31曲目
「だけど、熱川君、どうして急にファッションとかに凝り出したの? しかもロックやグランジ系統の。今まではギターのコード練習やアルペジオ、それに歌詞のことばっかり凝ってたのに」
稔はそう不思議そうに訊いてくる。
彼女がそう聞くとケンと結理も同じく不思議そうだ。
どうやら俺の恰好の劇的ビフォーアフターのことだろう。
「いや、別に深い意味なんてないんだけどさ」
それは嘘だ。
本当は俺自身いきなり服装を変えた理由はないわけじゃない。
だが、そこんとこは俺自身もよくわかっていない。
とにかく、ある日突然自分を変えて生まれ変わろうと思ったのだ。
今のままじゃ絶対にまたあの悲劇の繰り返しになるから、と。
「ま、私は陽太の考えていることがなんとなくわかるけどね」
俺はなにも言ってないのに、結理は何かわかったふうな顔をする。
彼女の口ぶりからすれば気づいているだろうが、なんだか癪だな。
こういった女の勘は鋭いに何乗もかけた観察眼はいいことに活かしやがれ。
「はあ? なんだよ。結理になにがわかるんだ?」
「わかるわよ。髪の毛の色や服装にアクセサリーとかを付けて変えたって、結局はなにも変わらないわよ。そんなの結局見せかけだけの張りぼて同然だもの。大事なのはそういうふうに着飾ってどう魅せるか、生きるかが問題なんじゃないの? アンタで言うんならその見た目でどう自分の音楽を貫き、表現するかよね」
俺の威圧的な問いに結理はズバリ切り裂いて言い返した。
さすがの俺も正論を言い放たれてぐうの音も出やしない。
おいおい嘘だろ、なんでわかっちまったんだ?
「ほんと、これだって決めたら即行動して影響されやすいわよね。アンタって」
「それはズバリ単純って言いたいんだろ? 悪かったな、単純なバカで」
「そうなんだ。へ~……熱川君も、自分を変えたいなって思うんだ。意外かも」
「意外ってなんだよ稔。そりゃ、俺だっていわゆる年相応で興味が湧くお年頃の若者だからさ。ギターや歌もそうだけど、髪型に色に服装のイメージとかいろいろ悩んだり葛藤したりぐらいはするさ」
「へ~、そうなんだ。ん~、やっぱり意外かな……」
稔はなんか俺がそういうことをしていることに意外そうな顔を出す。
ソレを見ていた結理は笑うのに必死に耐えて、ケンは愛想笑いを出している。
もしかして俺のこと、悩みも辛さもあの日を境に全部なくなって能天気で頭お花畑な男だとでも少なからず思っているのだろうか?
だとしたら俺自身ショックを受けるしいろいろ誤解がありそうだし、時間がある近いうちにじっくり時間を掛けて話し合いたいところだ。
「意外かもしれないけど。陽ちゃんは、もう一度0から音楽を再スタートする第一歩として、バンドをするから真っ赤な髪型もそういうロック系にちなんだ服装が必要なんだよね」
先ほどまで愛想笑いをしてたケンは意外に鋭い指摘をしてくれる。
いいぞケン、そうだ。俺はもう一度0から音楽を決意し始めるんだ。
そのために1人でやるとまたダメそうだから、今度はバンドで歩んでいく。
俺はケンのくれた手助けに感謝をし、2人に胸張って意義を応える。
「そう、そうなんだ。俺は今までずっと1人でシンガーソングライターをしていたが、これからは違った方向から攻めようと思う。それはバンドだ。だからバンドを0から始めるにあたって、どうしても今まで通りじゃいけない、太陽みたいに燦々と世界中に光を輝かせることができないって気がしたんだ」
「あ、いよいよ前から言っていたバンドを作るの? うわ、私嬉しいな~っ!」
天真爛漫な稔の笑顔を見て思わず俺は照れそうになる。
しかしそこはグッと堪えて男らしく威風堂々と胸を張り偉ぶる。
稔たちにはそう、俺が燻って音楽から遠ざかっているときに稔が言ってくれた言葉を聴かされた以来、バンドを作るということは前々から宣言してある。
バンドを作ることは前々から全面的に考えてはいたが、本気でやるなら最高のメンバーを集めて最高峰のソルズロックを創り出さなければという気負いばかりが大きく膨れ上がって、今までなかなか踏ん切りがつかずにいた。
だが、そろそろ我慢弱い俺は我慢の限界で思いが有頂天に達した。
果報は寝て待て、石の上にも三年などというのんびりは俺に合わない。
思い立ったが吉日、ならばその訪れた日以降は全て凶日こそ俺と言える。
それにまた夏がやって来て、身も心も燃え上がらせる暑さだからだろうか。
ああ、最高だ、実に清々しく歌でも歌いたくなる気分にさせてくれる。
自然の中で一番輝きを放ち、雄々しく燦爛と灰色の世界を照らしてくれる。
四つの季節の中で、夏は俺が一番好きな季節だ。
別に海辺で水着が見れるとかそんなふしだらでいやらしいことじゃない。
俺は夏の熱さを吸収するかのように空に浮かぶ太陽が、世界中全てを分け隔てなく照らし焼き尽くすように、ギラギラと燦々に輝く最高にロックな季節。
この俺も、そんなカッコいい太陽みたいに燃えなくちゃいけない。
最高の熱気にギラつく魂と、最高のソルズロックで彩らせなきゃいけない。
それこそが俺の再度動き出す人生の活路に繋がることなんだから……。
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