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LIFE A LIVE  作者: D・A・M
First:Track Rock Today Wake Up Tomorrow
3/271

2曲目

訂正――「」を『』に変更しました。

 田所先輩と他のバンドメンバーとのつまらない話から早々に抜け出せた俺がライブハウス内にある【THE():ONHAND(ワンハンド)】の控え室から出ると、店の前には田所先輩の組んでいるバンド【THE:ONHAND】の演奏を聴き見終わって他のバンドの演奏を聴かずにさっさと帰ろうという客たちが、グズグズと人目も気にせずに人だまりを作っていた。

 普通の恰好の人もいるが、観客の中にはもの凄いファンもいるモノだ。

 奇抜的でライブハウスから出てくると存在が浮くファッションに付け爪。

 メイクもバッチリ決めては田所先輩たちを出迎えようとする女性ファンたち。


「ふ~ん、みんな揃いも揃って暇を持て余してるんだな」


 ゴールデンウイークで学校での勉学や会社の仕事がお休みな頃。

 音楽好きな観客が集まるロック系ライブをしたライブハウスは大盛況だ。

 ライブを見終わって意気揚々と帰路に進む客、ライブ内容をファーストフード店などに入店して話し込もうとする客たちにこれから楽器や歌を始めてみようと考えている客が楽器店に行こうと話し込む者も居れば、そのほとんどが次のバンドを観るためにライブ会場へと入っていく客が立て続けに俺の目の前を通り過ぎていく。


 ライブハウスの外に出ると風が冷たくそれでいて強く吹き、もう五月だというのに外の気温は真冬の様に肌寒く、黒のTシャツとジーパン姿の俺にはちょっとどころかかなりキツイ。

 そんな肌寒い気温すらも熱気に包み込める体温だったら良かったんだ。

 けど田所先輩らが魅せたライブはイマイチ、いや凄く熱くならなかったしさ。


 俺は夜風が吹き荒ぶ中、唐突に夜空に浮かぶ月を眺めて黄昏る。


「あーあっ、畜生……なにやってんだろうなぁ、俺って奴はよお」


 今の気持ちを例えろ、と言われても一向に答えが出て来ることは無い。


 そう思うと、急に虚しくなってきて消えてしまいそうな感覚に陥った。

 そしたら急に、稔の抱擁感ある優しい声が聞きたくなってしまった。

 聞きたいと一度考え込んでしまうと、もう居ても立っても居られない。

 俺はジーンズの後ろ右側にあるケツポケットに手を突っ込みスマホを取り出して、登録してある数少ない電話帳から一件の電話番号をタップして呼び出した。


 スマホの画面に女の子の名前と"Call"か"Cancel"のボタンが表示される。

 その名前を見て一瞬戸惑ったが、思い切って"Call"をクリックしてかける。


 …………。

 "Prrrrrrrr"という無機質に伝えるCall音が耳元で聞こえ、出るのを待つ。

 待つこと数十秒後、電話先の彼女が電話に出てくれた音が俺の耳に伝わった。


「も、もしもし? 稔か? 俺俺、俺だけど……」

『えっ? あのー、もしかして……オレオレ詐欺ですか?』

「ち、違うって! 俺俺、俺だって……熱川だよっ!」

『えっ? 熱川君なの? 良かった、誘拐されちゃったのかと』


 おいおい、と俺は電話越しの彼女に向けて苦笑気味に笑い答えてしまう。

 スマホの電話越しから聞こえてくる柔らかくそれでいて暖かい声は、さっきまでイライラが溜まりに溜まってささくれだった俺の(くすぶ)った気持ちが、あっというまに綺麗に消えて太陽のように燦々と照らしてくれる。

 オレオレ詐欺の業者と間違われたのは、少しだけ精神的にキツイ。

 それでも天然が入った彼女の声と優しさに触れ思わず鬼の目にも涙になる。

 イカン、彼女の声を電話越しで聴いてたら会いたくてたまらなくなった。


「なあ稔、夜分遅くに悪いんだけどこれから会えないか?」


 気づいたら俺は考える間もなく、口が勝手にそう答えていた。


『え、ええっ? い、今から?』


 稔が酷く驚愕し慌てた様子の声色が聞こえる。

 そりゃそうだ、俺だってそう言われたらそーする。

 こんな時間に呼び出したこと、電話番号交換してから一度もないからな。

 現に俺も自分で言ったことに驚愕し、照れくさくなってきて頭を掻く。


 まぁ、俺にはその先の予測はできている。

 呼び出したって、十中八九来てくれやしないだろうさ。

 当たり前だ。俺にとって一番最初に歌を聴いてくれた観客で、嫌われた一人だ。

 なにしろ、今俺と話をしている稔は極度の"熱川陽太恐怖症"を患っているから。


 でもまぁ、例え会えなくても言うだけなら無料(タダ)だ。

 無料(タダ)だったら幾らでも言ってやるし、俺は話せるだけで嬉しいから。


『どうしたの急に、もしかしてどこかで拾い食いとかでもしたの? それとも最近流行の口説き文句とか雑誌で読んで試してるとかかな。私だったら冗談で済ませれるとか、考えてるとか? ああ、ごめん真に受けないでよねっ……それより熱川君、今どこにいるの?』

「ライブハウス【Emelantis(エメランティス)】の前。田所先輩のライブを見に来て終わったとこ」

『ライブハウス? ああそっか、もうすぐウチの学校で学園祭が始まるもんね。本番も近いし、先輩のバンドを観て勉強してたんだね?』


 稔は嬉しそうに笑ってから学園祭でのイベントの事を話し出す。

 俺も先輩たちと共に組んだバンドで学園祭でライブをすることになっている。

 まだ上手く噛み合っておらずつぎはぎだらけだが、なんとかしなくっちゃな。


「ああ、でもそんなたいそうなもんじゃないし……楽器に触れたくて仕方がねえや」

『あはは、そっかそっか……それで、参考にはなったの?』

「いや、それが聞いてくれよ稔……田所先輩たちのバンドさ」

『うん』


 その時、俺の周囲に立ち込める薄暗い闇を、颯爽と現れた車のスポットライトに引き裂かれた。道路を悠々と走る車のタイヤを鳴らして、ブレーキを掛けた瞬間に道路とタイヤに摩擦が掛かり電話をしている俺の目の前に車が止まる。




ご愛読まことにありがとうございます。

これからもよろしくお願い致します。

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