259曲目
仲の悪い親子でも、唯一無二の親子の仲。
失ってからじゃ遅いからこそ、儚く尊い。
田舎の景色を横目にロードレーサーで颯爽と走り抜き、歩道を歩いている人が楽しそうに話している会話風景や俺の隣を通り過ぎる車の後ろを見送りながらも見えない翼で音もなくすべてゆくように、走りながらも体を鍛えるのに最適なロードレーサーのペダルを踏む足をとめて、静かにかつ猛スピードで坂道を下って行く。
ソウの実家である寺と旅館での肉体的と精神的にも鍛えられたからの実績なのか、体力的な疲れもあまり無いように感じたのだが車が横切ることに対抗心が無意識に発揮され、なぜか街の方角まで続く道路のレースみたくなってしまった。
「はぁ、はぁ、きつい、車スピード出しすぎだろ……捕まるぞ、アレ」
親としての威厳も少ない親父から不躾な頼まれごとを問答無用に押し付けられながらも家を出て、普通なら歩いて2時間かかり電車だと45分、そして車だと30分以内に辿り着きロードレーサーでも全力で飛ばしても30分以降は掛かるのになぜか30分を切って町にようやく到着。
車とのレースのおかげで回り道をしてしまい、短い旅路に出てた気分だ。
夏休みの最中にお寺での修行によって日頃の運動不足から解放されて、すっかり筋肉質な体になった俺にも先ほどのデットヒートレースにはかなりきついものがあるようで、息が乱れ方が尋常じゃなくて肺が痛むのも仕方がない。
もう真夏の季節が通り過ぎてすっかり秋の雰囲気がしている世界の中で汗が出てペダルを漕いだ足も重たくなって、これ以上はロードレーサーに乗って走りたくないとさえ脳裏に過ってしまった。
そう頭の中では考えるものだが、まだこれからが本番だと思い知らされる。
まあ、ロードレーサーの走り漕ぎで体が引き締まるからいいんだけどな。
これも修行の一環だと、寺での合宿が終わっても志を持つのを忘れない。
後1つ忠告しておくが、俺の言う街とは、白神郷の中の都市部のことである。
お袋の体内から生まれたときから俺が住んでいるとこの住宅街も一応街は街なのだが、見た目と人並みの喧騒を昔も今も変わらないとこを見受けられる俺としては、疲れた体に鞭を打ってロードレーサーにまたがりペダルを漕いで走らせて、過ぎ去る風景が目に映っているこっちの都市部の方を街と呼んでいる。
家族や知り合いがそう言っていたから、自然と都市部と言うようになっていた。
まぁ道化師にサーカス見に行くと言っているようなものと同じだろう。
とりあえず田舎となる住宅街から出た俺は都市部となる郷並みを見渡しながらも、投げやりに親父から頼まれた物とついでに自分の買いたいモノも買うために、まずは本屋に向かった。
目的地近くにある自転車置き場へとロードレーサーを置いた。
辿り着いた本屋の中は祝日ということもあって人が多かった。
基本店内には人が行き交っており様々なジャンルで並んだ棚にも興味のある本を取っては立ち読みしいている人がいて、その間の道を通るだけでも一苦労だがどうやら俺の体中からオーラが漂っていたようで、逆立った真っ赤な髪に初対面の人から『なんだアイツ、絶対に人1人〇ってそうな顔つきしてる』って言われたことのある普通でも厳つい顔で見てるとそそくさと立ち読みをしている人が無言で幅を広げてってくれた。
おお、道を開けてくれるとはありがてぇじゃねえか。
俺はそんな道を通り、車種関連の本がドンとおいてあるの棚に到着する。
様々な本がおいてあって、なにを買ったらいいのか正直良く分からない。
とりあえず、それっぽいの買っておけば無難だろう。
まぁこの"悪魔に魂を売ったフル改造4WD車種"、と言うのはやめておこうか。
手に取って興味なさげに表紙を見てみると、そこにはレーサーがサムズアップして魔改造とも思えるGT-Rが載っているけど、どうあがいても絶望としか考えられないヤバそうな感じをビシビシと出していた。
何かコレから犯罪の匂いがしてくるみたいなんだが、大丈夫か?
