258曲目
無謀な策でも、可能性はゼロじゃない。
人間は諦めず挑み続ければ、可能性は増える。
それは人と人との絆すらも……。
俺は健二と奏音の2人と別れてから駅前まで行き、CDショップに寄って最新のCD情報を見たりゲームセンターによって人気音楽ゲーム『Rock"n"Roll=Smith』で3つのボタンのみで簡単にできるギターを演奏してみたり、郷の中をブラブラと立ち寄りながらも自宅へと戻った。
親父が自室で野球中継をテレビで寝っ転がりながら見ている姿を横目で見ながら廊下を歩き、木造の階段をギシギシと軋む音を立てながら登って、すぐ近くにある自分の部屋の扉を開けてから身を入れて閉めた。
健二から譲り受けたレスポールを使っていないギタースタンドを引っ張り出して立て掛け、そのままベットにダイブするように飛び込んで弾力によって1か2回ほど体が跳ねるのを感じながらも、何気なくカレンダーの方を見ると気づかされたことがある。
今日は珍しく笹上さんとこのバンド練習がない。
それに加えて今日は祝日とのことなので、学園もない。
健二と奏音が【エテジラソーレ】に来たことで気付くようなものだが、俺はここ最近自分の生きる道を進むための惜しみない努力と笹上さんの厚意によって【New:Energie:Ours】でのセッションなどで忙しく、学生の本分である勉学も登校もしてないためにそういった感覚が麻痺しているようだ。
もう時間からして午後に入ったばかりだが、こうなにもすることがない1日オールフリーというのがわかると、体の熱がふしふしと沸き上がり居ても立っても居られない感じになってしまうのは社会不適合者となり真人間から遠ざかって、真のバンドマンとしての目指す道へと足を踏み入れてしまったからか。
いや、ほんとなにしようか。
今日1日することなさすぎて、逆に暇すぎるんだが……。
ヤバい、なに1つ暇を潰せる方法が無くて窮地に居るんだが。
あー、ちゃんと笹上さんに連絡を入れとけば良かった。
俺のバカ、何でセッションか練習を入れなかったんだ。
クソッ、セッションしたいぜぇぇぇ~、音楽に酔いしれたいぜぇぇ~。
爆音を轟かして核弾頭よりも爆発力のあるSoundで演奏したいぜ。
そう考えてしまう俺はもう末期だな。
勉学をするって普通の人間特有の活気が湧かないからな。
もうバンド人間からライブ馬鹿にシフトチェンジしてるぞ。
でもまぁ、こうなったのは事実なんだし受け入れるべきだし今日という日を決して無駄にしないように、しっかりと休日の午後を心往くまで満喫するか。
よっしゃあ、それじゃあ、俺は今からなにをしようか……。
音楽はいつも聴いてるし、歌もギターも練習しているしな。
たまには違うことをしてみるってのもいいかもしれんし、そういうものから音楽性のインスピレーションを感知するってのもプロの人がインタビューとかで話していたことがあったもんだから、俺も例外じゃないんだろう。
よし、ここは一休さんの頓智並みに策を練ってみるか。
……………………。
ヤバい、まじですることないんだが、なにをしたらいいのか……。
というより外で気兼ねなくアコギで弾き語りをしたい感情に駆られる。
駅前で路上ライブするか、噴水広場で弾き語りをするかで悩んでしまう。
別に音楽以外でも俺には楽しみがあるとすれば家の中でライトノベルや漫画を読んだり、パソコンで動画見たりゲームをやったりしてもいいけど、学生としての領分から外れているとはいえ休日として何か物足りないしな。
よし、やっぱりもう1回外に出てどこかでアコギでも弾いて歌うか……。
1人だとなんか物足りないが、今のとこ誰か一緒に行ける人いないしな。
奏音も多分ケンを家まで送ってからそのまま稔と【二時世代音芸部】のヤツらと合流して一緒にいるだろうし、笹上さんは駄菓子売るのに忙しいし他の【New:Energie:Ours】のメンバーとはあんまり接点無いから会ってもしょうがないし、アッキーとソウとも忙しくて顔合わせるのも難しい中だとすると俺には他の友達がいないから限られるんだが。
仕方ない、今日は1人で散歩がてら郷を回って弾き語りでもするか……。
結局やることは変わらないってのもテンプレート通りだな、俺ってヤツはよ。
