26曲目
過去編その7
ああ、なんなんだよこの可愛さはよ~っ、反則級だろ!
さっきの新鮮な気持ちを、新鮮なままなにかカタチにしたくて仕方がない。
とても、こんな居た堪れない時間をこうして見つめ合うのは恥ずかしかった。
なにか強大で叶えられない夢を実現させた人が叫ぶように、俺も叫びたかった。
「稔~っ、お見舞いに来たよ~……って、えっ?」
俺が叫びたいと願う瞬間に、病室のドアがガラリと開けられた。
稔、と呼ばれた元盲目少女はドアの前の子に視線を移すと、そいつも絶句する。
そりゃそうだ。だって今の稔という女の子は包帯を取っているのだ、ビビるわ。
「えっ……えっ? ちょ、あの、なんで? なんで稔の包帯が取れてんの?」
そこには誰かこの子のお見舞いで来た人がいるであろうが、俺には聞こえない。
自分の中で出た結論の真意に気づき頭に血が上っていた俺は気が付かないのだ。
「どうしたの結理ちゃん……って、あれ? もしかして、陽ちゃん?」
どこかで聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
けれどそれでも1つの夢が叶い、好きだという感情に気づいた俺はわからない。
「稔」
彼が今正常じゃない思考でも聞こえた彼女の名前を呼ぶと、その子……大一葉稔は彼の声に引き寄せられるように彼の瞳をジッと見るが、その表情は少しだけビックリしていた。
今日初めて会ったのに、知っているような気がし、やたら可愛く見えてしまう。
「う、うん?」
いきなり彼から名前を呼ばれ戸惑いオロオロとしている稔の目を、ジッと視る。
「あ、あの……えっと、その」
頭に血が上がり過ぎて、すでに彼の感覚はぽうっとしていた。
だから自分でも、自分のしている動作に、その直前まで気がつかなかったのだ。
おかしいのに、やめられないと感じ、俺の中でブレーキがイカレちまったのだ。
俺は自分の顔を近づかせて、いつのまにか、稔の顔がすぐそこにあった。
病室に来たであろう2人は何も言えず佇み、稔自身も目を丸くして驚いてる。
あっ……と機能した感情で思ったが、時すでに遅し。
なんだか吸い込まれるような感じで、彼と彼女の唇が触れた。
すごく驚いてる稔を強く抱きしめると、俺はいきなりキスをしていたのだ。
今日初めて会って事情を訊いてただけなのに、俺はその子を、抱擁し接吻した。
本当にこんな展開はライトノベルでしかないと思ったが、実際にあるんだな。
「む、む~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
刹那、2人の女の子の悲鳴がすぐそこと部屋のドア近くから聞こえる。
そしてもう1人の男の子の呟くような驚きも聞こえるが、知ったこっちゃない。
本当は今日初めて会ったのに好きになっちまったとか、ロマンティックでドラマチックなことでもカッコよく言ってみたかったが、どうやったら俺の燃え上がり血が滾り身を焦がすほどに熱くて熱くてたまらない気持ちをありのまま伝えられるのか考えてみて途方に暮れた。
俺には俺の中で蠢いて熱されている歌詞でしか言葉で表現はできない。
どうやったって、言葉でこの熱情の気持ちを伝えられるとは思えない。
そう頭で理解したときにはもう、俺は稔を抱きしめ、キスをしていたのだった。
本当に理解できた俺としては、こんな展開信じがたいと自身で思えるものだ。
「~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
稔は驚いて未だ俺の目を見開きながら状況を把握できずにいる。
長いまつ毛がわななき、宝石のように美しい瞳が俺を見つめている。
その目を見て、はじめて俺はひどい動揺に襲われ焦りで冷や汗をかく。
稔と唇を合わせていることにハッとして、慌てて唇を離し距離を取る。
俺は戦慄しそのままひどく狼狽える。
おいおい、今日会った女の子といきなりキスするなんてハチャメチャすぎるぞ!
しかも今にも誰かが病室に訪れそうな危険地帯のど真ん中で!
「いや、あの、これはその……えーっとっ」
俺は狼狽えるあまり、謝ることも弁解することもできないでいた。
目の前にはいきなり見知らぬ俺にキスされて泣きそうになっている稔。
その顔が可哀そうだと普通は思うのだが、またえらく可愛くて妖艶だ。
そうだ、俺は別に間違ったことはしていないし、むしろ健全な行動だ。
目が見えるようになった稔がこんなに可愛いから、俺はキスをし抱擁したのだ。
俺はひどく動揺し泣きそうになっている稔を見据えて胸を張った。
そして、俺の中に決意を抱き全身全霊を込めて、力強くその言葉を伝えた。
「稔! こんなこと言うの可笑しいかもしれないが、俺、お前のことが好きだ!」
「ふえ? ……ふえ、え、えっ?」
泣き崩れそうになる稔の体をすぐ近寄り支え、彼女は顔は唖然とする。
天使のように真っ白く可愛い顔が、かあっと赤くなっていくのがわかる。
照れているのか興奮して体が火照っているのか、両方なのかわからない。
「俺、お前のことが好きだ! 太陽と天照大神のような、関係を作ろうっ!」
俺はもう一度告白をした。
さっきよりもさらにはっきりと、しかも関係を作ろうとも付け足す。
太陽の様なシンガーソングライターと天照大神のような可愛い女の子。
最高に相性が良いし、なにより肩書もよくて素晴らしいじゃないか!
しかし俺の考えているそれとは裏腹な状況を彩られる。
稔は泣きそうな顔で驚いたまま、固まってしまっている。
その艶めかしく吸い込まれそうな可愛さを放つ姿を間近で見て、なぜか、ああやっぱり俺は心の底から表裏関係なくこの子が好きになっちまったんだなと再確認させられた。
「うわぁ……」
静まり返った病室に、誰かからのマヌケでのんびりとした声が響いた。
俺はその言葉をやっと理解し、すぐさま後方を振り向く。
そこに居たのは数少ない友人の日向健二と、これまた見知らぬ女の子。
しかしケンと一緒にいるということはきっとこの子とも知り合いなのであろう。
それにその後ろにはケンの両親とその子の両親であろう人間、医者も看護師らもいた。
えっ……あれ、ちょっと待ってくれ?
ケンと知り合いで、今メチャクチャ闘志を燃やすドアの前の女の子も同類。
んで、彼女の病室に来たってことは、この子もケンとあの子の知り合い?
…………えっ?
つまり、どういうことなんだろうか?
「な、なにをやってるのよアンタはっ!?」
いち早く我に返ったケンの隣に佇んでいた女の子の怒鳴り声。
そして俺のとこへと素早く移動し、抱きしめてた稔と引き剥がす。
『おおおおおおおっ!?』
続いて正気に返った両親と医者と看護婦たちが一斉に黄色い声で、病室はひどい喧噪に世界が包まれその躍動の中で、稔は友達である俺に怒鳴り散らした女の子の腕の中で放心状態に陥る。
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