? いや、俺はこんな不完全燃焼で怠惰まっしぐら状態で華々しいバンドステージデビューを飾りたくなかったぞ」
俺は声を荒げて両手を上げ顔を天井に向かせる。
その姿はどこぞの汎用人型決戦兵器に見えなくもない。
結理はそれを見て"バカ"と短く呟き、稔は口元を押さえ初々しく笑う。
教室内でまだ屯ってる生徒も俺を見て笑うが、俺は別に気にしない。
例えバカにされようが、指を差され笑われようが、目立つのならそれでいい。
「コラコラっ、そんな愚痴ばっかり言ってないの。そんなに愚痴を言えるんなら、バンドステージだって陽ちゃんの色で塗り潰しちゃえばいいじゃない。……それより、今日は男子軽音部での部活動に顔を出すんでしょ? なんか、今すぐ家に帰って曲作りをしたそうな雰囲気で喋ってるけど」
「あ? ああ、俺は家に帰って俺の曲を作詞作曲しようと思ってたけど」
「え~っ? ダメだよちゃんと部活に顔を出して活動しないと」
「ん~っ、でもなぁ~……ノリが乗らねぇんだよな」
そんな具合だからどうにもこうにも気が進まない。
だが隣で座ってるケンに言葉巧みに諭されるとどうも弱い。
男子軽音部での活動はいいとは言えないし、俺の気持ちも冷めてしまう。
そんなとこに行けよと言われてもやはりいい気分にはならないし、つまらん。
「あ、ねぇねぇ。今の話を聞いていると熱川君は男子軽音部でサポーターとして文化祭のライブに出るってことだよね? ってことはつまり、私たちと対バンなんだね~。うわーっ! 熱川君と同じライブステージに立って対バンできるだなんてワクワクするな~」
俺がケンに諭されながらも気が進まずぐずっていると、さっきから結理と何か楽しそうに話をしていた稔がこちらを振り返って嬉しそうに言った。
「対バン?」
「うん。実は私たちね、正式に選ばれたんだよ。ね~結理ちゃん」
稔が、隣にいる結理の手を握ってほほえみかける。
それに応えるように結理も稔の手をしっかり握りニヤリと笑う。
少しだけ悩み考えていたが、俺はすぐにその言葉と仕草でピンと来た。
おいおい嘘だろ、本当にやり遂げやがったという表情が俺から出てる。
「正式に選ばれた……って、まさか!? 時世代音芸部にか!」
「うん、そうなんだ。私たち、正式にメンバーとして選ばれちゃったんだよね」
結理は、珍しく頬を赤らめ照れくさそうに言った。
困ったように言っているが、感情も心情も目に見えて相当嬉しそうだ。
こいつらは俺より後に音楽を始めたのに、どれだけ才能を隠し持ってんだ?
俺はただただ稔と結理があの伝説の時世代音芸部に正式加入としてメンバーに選ばれたことに対して……一驚し目を見開き、手に汗握らされ危機感を覚えさせてくれ対抗心を高ぶらせてくれるだけだった。
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