俺は寝間着から適当な服に着替え始める。
すると、今しがた野球中継を見てたばかりらしい親父が感づいた。
なんだか眠そうな顔のまま、俺の顔を見てはこちらに近づいて来る。
「ん~っ? なんだお前、どっか行くのかよ?」
酒と煙草と車と賭け事が趣味で、ゾンビ風の親父の声はもうガラガラだ。
歌い疲れとかそんなじゃなく、ただの煙草の吸い過ぎと酒の飲み過ぎである。
クソッ、お袋と暁幸が家を出てから本当に落ちるとこまで落ちやがったな。
「あっ? ……おう、ちょっとそこら辺を散歩がてら弾き語りをしにな」
「そうか、まあ最近は交通事故とかいろいろ多いから、車に気を付けろよ。あ、それじゃあついでに悪いんだが、夜勤に必須となる眠気覚ましの【飲んだら1発で目覚める君!】ってブラック缶コーヒーと最新号の【GT-R・Magazine】買ってきてくれねえか?」
ウチの親父は3交代で車の整備士をしているらしい。
元々お袋が家にいた頃は本当に仕事熱心に取り組み、平社員から1級ディーラーとかなんとかお偉い役目まで登り着いて社長からも頼りにされていたようだが、あの一件以来からまるで表と裏みたいに生き甲斐を失って仕事も休みがちになったり仕事中サボったりするようになった。
普通ならそれでクビにされるのだが性根は腐ってても腕と実績が本物とのことで、社長からも未だに信頼されているというなんとも前代未聞な関係性を築いているんだと言いたくなるんだが、一応俺の学費とかもちゃんと払ってくれているので感謝はしていた。
そんな息子が学園を退学するだなんて言えば殴られるのは当然だろうが、俺としてももう意味も目標も感じられない学園に行き来してる生活でかかる学費から解放されるとなれば、この賭け事大好き道楽人間の親父は泣いて喜ぶだろうな。
俺の親父はお袋とケンカ別れしてからは自意識過剰を通り越して、情緒不安定になってかれこれ年数が経つが親としての威厳を取り戻そうと、いつもは怒声込みでの会話なのにたまにこうして物腰柔らかそうな態度で接してくるがもう俺はコイツのことを親として見れない。
だから、当たり障りのない他人じゃないが知人でもない曖昧な距離感を置く。
「ああ? ……仕事用の休憩に飲むヤツと読むヤツか。いやそれ白神郷の街方面まで行かなきゃいけないじゃん。俺近場を歩いてまわろうと思ってんだからイヤだぞ」
「いいじゃねえか、別にお前は仕事するわけじゃないんだろうが。俺はこれから夜勤のために寝なきゃならねえんだよ。そこら辺散歩すんのも少し遠出で歩くのもそんな変わらねえんだから行って来い。ふぁ~あ、ま、そんじゃ頼むわ」
息子からきびすを返して頭をかき片手をヒラヒラとさせている。
ああ、俺の言葉なんてアウトオブ眼中にしてやがるウチの道楽親父。
ヤツはそう投げやりに言った後、また自分の部屋に戻っていった。
どうやら夜勤の仕事まで二度寝を決めて休息をとるらしい。
いや結構変わるんだぞ、家からソコまで距離的には相当あるし。
街に出るんだったら、ロードレーサー使わないといけないんだが。
それに遠出する気分じゃないから、だいぶめんどくさいのだが……。
俺はそう返そうとしたのだが、親父はもう部屋のドアを閉めてしまった。
これがまためんどくさいパターンだ。
買ってこなかったら、帰ってからグチグチ言われそうだし、仕方ないな……。
当初の予定と大分狂っちまうけど、街までロードレーサーで行くとするか。
音楽のことばっかに煮詰めすぎな毎日なわけだし、視方と考え方を変えてインスピレーション取得も不足気味になっている俺には、ちょっとばかし街の方まで出向いて景色を眺めたりするのもちょうどいいかもしれない。
「親父、後でコーヒーの支払い立替えとけよなっ!?」
俺はそう閉まってる親父の部屋のドアへと向けて大声で叫んだ後、そのまま犬小屋をリッチにしたようなトタン小屋の玄関へと進みスニーカーに履き替えながらも中に入れてあるロードレーサーを引き、滑りの悪い引き戸の扉を思いっきり開け出てカギを閉めてからロードレーサーに乗り街の方へと走り出した。
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