絶対コレ『ニトロ』かなにか搭載してたり、【ワイルドデッドスピード】って海外映画の車かなにかの類で、おまわりさんのお世話になるような隠しごとをしているに違いないって。
俺は車のチューニング系の本から隣にある【4WD】という項目の棚に移り、そこにバカ親父が指定した最新号の【GT-R・Magazine】の本を手に取った。
まぁこんなもんでいいだろう、車関係は興味が持てないし目的は1つ果たした。
そこで俺は漫画系統の棚へと足を進ませ、ライトノベルの棚に目移りしていると俺がもっとも興味のある【異世界転生】の欄で【熱奏バトラの異世界ライブ珍道中】という1巻のみの小説に惹かれ、導かれるように手に取り"買って読んでみるか"という強迫概念に囚われた。
ま、こういうのもたまにはいいだろう。
そう思った俺はソレらをレジに持き、購入した。
本屋を出て、俺は都市部でも名の知れた激安スーパーに入った。
そこで例のブラック缶コーヒーとアクエリアスを買い、外に出た。
30分とはいえ全力で漕ぎ走ったので俺自身少し疲れていたようだ。
ロードレーサーを漕ぎながら気づいたが、もう喉がカラカラだった。
視界に公園が映り込んでそのまま走る方向をソコにして道路を走った。
俺は公園の中に入ってベンチに腰を下ろし、アクエリアスを口にする。
運良く熱くも寒くも無い感じだったため、結構快適に過ごせると察した。
1通り体に水分を摂ってから、俺はベンチに立て掛けたアコギのギターケースに手を伸ばしチャックを開け、そこから小学高学年の頃から使い込んで年季の入ったアコースティックギターを取り出しおもむろにギターのコードを弾いて音を確かめてから、いつもと同じく歌も取り入れて人の目も気にせず気楽に弾き語りの時間に入った。
公園で散歩したり遊ぶ人たちの視線が突き刺さる中、俺は思う。
今この瞬間も俺自身しっかり前を向いて生きてるんだって実感だ。
音楽のこと以外に面と向かって接してる自分は嘘偽りそのものだ。
そこに親身になれるようなことはないし、何よりなんの達成感も無い。
ソレは空虚のような気持ちになるだけで、虚無の彼方に飛ぶだけの鳥だ。
だけど今のように路上ライブをしてたり笹上さんたちとセッションしてたり、合宿中にSol Down Rockersでのメンバーたちや稔たちと気兼ねなく音と戯れていたときや、キラキラと煌びやかに映るステージとギラギラに燃え盛る炎の如く照らす太陽の音で奏でている瞬間こそ本当の自分がいるみたいだった。
公園内から妬みや嫌味、残酷なまでに冷徹な心で突き刺す人々の視線の数々。
それは当然の結果であり、1人で弾き語りする人間の勇気を踏み散らす行為だ。
ある者は指を差し、ある者は笑いのタネにし、ある者は見るだけで去っていく。
それこそが日本人の本質であって紛い物でも何でもない、真実な形だった。
でもそれでもいいと思えるし、もっと成長できる結果を教えてもらえる。
だからこそ精一杯弾いて、一生懸命歌って、しっかりと未来を見て笑い歩む。
目標を持ち続けて決して折れない大樹の想いがあれば、人は変われるもんだ。
1つ1つのコードと歌詞を唄い綴っていくと浮かび上がる。
学園でも聖書の授業を担当している牧野先生から習っていたことがあるが人間の中には魔物が住み着いており……あらゆる拒絶の光景や心情に迫られた場合に生まれる悲哀、恐怖、狼狽、残酷、墜落、破滅、破壊、絶望、悪夢、閉塞、没落――そしてその根源で原点である"憎悪"。負の感情が芽生えるという。
このような経験もしたくなくとも、この先の人生に必ず起きるだろう。
変な話、学生たちが好んでいるゲームやアニメなどにも共通する話だ。
よくある異世界系のアニメやライトノベルで出て来る魔王軍の魔物や魔王というのは、見た目こそ醜悪で考えが狡猾だったり悪魔に魂を捧げたかのような美男美女のような姿形をしているというが、結局は人間の中にある負の感情が具現化しその人間の姿なんじゃないかとも思える。
だがそれって、悲観的になる人々には安らぐ心の拠り所が無いんだ。
だったら、俺がその拠り所になればいいだけだ。太陽のような人間に。
独裁者的で偏見な考えだとしても俺の大好きなロックの歌とギターで、太陽の象徴と同等なる人間になれれば例え今は1人2人しか元気付けてやれなくても、シンガーソングライター時代のように諦めずに努力を積み重ねると共に背中を押してくれる仲間の後押しも加われば、日本中や世界中で哀しんでいる人を助けられるかもしれない。
あのときの俺みたいな、惨めな人間を出したくないからこその強い覚悟。
無理だと言われても可能性が【0】じゃないんなら、押し通す価値はある。
1度そう考えて決めつけてしまうと、なんだか体に力が急に湧いてくる。
俺は自然と笑顔になり、魂の奥底から熱いなにかが込み上げてきた気がした。
誰も聴いてくれず立ち去る中、オリジナルを挑戦して弾き語りをする繰り返し。
陽が暮れるそのときまでずっとアコギを抱え弾いて、歌って、時間を過ごした。
ご愛読まことにありがとうございます!




